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南海トラフM9地震は起きない?

日向灘地震と南海トラフ地震臨時情報

2024年(令和6年)8月8日16時42分、日向灘でM7.1の地震が発生した。
気象庁は、この地震で南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)を発表した。

気象庁の会見(NHK)

日向灘は南海トラフの西端に位置し、海溝型地震や海洋プレート内地震が起こる。1919年以降の精度の良いデータによると、マグニチュード7.0から7.5程度の地震が20年に一度程度の割合で発生している。
前回の大きな地震は1984年8月7日であったので、40年ぶり。

気象庁はこの会見で「マグニチュード7以上の地震が発生したあと、7日以内にマグニチュード8以上の大規模地震が発生するのは数百回に1回程度だ。異常な現象が観測される前の状況に比べて数倍高くなっている」と述べた。

これを受けて、テレビは一斉に「巨大地震注意」を報道。どのチャンネルでも画面に「巨大地震注意」の大きなテロップを出し続けた。これは国民の大きな不安を煽り立てた。

これを受けて、南海トラフの影響を受けるとされている自治体は、海水浴場を閉鎖し、花火大会を中止するなどの対応を取った。
お盆休みと重なった観光地は、キャンセルが相次ぎ、みんなが備蓄に走ったため、店頭から水や米が消えた。

1週間後の8月15日に臨時情報は解除された。店頭に米が戻るのには、新米が出てくるのを待つ必要があったが、地震へのみんなの関心は急速に失われていった。

地震発生確率

こんな騒ぎにすごく違和感を感じたので、ちょっとした計算をやってみた。

1904~2014年に発生した世界の地震データによると、マグニチュード7の地震後、7日以内にM8以上の地震が起きた例が1437回中6回あった。これが記者会見で「一週間は要注意」とした根拠である。

これをそのまま南海トラフに当てはめるのもどうかと思うが、これが正しいとして、一週間で大地震が発生する確率は、6/1437なので、0.4%である。
※すくなくとも日向灘地震が切っ掛けで、南海トラフ地震が発生したことは過去に観測されていない。

地震調査研究推進本部地震調査委員会によると、南海トラフ地震については、マグニチュード8~9クラスの地震の30年以内の発生確率が70~80%(2020年1月24日時点)である。これを1週間に換算すると、0.08%から0.1%になる。

上記の推定には多くの疑問があるが、仮に、これが正しいとしてみよう。

南海トラフ地震臨時情報の出ていた一週間に大地震が発生する確率は0.4%、一週間が過ぎた後は、0.08%から0.1%で、1/5に下がる。

だから注意するのはいいとしても、終わったら忘れていいのだろうか?

南海トラフ地震臨時情報解除の後は1/5に下がるとは言え、一年間の発生確率は、4%から5%になる。期間が長ければ長いほど発生確率は大きくなるのであるから、忘れていいことにはならない。

この一週間だけ、海水浴を禁止し、花火大会を中止することが、いかに無意味なことか。重要なのは恒常的な対策であり、このような一時的な騒ぎは、全く逆効果である。

南海トラフM9地震は起きない

そんなことを考えているときに、こんな本に出会った。

https://www.amazon.co.jp/dp/4910818197

1995年1月17日の阪神淡路大震災は全くの想定外であった。関西でこんな地震が起きるとは誰も思っていなかった。その後も、以下のような地震が発生しているが、いずれも想定外。地震学者による地震予知は全く当たらなかった。

2000年10月 6日 鳥取県西部地震
2001年 3月24日 芸予地震
2003年 9月26日 十勝沖地震
2004年10月23日 新潟県中越地震
2007年 3月25日 能登半島地震
2007年 7月16日 新潟県中越沖地震
2008年 6月14日 岩手・宮城内陸地震
2011年 3月11日 東日本大震災
2016年 4月14日 熊本地震
2018年 9月 6日 北海道胆振東部地震
2024年 1月 1日 能登半島地震

プレートテクトニクス

日本における現在の地震学は、プレートテクトニクス理論に基づいている。

「太平洋プレートやフィリピンプレートがユーラシアプレートにぶつかり、沈み込む。そのときに沈み込む面がずれて地震が発生する」という理論である。

この本の著者は、この理論がそもそも間違いであると言う。

例えば、中国四川省は、大地震が何度も発生している地域であるが、ここはプレートの沈み込み面から2000kmも離れており、プレートテクトニクスでは説明できない。

スーパープルーム

最近、「マントルトモグラフィ」という技術によって、マントル内部の温度分布がわかるようになってきた。これによって、地球の内部から地表に向かう高温の熱の通り道があることがわかった。

この通り道は煙のような形をしており、スーパープルームと呼ばれる。
地表での湧き出し口は南太平洋(タヒチ)と東アフリカである。
そして地下50kmあたりでは、環太平洋地域に熱い部分が点在している。

ウィキペディアより

熱移送説

著者は、マントルからの熱が岩盤を膨張させ、裂けることで地震が発生すると主張する。これは松代群発地震や人工地震実験などによって確かめられている。

スーパープルームによって南太平洋に上がってきた熱は、地中の隙間を見つけて熱の流れを作る。主な流れは以下の3つがある。

PJルート:フィリピンから西日本に向かうルート
 フィリピン、台湾、九州などの地震を起こす。たとえば熊本地震。
MJルート:マリアナ諸島から伊豆諸島を経由して東日本に向かうルート
 伊豆諸島や首都圏での地震に関連。
SCルート:スマトラ島から中国内部に向かうルート
 インドネシアや中国四川省の地震に関連。

地震は地下の温度が高いところでしか起きない。環太平洋で地震が多いのはプレートが衝突するからではなく、スーパープルームの熱が流れ込む場所だからである。

熱の移動ルートは固定しており、また移動速度もおよそ年間100kmと想定されるので、例えばフィリピンで地震が起これば、その何年後かに日本で地震が起こるなど、ある程度の予想が可能になる。

熱移送説が正しいとするなら、地震だけでなく、火山の噴火をセットで考える必要がある。

南海トラフでは、1944年の東南海地震、1946年の南海地震が連続して発生しているが、それに先立つ1935年から1940年にかけて、霧島火山帯、新潟、静岡、伊豆諸島などの活火山が活発になっている。
このように熱が溜まった結果、花崗岩でできた岩層が押し上げられて太平洋沿岸で裂けた。このメカニズムは東日本大震災と同じ。

著者は「いたずらに南海トラフの危険性を叫ぶのではなく、西日本地域の火山活動に注目することが重要」と訴える。

「30年以内に70~80%で南海トラフ地震が発生」はウソだった

地震臨時情報に関連して、東京新聞記者の小沢 慧一氏による次の記事が目に止まった。
「30年以内に70~80%で南海トラフ地震が発生」はウソだった

南海トラフの70-80%という発生確率は、他の地域とは違う計算式で算出されている。この計算式の根拠となるデータも信頼性に欠ける。

当時の地震調査委員会で地震学者たちは、全国で統一された計算方法を使って南海トラフの発生確率を20%に改訂する案を推していた。だが、分科会より上位にある政策委員会が「いまさら数値を下げるのはけしからん」と猛反発。地震学者たちがまとめた意見は一蹴された。

※30年で20%であれば、1年間の発生確率は0.7%で、50%の確率で発生する期間は93年になってしまう。「今世紀中に50%の確率で発生」というのでは危機感を煽れないということだろう。

「確率を下げると『安全宣言』と取られる」「防災予算が獲得できなくなる」というのが行政・防災側の主張だった。
「危機が迫っていると言うと、予算を取りやすい環境でもあった」
南海トラフは「予算獲得の打ち出の小づち」だった。

要するに、お金のために発生確率を水増ししたということである。

この結果、南海トラフ以外は安全という「落とし穴」が発生、自治体が対策を怠ることになった。

たとえば、2024年1月1日に発生した能登半島地震。ハザードマップでは、石川県内で2020年から30年内にマグニチュード6.5以上の揺れが起きる確率は「0.1~3%未満」だった。

2016年4月の熊本地震、2018年6月の大阪府北部地震、2018年9月の北海道胆振東部地震、2019年2月の北海道胆振地方中東部などに関しても、30年以内のマグニチュード7.0級の地震発生確率は、熊本が「ほぼ0~0.9%」、大阪が「0%から3%」、北海道が「ほぼ0%」「0.2%以下」だった。

南海トラフばかりに集中する弊害が顕著に現れている。

あるべき地震対策

だからといって南海トラフ地震はないということではない。そこだけに注目して、他を軽視するのが問題だということである。

プレート説、熱移送説、どちらが正しいにせよ、「いつ」「どこで」「どんな規模の」地震が発生するかを予想することは、現時点ではほぼ不可能である。天気予報とは違って、メカニズムもよくわかっておらず、地中のデータもほとんど入手できない。

間違った理論にもとづく、お金目当ての研究では、予知などありえない。

将来的には、いろんな説に基づいて大量のデータを集め、AIなどを使って分析すれば、ある程度の予想ができるようになるかもしれない。

しかし今できることは、いつ、どこで大地震が発生するかは予知できない、日本全体が危険と覚悟を決めて、「強靭化」することしかない。
建物の耐震構造を進め、道路、鉄道、通信、エネルギーなどのインフラを、地震に強いものにしてく。また災害発生時の迅速な対応や復旧ができる体制を整える。

能登半島地震の復旧が遅々として進まない一方で、南海トラフという名目で大きなお金が動く。何かおかしい。

修正履歴

2024.9.2
30年に70-80%の確率を一週間の発生確率に換算する計算の間違いを修正
正しくは、0.08%から0.1%、一年では4-5%


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