死は存在しない:ゼロポイントフィールド仮説
こんな本を読んで、色々と考えてみた。
これまでのスピリチュアル本と違うのは、著者が原子力工学の博士という、バリバリの理系で唯物論者であること。その著者が最先端の量子科学で、死や意識にアプローチしようとしたのが、この書である。
唯物論である現在の科学は、死は無に帰すことであり、「死後の世界は存在しない」と主張する。
一方、宗教では「死後の世界は存在する」と主張する。
全く相容れない主張でありながら、どちらも、その根拠を述べていない。
そのどちらも心から信じきれない自分がいる。
著者はある講演会で聴衆の質問に、次のような答えをしている。
質問:死とはなんでしょうか?
回答:その問いに答えるためには、もう一つの問を問う必要があります。
私とは何か?
肉体としての私、自我意識としての私、自我意識を超えた超自我意識としての私、、、私とは何かによって、答えが変わる。
現代科学の3つの限界
1.要素還元主義の限界
現代科学は、対象を要素に分解し、その要素を分析した結果を総合すれば、その対象を理解できると考える。
しかしながら多数の要素が相互に作用すると、「創発」という複雑な現象が生まれる。この現象は要素からは理解できない。脳細胞を詳しく分析しても、意識を知ることはできない。
2.物質消滅
物質を分子、原子、素粒子と分解していくと、最後に物質はなくなる。量子力学によると、素粒子は波動関数で記述される「波動」であり、「エネルギー」である。「固いもの」など存在しない。
3.説明不能
科学では説明できないことが数多くある。たとえば重力と電磁気力の強さ、電子、陽子、中性子の質量などの自然定数が、なぜ今の値なのかを説明できない。これらの値がほんの少し異なるだけで、この宇宙は生命を誕生させることができない。(※注)
生物は突然変異と自然淘汰で進化したというのがダーウィンの理論であるが、定量的に計算すると、人間のような知的生命が誕生するには、地球年齢の46億年を遥かに超える年数が必要となる。
鮭やうなぎなどの魚が生まれた河川に戻る現象、伝書鳩や渡り鳥の帰巣能力など、他にも科学で説明できないことが山ほど存在する。
※注:マルチバースと人間原理によって自然定数の謎を説明できるという説がある。宇宙が無限にあれば、今の宇宙のようなものもできる可能性があり、そこで人間が誕生する。そして人間が観測するのは、そのような宇宙だけである。他の宇宙には人間がいないのだから。
意識の謎
そしてなによりも根源的な問題は、なぜ物質から意識が生まれるのかを説明できないこと。「脳神経の作用で意識が生まれる」との説明に、多くの人が疑問を抱いている。もしそうならAIも意識を持つことになる。
意識の不思議な現象はいろいろある。
誰かの視線を感じる
以心伝心
予感・予知
既視感(デジャヴ)
シンクロニシティ
直感
思考は現実化する・引き寄せ
臨死体験・幽体離脱
前世の記憶・生まれ変わり
霊媒・死者との交信・背後霊
いずれも現代の科学では、気のせい、たまたま、嘘、などで片付けられてきた。
ゼロポイントフィールド仮説
これらの謎への回答、宗教と科学の断絶に橋をかける試みとして、著者はゼロポイントフィールド仮説を提案する。
この宇宙に普遍的に存在する「量子真空」の中に、「ゼロポイントフィールド」という場があり、この場に、この宇宙のすべての出来事、すべての情報が記録されている。
これらの情報は、波動情報として、ホログラム原理で記録されている。
宇宙は真空から生まれた
何もないところ、物質はもちろん、空間も時間もないところ、これを「量子真空」と呼ぶ。量子真空には何もないように見えるが、実は真空エネルギーという莫大なポテンシャルエネルギーがある。今の宇宙ではダークネルギーに相当する。
量子真空では、量子ゆらぎにより、素粒子が生まれては消滅するということが繰り返されている。そしてたまたま大きなゆらぎが起きたとき、あるいはトンネル効果が発生した時、そのゆらぎはごく小さな、原子よりも遥かに小さな宇宙の卵となり、指数関数的に膨張する。
その膨張はものすごく、10のマイナス30乗秒のような瞬間に、原子より小さな卵が、太陽系、あるいは銀河ほどの大きさにまで膨張する。これをインフレーションと呼ぶ。
インフレーションの結果、莫大な真空エネルギーが解き放たれ、宇宙全体が火の玉となる。これがビッグバンである。ビッグバンの後も宇宙は拡大を続け、138億年たったのが、現在の我々の宇宙である。
この概念は、般若心経における「色即是空、空即是色」など、空や無の概念や、旧約聖書における「神は光あれと言われた。すると光があった」などと同じである。昔の人はどうやって、宇宙の誕生を知ったのだろう。
インフレーションやビッグバンからわかるように、量子真空には今の宇宙を生み出すエネルギーが潜んでいる。最近の研究では、宇宙は一つではなく、継続的に、ほぼ無限に生み出されているという。これがマルチバースである。
量子真空は、どこか遠くではなく、この宇宙のすべての場所に、普遍的に存在している。
これだけの無限とも言えるエネルギーがあるのであるから、この宇宙のすべてを記録することは、ありえないとは言えないだろう。
ホログラフィック原理
ヘブライ大学のベケンスタインは、ブラックホールのエントロピーについての研究から、「ブラックホールは事象の地平面の面積に比例したエントロピーを持つ」と1972年に提唱した。
ベケンシュタインの説をさらに推し進めたのが、ノーベル物理学賞受賞者のゲラルド・トフーフトやスタンフォード大学教授のレオナルド・サスキンドである。彼らはブラックホールの原理から、「この現実世界にあるモノ・コトのすべては、どこか遠くにある二次元平面に書き込まれたデータの投影にすぎない」という結論を導き出した。
こんな話を聞くと、ゼロポイントフィールドというのがあってもおかしくない、という気になってくる。
この世のすべては波動
量子力学によると、我々が物質と思っているものの実態は、エネルギーや波動にほかならない。重いものや固い物質と感じるのは、我々の日常感覚がもたらす錯覚に過ぎない。
電子やクオークなどの素粒子の正体はエネルギーの振動であり、波動である。この世の中のすべては、目に見える物質だけでなく、目に見えない意識のようなものも含めて、その本質は波動であり、波動と波動の干渉である。
その波動をホログラフィック原理のような形で「記録」すれば、宇宙のすべてを記録したことになる。ゼロポイントフィールド仮説は荒唐無稽とは言えない。
ゼロポイントフィールドと同じビジョンは、仏教の唯識思想における「阿頼耶識」、古代インド哲学の「アーカーシャ(アカシックレコード)」などで語られている。
ゼロポイントフィールド仮説が正しければ
ゼロポイントフィールド仮説が正しければ、このフィールドには、この宇宙で起こったすべての出来事、すべての情報が記録されている。
この宇宙が誕生し、銀河が生まれ、太陽の誕生、地球の誕生、生命の発生、人類の誕生、あなたの誕生、あなたがどのような人生を送ったのか、何を考え、何を思い、何を感じたのか、これらすべてが記録されている。
そしてこれらの記録に、なんらかの形でアクセスできるとするなら、不思議と感じられたすべてのことについて、説明がつく。
我々の意識が、脳あるいは身体全体の量子状態であり、量子状態であるがゆえに、ゼロポイントフィールドにつながることができるとすれば、前世の記憶も、直感も、すべて論理的に説明できる。
そして過去のすべての情報にアクセスできるなら、起こり得る未来についても、ある程度予見できることになる。
ゼロポイントフィールドは宇宙意識
我々が生きて活動している間、思考も含めて全ての活動はゼロポイントフィールドに記録されつづける。そして、肉体が死を迎えても、これらの記録は永遠に残り続ける。
ゼロポイントフィールドは、化石のように、過去を記録しているだけではない。それは波動であるがゆえに、常に相互作用を続けている。その意味では、「記録」というより「記憶」というのが真実に近い。
常に、新しい情報を取り込みながら、記憶を更新し続ける存在。波動の相互作用を行う存在。それはまさに「宇宙意識」と呼ぶにふさわしい存在である。
ゼロポイントフィールドは、宇宙の記録にとどまらず、宇宙の意識であり、深層世界である。現実世界とは違って、ゼロポイントフィールドではエネルギーの減衰が起こらないため、永遠に全ての情報が残り続ける。
またゼロポイントフィールド内での情報伝達は瞬時であるため、情報の相互作用が極めて容易に起こる。
つまり宇宙は、物理現象として現れている現実世界と、現実世界の過去から現在までの全ての情報を持つ深層世界の二層構造になっている。
それは一人ひとりの個人についても同じである。
一人ひとりは現実の自己と、それに対応する深層自己の二重構造になっている。深層自己につながることで、意識の不思議現象が起こる。
肉体としての身体がなくなっても、深層自己はなくならない。
そして深層自己は、肉体がなくなった後も他の情報との相互作用を続ける。そういう意味では、生きている意識として存在しつづける。
生きている間は、身体の生存のため、自我によって宇宙意識のごく一部の領域を「自分」として囲っているが、死後は、身体を守る必要がなくなるため、自分と他人との境界は曖昧になっていく。
身体がなくなることで、これまで「自分」と思っていた領域が、宇宙意識の一部であることに気づき、意識の範囲がどんどん広がっていく。
このようにして自我が消えることで、すべての苦しみも消えていく。
意識とは何か
ゼロポイントフィールドは宇宙意識である。
そして、自己意識(深層自己)は、そのうちの一部の領域である。
ゼロポイントフィールドは、過去から現在までの全ての波動の記憶であるが、それはまた「波動」である。
つまり意識とは、ゼロポイントフィールドにおける波動のパターンである。そういう意味では、原子も含めた全ての存在が意識を持つということができる。
もちろん原子の波動パターンは極々単純なものであり、人間の波動パターンはものすご複雑なものになる。地球も、それ以上の複雑な波動パターンを持つことから、地球も意識を持っていることになる。これがガイア仮説である。
138億年の旅路
138億年前、この宇宙は量子真空から生み出された。誕生直後、この宇宙は光で満たされ、その後、宇宙が冷えて行くにつれて、水素やヘリウムなどの原子が形成された。この次点で最も原始的な意識が生まれた。
それから138億年をかけて宇宙は、自己組織化、複雑化、高度化、進化をとげ、一つの惑星の上に人類を生み出した。
我々の意識は、このような人類の意識に過ぎないが、宇宙は、原始的な意識から、無数の惑星での微生物、植物、動物、そして人類などの意識を統合しながら、高度な意識へと進化してきた。
我々が死んだ後は、意識の主体がゼロポイントフィールドに移り、宇宙意識へと戻っていく。大いなる帰還である。
私とは宇宙意識の見る夢
量子真空はなぜ、この宇宙を生み出したのか
なぜ、この宇宙は、この旅を今も続けているのか
筆者は次のように答える。
宇宙の歴史とは、量子真空が「自分とはなにか」を問い続ける過程である。
ビッグバン直後の極めて原初的な意識から、138億年をかけて、地球上に人類という高度な意識を持った存在を生み出した。
これは宇宙意識の進化の旅路でもある。
自分の中に眠る可能性を開花することこそが、「自分とはなにか」の問いに答えることである。宇宙の歴史は、量子真空が本来の自己を知っていく過程である。
「私とは、この肉体である」と信じるなら、死は明確に存在し、必ず訪れる。
「私とは、この自我意識である」と信じるなら、意識がゼロポイントフィールドに移った後、自我意識である私は次第に消失する。
「私とは、宇宙意識そのものにほかならない」ということに気がついたなら、死は存在しない。
現実世界を生き、肉体と自我意識に拘束された個別意識としての私は、宇宙意識が138億年の旅路の中で見ている一瞬の夢にほかならない。
一瞬の夢から覚めた時、私は自分自身が宇宙意識に他ならないことを知る。
しかし、宇宙意識が見る夢は、ただの夢ではなく、現実世界を生み出す夢である。それ故、自分という存在が宇宙意識であることに気がついたとき、その夢の物語を変えていくことができる。
喜びや幸せもありながら、苦労や困難に満ちた、この人生。
いかなる苦労や困難があろうとも、一度限りのかけがいのない人生。
あなただけに与えられた尊い人生。
されば、その一瞬の夢を素晴らしい夢に。
幼年期の終わり
ゼロポイントフィールド仮説が受け入れられ、科学と宗教の融合が成し遂げられたとき、人類の「前史」時代、人類の幼年期が終わる。
我々人類が真に挑戦すべき課題は、我々の「内」にある。我々の心の奥深くにある「意識の謎」を解き明かすことである。
その挑戦に成功した時、人類の「本史」時代の幕が開ける。
感想
なんともスケールの大きい書籍である。
これを真に理解するには、宗教や哲学の教えへの理解、量子力学、超ひも理論、宇宙論など、最新の科学などへの理解が必要である。
ゼロポイントフィールドが、どのような仕組みで、全てを記録しているのか、はたまた、ゼロポイントフィールドにアクセスする仕組みはどうなっているのかについては、詳しく書かれていない。漠然と波動、ホログラフ、量子科学などと書かれているだけである。ここに触れるとあまりに専門的になりすぎるのを避けたのであろうが、科学者なのだから、もう少し触れてほしかった。
とはいえ、死とか意識という誰もが持つ疑問に、正面から挑んだ本であり、いわゆるスピリチュアル本とは一線を画している。
これまでに読んできたスピリチュアル本に書かれている内容、仏教などで語られている世界の仕組みなどに、仮説とは言え、理論的な裏付けを与える本である。
著者が言うように、宗教、哲学、科学を総動員して、意識の謎を解明してほしい。