
【第3回】未開の地にAIが飛び込むとどうなる?
――一足飛びの発展か、新たな搾取か
2025年2月17日付:AI管理社会を探る(連載第3回)
前回までは、ビッグテックが世界で台頭し、権威主義国家がAIを活用して国民を監視するシナリオを中心に見てきた。では、インフラが遅れている発展途上国や未開の地はどうなるのか。大規模な電力網や通信回線が整備されていない地域に、いきなりAI技術が入り込めば、従来の「段階的発展」をすっ飛ばす“飛び越え”が起きるかもしれない。一方で、先進国や大手企業による“デジタル植民地主義”の懸念も根強い。
■基盤インフラがないからこそ“飛び越え”が加速?
ある専門家は「携帯電話が一気に普及したアフリカや南アジアの例は、固定電話を整備する段階を飛ばした“リープフロッグ”の典型だ」と語る。そこでAI技術も、同様の現象が起きる可能性を指摘する。すなわち、農村部や都市スラムであっても、低コストの衛星インターネットや太陽光発電を利用すれば、クラウドAIにアクセスできる環境が整いやすいという。
具体例:スマホやタブレット端末を使い、農産物の適正価格や需要をAIで算出し、流通を効率化したり、病害虫被害をドローンが検知して予防したり。
効果:農家の所得が向上し、教育や医療サービスもオンラインで受けられるなど、生活水準を一気に底上げする事例が報告され始めている。
この種の取り組みはNGOや国際機関が主導する場合もあり、国によっては「国境を越えた支援で、未開の地が数年でイノベーションを体感する」場面が現実味を増している。
■“新植民地主義”の危険性
一方で、こうした夢のような発展には落とし穴もある。企業や権威主義国家が技術支援を名目に入り込み、実質的に地域のデータと資源を牛耳る可能性が指摘されている。
たとえば、大手プラットフォーマーが独自インターネット網やクラウドサービスを敷き、住民は無料で端末を支給される代わりに、あらゆる活動データが企業に吸い上げられる仕組みが構築されるかもしれない。いわば、“デジタル植民地主義”と呼ばれる状況だ。
例:農産物の流通をAIが仲介する一方、価格決定権を企業が握るため、最終的には農家が不利な取引を押し付けられる。
政府の影響:途上国政府が強い規制力を持たない場合、企業や外部勢力が地域インフラを管理し、政治への干渉も行いやすくなる。
■勝ち組と取り残される人の差が拡大?
「AIは万能でも、電力や教育リテラシーが極端に不足している地域では厳しい」との意見もある。ある山岳地帯や紛争地域では、そもそも衛星通信がカバーできないケースも多く、政府や企業が積極投資を行わないまま取り残される可能性が高い。
結果的に、都市部や一部資源のある地域だけ急速にAIサービスを享受し、農村・部族社会がさらに過酷な状況に陥る――そうした格差拡大シナリオも現実的だという。
■裏を返せばローカルな“AIスタートアップ”の芽も?
興味深いのは、途上国でも都市部の若手エンジニアが安価なオープンソースAIや衛星通信を駆使し、独自のサービスを立ち上げる動きだ。既存インフラにとらわれない分、逆にイノベーションの自由度が高いという見方もある。
大手クラウドに依存しない分散型技術や、ブロックチェーンを活用した自治体運営など、先進国が逆に試しづらい分野で成功例が生まれれば、“開発途上国発の革新”が世界を驚かせるシナリオも可能性がゼロではない。
■まとめ:二極化する未来か、それとも飛び越えて追いつくか
今回、第3回では「未開の地や途上国にAIが入ったら、一気に飛び越え成長があり得るけど、搾取も同時に進む懸念がある」という話を見てきた。
楽観的シナリオ:教育や医療、農業がAIの恩恵で効率化し、経済が急伸。大企業やNGOとの協力で未来が開ける。
悲観的シナリオ:大手企業や権威主義国家にデータ・資源を握られ、住民は新たな隷属状態に置かれる。
ブロック化・格差拡大:一部の地域だけが“AI発展”を享受し、他は取り残される。
どのルートを辿るかは、各地域の政治力や国際関係、そして住民自身の選択にもかかっているといえるだろう。
■次回予告
次回(第4回)は、さらに踏み込んで、資源とエネルギーの視点からAI管理社会を考察する。石油・レアアースなどの戦略物資をAIが「最適」に運用すると、いったいどんな影響が世界規模で起きるのか。国際政治や環境保護の絡みも含め、詳しく見ていく予定だ。