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思い出を未来の中に探しに行ったアイドルVtuberの話 / 天秤ひなみとカレンダーガール

天秤ひなみというアイドルVtuberについてずっと何か書きたいと機会を探っていたのだけど、昨日投稿された最新の歌ってみた動画の文脈があまりにもオタクにぶっ刺さるものだったのでそれを軸にやっていきたいと思う。アイカツ好きやアイドルオタク、個人勢Vtuberなどに関心がある人たちに届けばと思います。


昔話

むかしむかしインターネッツ王国に3人のカンパニー系バーチャルライバーがおりました。
ひとりは声量オバケの歌うまお姉さん。
ひとりはゲーム全般に造詣の深いゲーマーお姉さん。
ひとりは女児アニ、百合、アイドル現場などに傾倒するピンチケ系アイドル。
カンパニーでの活動を通して仲良くなった3人はコラボでゲームをしたり雑談したりプライベートも含め交流を深めてまいりましたが、やがて時は流れ3人共カンパニーを退社しインターネッツ王国から去っていきました……



そんなこんなあって少し経ったあと、インターネッツ王国にまた新たなバーチャルライバーが誕生しました。
Aq_arium所属の声量オバケの歌うまお姉さん多々星カイリと、個人勢で女児アニ、百合、アイドル現場などに傾倒するピンチケ系アイドル天秤ひなみ。
この天秤ひなみの配信の中では時折多々星さんや大好きなゲーマーの”友達”について言及されることがあるそうな……


個人勢Vtuberとセルフプロディース

天秤ひなみというアイドルVtuberの誕生について言及するならまず「アイカツ!」の影響について触れておかなければならないのだけど、本人がその経緯についてブログで語っているのでそれを読んでもらいたい。

アイカツで語られるテーマのひとつにセルフプロディースというものがあって、それは個人勢Vtuberの活動にも大きく関係している。
近年では個人配信の文化が成熟してきて、特にVtuber界隈に関してはインターネッツオタクの流れを汲んでいてメタ的な視点を好むライバーが多い傾向にあると思うので、企業系であろうとある程度上手にセルフプロデュースないしセルフコントロール出来ている人が多い印象はあるが、それでも企業系の人は大手を中心に作為的に作られたゲームの流行や配信スタイルや自社を中心としたコラボによって手厚くプロディースされ、大手ほど安定して勝ち馬に乗りやすいシステムというものが構築されている。そしてその反面、自分が本当にやりたいことを押し殺して活動しなければならない機会も多いのだろう。(芸能界やエンタメの本質自体がそういうものであるのだけど)
だからそういった作為的な流れに乗るのが難しくある意味残酷な自由さを持つ個人勢Vtuberほど、この業界で生き残っていくために自身の強みや時世の流れを汲み取りながらセルフプロデュースしてくことが重要になるしとても難しい部分である。

それらを踏まえ上で天秤ひなみのセルフプロディースは本当に上手いと思う。
”アイドル”Vtuberを名乗り自身も重度のドルオタとして活動する天秤のアイドルに対するこだわりはとても強く、それが活動の軸となっている。
定期的にアイドルソングの歌ってみた動画を投稿したりpixivFANBOXにて自身のオリジナルアイドルグッズを制作販売している。アクリルスタンドにオリジナルTシャツと普通のラインナップに加え、毎月絵柄が異なるランダムチェキ(当たりには直筆サイン入り)を制作販売しているというのはアイドルオタクの需要を抑えた天秤ならではの特色をいえる。(尤もオリTに関しても背面に天秤ひなみのTwitter IDのQRコードがデカデカと印刷された通称アホしか買わんTシャツと呼ばれているが)

正直天秤ひなみが今のところVtuber界隈でバズったといえるほどの実績はなかったと思うが、歌枠で特定の年代のオタクに異様に刺さる偏った選曲など、自分が好きなことと自分のオタクが喜ぶことを強く意識したアイドルVtuber活動をやっていて、オタクと良い相互作用の関係を構築出来ているのがとても健康的で推せるなぁと思う。まあ半年ほどニートを続けていることに加え私生活のあまりにも不健康な生活リズムはどないやねんという意見もありますが……


サブカルオタクと同人活動

そんな天秤ひなみのセルフプロディースの中で個人的に最も特筆すべき出来事は「アイカツ!」シリーズオンリー同人誌即売会「芸能人はカードが命!第21回」へのサークル側での参加だろう。(頒布物へのゲスト参加であり勿論現場で売り子をしたといった類いのものではない)

01, 硝子ドール - Bright Moonlight mix - /ケヨ&アステカ feat.都会えぬ
02, 荒野の奇跡 - Blue rose noble ver - / ケヨ feat.天秤ひなみ
03, 導かれて -THE LineaGe- / こんどう feat.牧場野みるる
04, Dreaming bird - DnB Rearrange / 山村崎 feat.天秤ひなみ
Illust : AS4KLA NexTone許諾申請作品

アイカツ界隈というものは広いようでとても狭く、この界隈に傾倒しているサブカルオタクの9割は何かしらの形で「アイカツ!」シリーズオンリー同人誌即売会「芸能人はカードが命!」通称”芸カ”を通っているのではと思えるくらい限定的な界隈であり、天秤においてもそこに頭の天辺から足の爪先までどっぷり浸かってきた側のサブカルオタクであった訳だけど、活動開始から2ヶ月くらいで早々にサークル側での参戦が決まった時は僕もひっくり返ってしまった。
このゲストボーカルが決まる以前に同サークル(Thumbelina Studio)の過去アレンジCDのオケの使用許諾を得たうえでアイカツ歌ってみた動画【Trap of Love】を投稿していた縁あっての芸カ参戦だとは思うが、他にも自身の雑談配信のバックで流すアイカツアレンジBGMを推し音楽サークル(アフリカンサマータイム)から許諾を得て使用しているなどサブカルオタクとしてのバイタリティが強すぎて尊敬するし、配信周りの機材整備や歌ってみた動画の音響・イラスト・動画等のクオリティに対する熱意などサブカルオタクとしての強さがそのままアイドルVtuber活動の戦闘力に還元されているっていうのは本当に強みだなぁと思う。


アイドルVtuberオーラとカレンダーガール

そんな感じで天秤のオタクを続けていた訳だが『GOTHIC History』を超える衝撃なんてそうそうある訳がないので、昨日投稿された最新の歌ってみた動画は曲名だけ確認して軽い気持ちでクリックしてみた。
まず耳に入ってきたのがありえん音質の良さ。前回の歌ってみた動画【prism spiral】からマスタリングをプロに外注していて音が商業レベルでありえん良いというこだわりを見せていたが、今回はそれ以上を目指していたと本人やMixing担当のけよ氏が仰られていたように一聴で分かる音の良さに吹っ飛んでしまった。

アイカツ公式のCDは音圧に魂を売ったクソみたいなマスタリング音質ということで有名だが、この個人勢Vtuberが見せるこだわりの半分でも意識してくれていればと残念でならない。
さて、音の良さに感動するタームがひと段落してからようやく歌い手が一人ではないことに気が付いた僕は動画の説明欄をスクロールしていったところありえん文言が飛び込んで来た。

■Vocal
天秤ひなみ
友達☺
多々星カイリ

企業勢である多々星カイリさんとのコラボが実現したことだけでも”ずっとありそうでなかったリアルやっと世界のすべてが変わった今を好きになるありがとうその一歩先が次のEntrance(早口)”で凄いことなのだが ”友達” という文言をみた瞬間すべて理解(わか)らされてしまって恐る恐る動画内のイラストを確認していよいよ限界になってしまった。


思い出を未来の中に探しに行くよ約束

開始30秒で天秤ひなみのカレンダーガールのすべてを理解(わか)っちまった僕はそれからクッションで顔を覆うだけの置物になっていたので動画内容のほとんどを覚えてはいないのだけど、それでもカレンダーガールの肝であるところの大転調からのDメロ→落ちサビだけは対峙しなきゃとモニターを覗き込んだ。
案の定Dメロの歌詞

思い出を未来の中に探しに行くよ約束

を強調した演出になっていて、結局それが命取りとなって30分間廃人になってしまった。多分この感覚はアイカツMF2018の「きらめきメッセンジャー」やアイカツ武道館での「AIKATSU GENERATION」の演出以来の感覚なんだろうな。
アイカツ!50話「思い出は未来のなかに」ではSoleil3人の想いがひとつに重なり「カレンダーガール」を歌った。そして3人はそれぞれ活動を広げ羽ばたいていく。少し時は流れアイカツ!125話「あこがれの向こう側」でそれぞれ成長した3人がSoleilを長く続けていきたいという新しい目標を掲げたとき、星宮いちごが「おばあちゃんになってもね」と続ける。
アイドルもアニメもVtuberも世の中のエンタメもすべては誰かがこう在りたいという願いや祈りの具現であって所詮は偶像や虚構だといえる。どれだけ楽しい時間を過ごそうとインターネットブラウザを閉じた瞬間どうしようもないくらい現実が待ち受けていて僕たちはそこから逃れられない。
それでもアイカツ!125話で「おばあちゃんになってもね」と、この先アニメの中では決して語られることがないだろう果てぬ未来について語った星宮いちごを目の当たりにしてから、アイカツという作品が虚構を超えて自分の現実と交わった感覚があったしそれが今でも続いている。
オタクを続けていると推しの卒業や引退、コンテンツの終焉という逃れざる命題に直面することがある。僕も最近Vtuberの生前葬(引退配信)に赤スパを投げる推しを観測するという奇妙な体験をしたのだけど、エンタメ界が大打撃を受けている今日の情勢の中ではそういった”終わり”が身近なところにあるものだと実感する機会が増えた。僕たちが全力で傾倒した虚構の果ての向こう側には何が待っているのだろう。
そんな命題に対する一つの答え、みたいなものが天秤ひなみの「カレンダーガール」にはあった。アイカツに憧れ導かれてアイドルになった女の子が見せてくれたひとつの終わりの向こう側の景色。その景色を共有することが出来たのが何よりもうれしくてお前しか推せんと思った。

ずっと ありそうでなかったリアル
やっと 世界のすべてが変わった 今を好きになる ありがとう
その一歩先が 次のEntrance

そんな感じでこれからもやっていこうと思うよ。



この記事ははてブロに投稿したもののセルフ転載です。









https://www.youtube.com/embed/VNhbsHAaVRs?rel=0

https://www.youtube.com/embed/ctcyq0Ilkec?rel=0




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