日常にアートを組み込もう
こんにちは。緊急事態が解除された地域も、まだされていない地域も、新たな生活様式を模索されていることと思います。新たな生活様式をどのように組み立てていくか?ここは各々の腕の見せ所なのかもしれません。
緊急事態下でも、さまざまな配慮を駆使して開所し続けておられた”場”といえば、各役所・病院・保育・学童保育・福祉施設などでしょうか。感染者を出さずに開所するという緊張感とともに他者を受け入れ続けた”場”からは、学ぶことがありそうです。
誰もが最低限必要なこととは、ひとりで困らなくて良いこと・少し方法を変えても日常が続くこと・居場所があることと言えそうです。
したいことは何ですか?
緊急事態宣言前の3月末から、私はほぼ外出を断ちました。家でも基礎稽古可能な私が初期に思ったことは「カフェに行きたいなぁ」です。制作ワークなどの事務仕事は、なぜかざわめきのあるカフェの方が自宅よりも捗ります。もちろん、タップクラスや予定していた公演の稽古など、人と創りあうことへの欲求はありますが、まず、家とは違うモードの集中スペースが欲しいと思いました。ちなみにこれは路地に面した裏庭に椅子を出すことで解消しました。適度に住民が通り、草の茂る中でコーヒーも飲めます。
さて、しばらく会えていない福祉施設のタップメンバーに、アンケートを実施しているのですが、ポロポロとかえってくるアンケートの「したいこと」の項目からは、特別なことではなく、繰り返されてきた日常への渇望がみられます。「仕事をしたい」「スーパーに行きたい」「仲間に会いたい」など。(*有料範囲に一部添付します)
皆様はいかがでしょうか?今、いちばん何がしたいですか?
日常とアートの接点・文化芸術基本法
したいことは、ほぼこれまでの日常の延長から出てきます。今までしていないことは、このような緊急事態下にできなくてもあまり問題ないですよね。でも、してきたことは、できないのであれば形を変えて、つまり発展させてやってみようと思える。
在宅生活が長くなりました。ちょっとした息抜きはどうされていますか?電波環境の整っている方はYouTube、テレビ派はDVDレンタルで映画を観たり、また料理に目覚めた方も多い様子で、思いがけず創造性を発揮されているかもしれません。それらも芸術鑑賞や創作的な活動ですが、おそらくどれも、これまでにも身近だった事柄の発展ではないでしょうか。
転じて、舞台芸術はどうでしょうか。
ツイートの炎上などから、大半の人が普段舞台芸術にあまり触れてこなかったのだと感じました。舞台作品にあまり触れてきていない人にとっては、今この緊急な時に舞台鑑賞ができなくても全く問題はないですし、支援の必要性も感じられないでしょう。これがヨーロッパの芸術支援表明との大きな違いを生んでいる理由と思われました。
・家族でコンサートに行ったり、街角でパフォーマンスを楽しみ投げ銭を入れるなど、子どもの頃から生活に芸術が組み込まれている?
・芸術体験から、競争ではなく、それぞれの感性を尊重する態度が育まれている?
・芸術はお金持ちの娯楽ではなく、すべての人の生活に必要なこと、と考えられている?
これらの問いは、私がダンスで社会を変える方法を模索し始めた2008〜2010年ごろに、モヤモヤと考えていたことです。
平成29年(2017)6月23日に文化芸術基本法が公布施行されました。日本ではここから10年ぐらいかけて実際の動きに反映されていくところかと思います。本当にそうなれば良いなあ!と希望の生まれる条文ですので、ぜひご一読ください。
「アート×福祉」活動方法を探るための目標
あしおとでつながろう!プロジェクトを始めたのは、日ごろ芸術に触れにくい人たちにこそ、自分らしさを肯定しあうタップダンスの手法を日常で利用して欲しい、と思ったからでした。
タップは人種差別の暮らしで育まれた、ハートビートをもとに足を踏み鳴らすという表現方法。歩きはじめの赤ちゃんから可能な表現であり、言語や習慣の違いを超えて楽しめ、かつ芸術表現としても高めていけるものです。
前段の問いからあしおとでつながろう!プロジェクトの活動目標が生まれました。
・より届いていないところから始めて、広く次世代に浸透するように
・芸術活動を長期にわたり定期的に行う
・個々の感性を尊重しあう場をつくり、互いに感応しあう
2011年から2020年コロナ前まで、4つの福祉施設で毎月100名とのタップセッションを実践しながら、この目標を具体的なタッププログラムにおとしていきました。毎年行われる福祉イベントなどでの交流発表も重ねました。今はチーム運営ですが「ひとりアウトリーチ」のように始まり、支援員のサポートの中で福祉の現状を学びながらも、表現者として譲れないラインを意識し、プログラムができていきました。
その過程で東日本大震災が起きて、東北の演劇人たちが起こしたARCTという、保育園から高校生までの子どもたちにアートを届ける仕組み作り及びアウトリーチ活動にも7年間携わらせていただきました。
「ARCT(あるくと)は、震災からの復興を進める活動や対話の中で感じた、人々の表現力、想像力、再生力を信じ、日常の営みの中でアートが多様な価値を創造し、個人の生きる力と心の豊かさを得る事が出来る存在であることの認識のもと、それらを繋ぐ担い手として設立されます。これまでの既成概念にとらわれず、地域、ジャンル、立場を越えて、多様な人々がアートを楽しめる有機的なネットワーク環境を整備し、新しい縁や知をひらくことで、社会や文化に寄与することを目的とします。」とあります。
私たちの目標とも重なる活動趣旨に、心強く感じたのを覚えています。彼らはもちろん今のコロナ対応として、新たな動きを始めています。
新たな生活習慣をチャンスに
さて今、施設タップメンバーからいただくお手紙に「タップしたい」という言葉が見え、私は嬉しいです。彼らの日常の楽しみの一つに、カラオケやお買い物と並んでタップダンスがあるのです!そんな声に応えたくて動画も配信中です。
長い人ではもう8年、毎月タップを踊ってきており、その間のイベントではピアニストやイラストレーターとも出会ってきました。こちらはイラストレーターの絵を真似した絵手紙です。
当プロジェクトだけではなく、多様性を尊重しあいコミュニケーションを育むプログラムが、このコロナ自粛に至る直前まで、展開されていました。
おどるなつこが関わらせていただいているところではやはり2010年より活動されているSLOW LABELさんのソーシャルサーカス(:社会課題を解決するためのサーカス)SLOW CIRCUS PROJECTが2020年に発足、現在もテレワークプログラムで活動中です。
いずれも障害のある方向けに見えますが、すべての人へ向けての活動です。
日本では、平均的でないことを理由に、学習や芸術体験の機会や、余暇の選択肢がほぼない方が実はたくさんいるのです。日常に組み込まれない限り、それらに出会う機会はなかなかやってきません。この出会いのなさ。障害とは、身体の状態ではなく、平均的な社会から設けられた壁のことをいうのだと常々感じています。
実際、一箇所のタップセッションは「肥満対策にダンスを習いに行こうと試みている方がいるが、一般クラスでは受け入れ側も本人も難しいみたいで...」というご要望から始まりました。
文化芸術基本法前文にある以下の定義に沿えば、だれもの日常にアートがあることにより、人との関係や町が豊かになって、世界平和に向かいます。
文化芸術は、人々の創造性をはぐくみ、その表現力を高めるとともに、人々の心のつながりや相互に理解し尊重し合う土壌を提供し、多様性を受け入れることができる心豊かな社会を形成するものであり、世界の平和に寄与するものである。
公布された当時とは状況が変わってきましたが、今だからこそ、これまで参加しにくかった人も交えて、実現できるチャンスなのかもしれません。
コロナと共存していく新たな生活様式のなかに、これまで機会の得られなかった人も参加可能な芸術形態を考えて組み込んでいきませんか?
そうしたら、だれもが心豊かな社会を創る営みに参加できるようになる可能性があるのではないでしょうか?
私も日々想像力を働かせて、新たな方法について考えているところです!
この機会に必要な変化をおこしていきませんか!
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