「ラストシーン」
「ラストシーン、君がいなくなった」
「え?」
「僕も今、その映画を観ているんだ。さっきまでね。映画って不思議だよね。まるで、誰かと一緒にその世界を旅したような気持ちになるよ」
「……」
「あぁ、もうすぐ終わってしまうな……残念だよ。もっと旅を続けたかったのに」
そう言って彼は私を見つめて微笑むと、静かに目を閉じた。
そして再び目を開くことはなかった。
私は彼を抱きしめながら泣いた。声を上げて泣き続けた。
彼がくれたこの命で精一杯生きようと思った。そして彼と共に過ごした日々を思い出していた。
彼と過ごした幸せな時間を思い浮かべていた。
でも、それはもう戻らない過去なのだ。
私が愛した人は二度と戻ってはこないのだ……。
やがて彼の体温が消えていくのを感じた。
それでも私はずっと彼を抱きしめたままだった。
彼の身体から少しずつ温かさが失われていくのを感じていた。
ふと気付くと私の手の中には一枚の紙切れがあった。
そこにはこう書かれていた。
『ありがとう』
END.
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?