学士号「爆発」

久しぶりの投稿ですが、今回は備忘録的なメモです。

大学を卒業すると学士号が授与されます。学士号の種類は概ね学部や学科によって異なります。例えば法学部だったら、「学士(法学)」とか。経済学部だったら「学士(経済学)」とか、ということです。

このカッコの中を「専攻分野」と言います。平成3年まで、学士号の専攻分野は、たった29種類でした。では、この専攻分野は、いま日本の大学全体で何種類ぐらいあると思いますか?

それを知ることができるページがあります。独立行政法人大学改革支援・学位授与機構のサイトの「学位に付記する専攻分野の名称」というページです。

このページに、「令和元年度」の「学士・修士・博士」について調査した一覧がPDFで公開されています(調査対象 792大学、回答数761件、回答率96.10%)。

学士号のPDFファイルはなんと16ページにわたっています。それがいまや16ページにびっしりと列挙されるほど増えているのです。

最初の一部分を抜粋しておきましょう。

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こんな感じで、「人文科学」といった【大分類】、「文学関係」といった【中分類】のもとに、学士号の専攻分野名が並んでいます。数字はその専攻分野の学士号を出している学部・学科数です。「文学」が「148」というのは、日本全国に「学士(文学)」を授与する学部学科を持つ大学が148あるということです。

ところで、学士号の専攻分野がこんなにも増えた理由は、同ページの解説によれば、次のような背景があるそうです。

平成3年度の法令改正により学士は学位とされ、学士、修士、博士の各学位の授与に当たっては大学と当機構がおのおの適切な専攻分野の名称を付けることになったものです。したがって、学位に付記する名称には、各大学が設計した教育課程の個別性を反映して多様性が生まれています。

つまり、(すでに他大学が展開しているものと同じ教育プログラムを新しく作る必要はないという建前のもと)新設される学部や学科の教育プログラムは新しいものでなければならず、それゆえ学士号も新しいものになるべきだ、という理屈によって、この30年間にどんどん新しい専攻分野の学士号が作られていったというわけです。

そもそもこの発想に問題があるような気もしますが、ここでは深く立ち入ることはしません。とりあえずこのPDFの内容を集計してみることにしましょう。PDFだと具合が悪いので、テキストファイルに落として加工した上で、エクセルで集計できるようにしてみました(最初からCSVファイルとかで提供してほしい)。

まず、全国の大学で授与している学士号の数を合わせると6164個になります(学士号の数え方がわからないので、ここでは「個」としておきます)。6164個と聞くとすごく多そうですが、日本には800程度の大学があるので、平均すると1大学あたり7〜8種類の学部学科があるというイメージです。であれば、6164個の学士号というのはまあ妥当な数です。

まず、学士号の専攻分野を大分類で集計してみました。すると、以下のようになります。

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やはり、一番多いのは社会科学系です。一つの大学に法学部と経済学部があれば、「学士(法学)」「学士(経済学)」というように2つの学士号を出すことになりますから、社会科学が1246個あるのもなんとなくイメージがつきます。

次に多いのが「工学」です。これはちょっと意外でしたが、工学部は学科ごとに学士号を出したりすることもあるので、数が多くなっていくのでしょう。

さて、それでは肝心の「専攻分野の種類」を集計してみます。いったい何種類ぐらいあると思いますか?

答えは「全部で730種類」でした! そこまで学士号の種類が広がっていたとは驚きですね。

実は、トップ10を見ると、わりと普通です。最も多いのが工学というのが意外ですね。でも、実は工学の学士号は様々な分野の学部で出しており(人文でも工学の学士号を出しているところもあるようです)、実態はかなり幅が広いようです。

2番目の「文学」についても意外かもしれません。すでに文学部はかなり少なくなっています。かつての文学部や外国語学部を改組して、全然違う名前の学部名に鞍替えしている学部も多いということだと思います。

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これら上位10種類の専攻分野によって提供されている学士号の数は2940個です。つまり6164個ある学士号のうち、上位10種類(1.3%)で半分近く(47%)が占められているということになります。

さらに計算すると、上位90種類(12%)で学士号の全体数の8割に達します。

他方、1大学しか持っていない”ユニーク”学士号は、なんと400種類以上あります。日本で1個しかない学士号が400種類もあることに驚くばかりです。その一部はこんな感じです。

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棒グラフとパレート図にしてみると、学士号の専攻分野の分布は完全なロングテールであることがわかります。

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それにしても、日本に400以上ある”ユニーク”学士号の存在意義はどこにあるのでしょう。

確かに、「この大学でしか学べないこと」や「この大学にしかない教育プログラム」というものが大学に求められることはわかります。たとえば、「学士(法学)」を出す大学は全国で153もあるのだから、これ以上法学部はもういらない、という意味は、少しは理解できます。

しかし、「差別化戦略」とはそういうことなのでしょうか? むしろこれは、新規参入者には既存の大学との競合を避けさせるという意味の「既得権益の保護」政策のようにも見えます。

古くからある「学士(文学)」を出す学部は、そのままの学士号で、今や全く違う学部名や教育体系を提供できています。それと比べると、新規参入しようとする学部がオーソドックスな学士号を授与できないのは、若干公平さを欠いているように思われます。

大学間の競争を本当に促進させたいのであれば、たとえば全く新しい教育理念や教育プログラム、独自の教授陣に基づく「学士(経済学)」を授与する新しいタイプの「経済学部」の新設を認め、他大学の既存の経済学部と競争させる、という発想の方が、大学業界を活性化させることにつながるのではないかと思うのです。

とはいえ、現状がこういう状況なので、これを前提として話を進めなければいけません。

”ユニーク”学士号はどのように「競争」すればよいでしょう? 他大学の他学部を選ばず、自大学のこの学部・学科を選んでもらうためには、何をアピールすればよいのでしょう。

続きは、また時間のあるときにでも。

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