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2017/5/23の日記~レディ・マドンナ、オランウータン、天照を誘う~

夜も更けて風が少し肌寒い頃、立ち寄ったラーメン屋に流れるビートルズを僕は聴いていた。ラーメンに「レディ・マドンナ」の組み合わせはいささか不自然な気がして、変わりの組み合わせを思い浮かべようと、ここ数カ月の思い出を一つ引っ張ってきては、また違う記憶を慎重に取り出し、ビートルズに託した。まるで鏡の前で服選びに迷う、10代の少女のように。少し並んでいる行列の待ち時間をつぶすためだけの、ほんの些細な試みだった。

 GWの動物園。その時、手すりに寄りかかりながら僕は10メートル先のオランウータンを見ていた。その毛深く茶色い生き物は僕に背を向けたまま、振り向こうとはしない。たぶん世界が初めてオランウータンと出会ったときも同じような反応をとったんじゃないかと思う。ちょっと放っておいてくれよ、これからどんな大きな木に登って、どんなにおいしいリンゴを食べようか考えるんだからさ、とでも言いたげだった。彼はグローブみたいな頬の大きなひだを掻きながら、大きな岩陰に隠れた。天照大神を誘うような岩開きダンスなんかして、拗ねた彼を表へ呼び出す気はまったくなかった。うそ。少しだけ遊んでみたい気持だった。リンゴなら僕も好きだし。カム・トゥゲザー。

 先週の木曜日から日曜日にかけて、二人の友人がはるばる僕のところに遊びに来てくれた。もしも僕がレノンだったなら、二人はポールみたいな存在で、なにか引力の強い惑星に引き寄せられるようにして集まった。ここ、札幌に。高校卒業後、それぞれ故郷を出てあちこち散らばったにも関わらず、また別の地で再会するというのはずいぶんと素敵な出来事だった。近況報告をし、昔話をして、これから先の出来事を占ってみて、幾分辛くはあるけれど、その分幸せであれ、という結論に至った。まぁ確かに昨日まではトラブルなんて遠い世界のことだったと嘆くこともあるかもしれないけれど、アイ・フィール・ファイン。

ビートルズに重ねるならば、僕はジョージ・ハリスンの立場にいたいな。黄金コンビの影に隠れてはいるけれど、ビートルズの世界を押し広げたのは間違いなくジョージだろう。サムシングとかホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス。詳しくなんて知らないけれど。結局解散し、その完璧な輪の構成員の4人のうち何人かは死んでしまったけれど。たしか1人は撃たれて、1人は癌で死んだはずだ。でも彼らが世界に投じた石が今もまだ大きな波紋を広げて、水面に大きなおおきな輪っかを作り出し続けているのは目に見えて明らかだし、目を閉じても耳に届く。それこそ、ラーメン屋で順番を待っていても。

 試みがどれだけうまくいったのかわからない。結果、ビートルズの曲がただのBGMに徹しただけかもしれない。ビートルズに合わして岩開きダンスかなんかして、寂しそうなオランウータンも仲間に入れてあげるべきかもしれない。

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