熱狂のナワナコン大会、タイ版ブレイキングダウン・FIGHT CLUB THAILAND(2024年3月10日)
タイの地下格闘技団体のファイトクラブタイランドは3月10日に、バンコク近郊のパトゥムタニ県ナワナコンで、全20試合のムエタイ、ボクシングの大会を開催した。
ファイトクラブタイランドはバンコク近隣の県を中心に、タイ各地に支部を持ち、持ち回りで1~2カ月に1度大会を実施している。この日のナワナコン大会は、ファイトクラブパトゥムタニが担当したようだ。パトゥムタニのイベントは今回で2回目、ナワナコン工業団地内の空き地で行われた。
当日は、大会の会場とガソリンスタンドを挟んだ空き地スペースで、演歌歌手や有名ロック歌手を呼んだ1週間に渡るお祭り「Nava Nakorn Festival 2024」も行われており、そちらも賑わっていて、お祭りと地下格闘技をセットで楽しむ地域住民も多く見られた。
ファイトクラブタイランドについては以前このブログで取り上げたのが、アユタヤ大会、クロントゥーイ大会で、取材は2022年5月と7月で、もう2年近くが経過している。
その間に、取材したアユタヤ大会でメインを張ったジョーカーはラジャダムヌンスタジアムのRWSのメインで三浦孝太と戦い、プロボクシングに転向した。ジョーカーとアユタヤ大会で激闘を演じたヨマトットは、既に故人だという。
今回のナワナコン大会ではそのジョーカーをトレーナーとして支えていた、クルー9(クルーガオ)が全20試合の大トリで登場した。クルー9はタイ空軍でアマチュアボクシングのキャリアをスタートし、空軍のアマ王者になったという。軍を退役してアマチュアボクシングの現役を退いて10年だが、カリスマ、ジョーカーを育て上げたということで、地下格闘技界隈では名が通っているようだ。
一方のナーイムもストリートファイターとして、有名で、5年前のファイトクラブでのバンクバレラ戦のYoutube動画は330万視聴を記録したという。ファイトクラブタイランド以外の地下格闘技や、ベアナックルファイトのBKFCにも出場したというファイター。そしてこの試合は特別に1ラウンド5分でセットされた。
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会場となったナワナコンはバンコクの北隣に位置するパトゥムタニ県の中のひとつの市で、バンコクから車で1時間弱の距離にある。多くの日系企業の工場が入居する、ナワナコン工業団地が有名で、工業団地と一緒に発展してきた街でもある。バンコクから近いとはいえ、ローカル色は強い。
当日、著者がSNSで発表されていた、16時の開始時間に会場を訪れると、まだ会場の設営中で、主催者チームからは18時からの開始を告げられる。まるで始めから18時開始だったような口ぶりだ。そして18時に再訪すると人は集まっているものの、まだ開始の気配はない。
ようやくイベントが開始したのが19時過ぎ、まずは観客が参加する余興で席を温めるかのようにゲームが続く。ジョーカーも登場し、キックの練習用ミットに1分間で何回キックできるか、という余興の見本を魅せる。
続いて行われた余興は、リング(マット)に呼んだ観客それぞれが、ファイトクラブタイランドの良い点についてコメントし、観客からの拍手が多いものが、ファイトクラブのシャツがもらえるというもの。
「もめている人たちが、この場で殴り合って、それで終わり。良い解決方法で素晴らしい場所」など、コメントする。
ファイトクラブは一見、日本のブレイキングダウンと似ている様子だが、成り立ちは不良の更生の場としてタイ最凶ファイター・コントゥアラーイとその仲間たちが10年ほど前に始めたもの。不良同士の揉め事があると、それをファイトクラブに持ち込み、衆人の中で殴り合ってすっきりさせる。勝敗を決める判定はなしで、ダウンしても何度でも立ち上がって、少し休憩してから3分間の戦いを続けることができる。
19時半過ぎに第1試合がスタート、工業団地で働くスタッフや、その家族も併せて試合場のマットを取り囲む。戦う前に選手自ら名前、職業、簡単な自己紹介がされる。車の整備士、学生、運転手、会社員、自営業など、職業は様々。参加者の大半は派手なタトゥーが入っていて見るからに悪そうな雰囲気でもある。
第12試合では、背中に一面のタトゥーの入った公務員・ミッキーマウスがエレベーター技師・ビームと熱戦を魅せた。第11試合は、国際ファイトで、ロシア人のイワンが、ラオスのラッキーを右パンチでKOした。イワンは試合前の自己紹介の際に「ファイトクラブモスクワ」で戦っていたと述べていたが、ロシアの地下格闘技出身だろうか。
ファイトクラブを2年前に取材した際と比べて、試合毎の繋ぎ時間も短く、試合前はマット上のレフェリー兼司会者がうまく盛り上げ、場内放送用に2人組のアナウンスが入り「これはすごい戦いだ!」「皆さん2人に盛大な拍手を!」と試合中に観客を煽る。またスポンサーの名前も何度も連呼し、ガオラオナワナコン(レストラン)、オート―ナワナコン(バイク屋)の名前は観客の頭に確実に刷り込まれる。
イベント後半戦には観客がマットの周りを幾重にも取り囲み、1000人ほどはいたのではないだろうか。工業団地に入居する日系の工場の制服を着た親子連れも熱心に試合を見入っている。ファイトクラブタイランドの観戦料は一部の大会を除き、無料としているが、SNSの生配信では20万人が視聴することもあるという。
ファイトクラブが今回用意した、メインイベント4試合が始まる頃には22時近くとなっていたが、それまでの16試合も飽きさせなかった。セットされていたのはムエタイルールが7割、ボクシングルールが3割といったところ
セミファイナルはタンバー・ピサヌローク対エム・コラートの試合で、1年前にファイトクラブで戦って以来の再戦となる。やはり両者とも名前が売れていて、タンバーはベアナックルファイトのBKFCに参戦したり、プロムエタイ興行にも出場している。エムコラートは頭と首にまでタトゥーを施し、愛犬と入場し、只者ではない雰囲気。この試合は、3分2ラウンド、ボクシングルールで行われたが、エム・コラートは意外としっかりしたアウトボクシングを見せる。
丁寧に左ジャブを突き、タンバーをなかなか懐に入らせない。インターバルではコントゥアラーイがタンバーを激励、自らタンバーに水を飲ませて身振り手振りでアドバイスを送っていた。この2人が2ラウンドを戦い抜いて、会場のボルテージも最高潮に上がったところで大トリの、クルー9対ナーイム戦が開始された。
この大トリもボクシングルールで行われたが、開始20秒、クルー9のカウンターでナーイムはいきなりのダウン。立ち上がったナーイムはダメージが全くないともばかりに前に出て大振りのパンチを振り回す。
クルー9も前に出て打ち合うが、当たるのはクルー9のパンチで、ナーイムは再度ダウン、そして、立ち上がってはクルー9に立ち向かっていく。ナーイムは何度倒れても試合は続行し、ダウンの度に会場が湧きかえる。漫画のあしたのジョーのフィクションの試合に近い。都合、6度か7度か目のナーイ厶のダウンでレフェリーは試合をストップした。
ここで大会は終了したが、時刻は既に23時を超えていた。長時間のイベントだったが、時間を経つのも忘れ最初から最後まで楽しむことができた。
ファイトクラブタイランドのイベントはFacebook(Fight Club Thailandのページ )などで告知される。ロシア人ファイターも出場していたことから、日本人の出場も可能と思われるが、スケジュールや会場が急に変更されることもあり、現地在住者でもハードルが高い。
次回のファイトクラブタイランドはアユタヤでの開催を予定しているという。今後は、ロッブリー、チェンライなど、地方の大会も見てみたいところである。
↓ ↓ Facebook のFight Club Thailandのページ
↓ ↓ タンバー・ピサヌローク対エム・コラート戦動画
↓ ↓ ナーイム対クルー9戦動画