メタリカ聴いたことない奴が着るメタリカTシャツとどう向き合うか
00年代以降に生まれたであろうナウなヤングが、スラッシュメタル界の雄であるメタリカのTシャツを着ている姿を想像してほしい。
80〜90年代を生き抜いたオッサンとしては「どうしてその年でそんなものを?」と意外に感じる。もちろん前向きな意味で。
話したことがある間柄ならば、話題として触れるだろう。
「メタリカ好きなんですか?」
共通点を持つことは、相手との親近感に繋がる。しかも、共通項が希少であるほど、深い関係を築くことができる。もしかすると、世代は違っても趣味が合うんじゃないかと期待する。
前のめり過ぎると引かれるので、さり気なさを装いながらも期待を込めて聞く。すると相手からこう返ってくる。
「何ですかソレ?」
オマエ、知らずにメタリカ着とったんかい!と肩透かしを喰らう。相手からすると、オッサンから訳の分からない話題を振られて、しかも一方的に意気消沈されて、大きな迷惑だろう。お互いにいたたまれない。
これと似たような事故は、AC/DC、NIRVANA、ガンズ、メイデンなどをファッションとして身につける際にも起こるだろう。この「メタリカTシャツ問題」にまつわる、いろんな可能性を考えてみた。
すべてを知るには負担が大きい?
メタリカTシャツは、数年前にユニクロでも売っていたくらい手に入りやすい。セレブが着ていたことも相まって、元の文脈から切り離されて真似されることもあるだろう。
シャツに描かれたロゴでしか知らない若い人の中には、メタリカをファッションブランドの類だと思っている人もいる。それほど大衆的な存在になった。
私はメタル野郎なのでメタリカを挙げたけれど、同じ問題は他のジャンルでもある。ヒップホップ界で言うと、RUN DMCやBEASTIE BOYSなどでもあるそうだ。明るくないから知らんけど。
あらゆるジャンルに対して、「メタリカTシャツ問題」同等の問題を避けようとすると、知っておくべきことが多すぎて服なんて選べなくなってしまう。
手に入れようとするTシャツに絞って裏を取れば済む話かと言えば、デザインが気に入って買おうとしてから調べて視聴して「スラッシュメタルだから辞めとくかぁ」と言う話にはなりにくいだろう。
ファッションとして着る側を擁護するなら、現実問題として避けるのは難しい。
文化の盗用だと言える?
メタル好きオッサン側の気持ちとしては、メタリカを知らずファッションとしてメタリカを身に付けることに、少なからず否定的な感情を持つ。
「オッサンは黙っとけよ」と言われることが想定できるので、それ相応の理由付けが必要となる。この気持ちを説明する概念として、最近に聞くようになった「文化の盗用」は近いかもしれない。
以下の記事が深く「文化の盗用」について説明していたのでおすすめ。
説明されている部分を抜粋すると以下のようになる。
シビアなBlack Lives Matterと比べれば軽い話で恐縮ながら、メタル好きはマイノリティだとは言えるだろう。80年代を生き抜いた人は文字通り虐げられてきただろうし、それ以降の時代でもスクールカーストの底辺にいる非モテ勢が好んで聴く音楽であり続ける。
たかが音楽の趣味だし、人種問題と違って自分から好んで聴いているから自業自得という反論は想定できる。でも、「メタルは生き方」のように捉え、心の拠り所にする人もいる。
それを、スクールカースト上位にいそうなリア充側の人がファッションとして身に付けると、なんだか嫌な感じがするという話なのである。たぶん、オタク文化でも「あるある」だろう。
ただ「表現の自由」と「文化の盗用」は裏表にあり線引きが難しいので、何でもかんでも「文化の盗用だ!」と言うのは賢明ではない。
マニアがジャンルを潰す?
盗用説への反論として「アンタがそう思っているだけだよね?」「本人は歓迎なんじゃないの?」がある。
メタリカに関してはジェイムス本人が辛口コメントをしていたので、それほど良くは思っていなさそう。「Tシャツのプリントでコア度がわかる」とかの目利きが面白い。
スケボーやらない人が着るTHRASHERやら、陸サーファーが身に付けるサーフ系のブランドやら、それぞれ個別事情があるだろうから一概には言えない。
アパレル系ブランドの場合は、ニッチに刺してからマスに広げる戦略かもしれない。いくら自分にとって精神的な拠り所でも、本家のビジネスを妨げてはならない。
Tシャツから入っても、ジャケ買いでも、世界観の一片に興味を持ってくれたのは布教のチャンスという見方もできる。それを「盗用だ」と非難するのは得策でない。
よく言われる「マニアがジャンルを潰す」になっていないかは気を配る必要があるだろう。本物のファンならば、「何かのご縁だから聴いてみよう」くらいに思わせる応対をすべきだろう。
それでも私は想いを伝える
バンドTを着るのは、意図しなくてもメッセージが強い主張になってしまう。若年層はマウント取られるのを嫌い自分の趣味は表に出さないと言うのに、そこを超えてアピる程の趣向なのか!オッサンはそのように受け止めてしまう。
私個人のスタンスとしては、「聴いたことないのに着てるんじゃねぇ!」とは言わない。何を語って自由で、介入される筋合いも無いとは思う。でも、ファッションではなく音楽に関しては言いたい。
「せっかくのご縁だから聴いてみてよ」
だから私が求めるのは、「着るなとは言わんけど、布教されることは覚悟してくれ」である。