クリエイティブに「業務と関係の無い」はあるのか
あらゆるところで「業務と関係の無い」という言い回しが出てくる。具体的には「業務と関係の無いサイトにアクセスしてはならない」「業務と関係のないソフトウェアをインストールしてはいけない」などなど。
例えば工場に勤務していて、時間あたりに組み立てる最終製品の数を増やすことが使命だったとすると、そりゃぁゲームをインストールすることが仕事の成果に結びつかないことは誰しも納得する。
クリエイティブにおける「仕事と無関係」
曲がりなりにもクリエイティブのお仕事をしていると、あらゆることがアウトプットの糧になって、「仕事と無関係」と言い切れることの方が少ない気がしてくる。
最新のゲームをプレイすることもUIの動向調査になるかもしれない。エロサイトでさえ、リコメンドするコンテンツをどのように選ぶか、動画内で皆が注目するタイミングをどのように表示するか、いかにバナーを踏ませるか(概して負のUX)などなど、そこに心血注いでいるクリエイターがいる以上、学ぶ姿勢さえあれば学びに繋がる。
別の視点で「B2Cのユーザーリサーチなんです」と言い張れば、ターゲットユーザーが日常生活の中でやりそうなことを「まずは経験してみることに意味があるんです!」と説明できてしまう。
コルブの経験学習サイクルを持ち出せば、最初のステップとして「具体的な経験」が挙げられている。もちろん、その後には観察→概念化→実験が続いてアウトプットに結び付けなければならない。でも、何事も経験してみるのが糧だというのは本質に近い気がする。
拠り所となりそうなC/PCバランス
個人的には「堂々と説明できればいいんじゃないの」くらいに思っている。でも、もし自分が経営者や中間管理職になったらと想定して、「業務としてエロサイトを見ます!」と言い張る部下を持ったら、どのように考えるのが妥当だろうか。
世界最高峰の自己啓発本として崇められる「7つの習慣」における主要な概念として、C/PCバランスがある。P: Performance(成果)を得るためには、PC: Performance Capability(目標達成能力)も大事という話である。
例え話としてイソップ寓話の「ガチョウと黄金の卵」が引用される。黄金の卵(P)を手っ取り早く手に入れるためにガチョウ(PC)を殺して腹を切り開くと、その瞬間は普段より多く黄金の卵が手に入るけれど、手に入れる術を手放してしまうという寓話である。
この考え方が拠り所になりそうだと思った。
インプットを辞めたら死ぬぞ
「業務と関係の無いXXXXをしてはならない」と言う人は、P(成果)を求める傾向が強い。「いや、業務に関係あるんです」という反論の多くはPC(目標達成能力)を意図している。意図する領域が異なるけれど、どちらも大事でバランスを取らねばならない。
クリエイティブの仕事において、一度つくった成功パターンを焼き直し続ける限りにおいては、P(成果)だけ追求しておけば対処できる。でも、それでは時代の変化に適応して新しいものを生み出すことはできない。
「インプットを辞めたら死ぬぞ!」と言われる通り、適切なP(成果)を出すためには、優れた創作物に触れてインプットし続ける状態管理が必要となる。この文脈で「業務に関係あるんです」と言うのは、PC(目標達成能力)の意図になる。
あまりに娯楽めいたものや、成果との結びつきに距離があるものは、「業務時間外にやっとけよ」という話になる。例えば、映画鑑賞がいくら良質なインプットだとしても、業務時間を費やすのは適切でない。とは言え、映画業界だと話が変わるし、「休みの日に競合調査してこい」と命じるのは法的にキワドイ気もする。おそらく明確な境界線はない。
個人の裁量任せではなく、強いクリエイティブ組織をつくるとなれば、PC(目標達成能力)の維持にリソースを割くことも必要だと考えている。ただし、C/PCバランスが適切なのかは常に問うべきだろう。
分業によりPCの比率が高い部隊もある
ガチョウの話とは逆に、目標達成能力ばかり高めて成果を出さないこともまた無意味である。そうならないために、「そのインプット(PC)が、どう成果(P)に結びつけるのか?」のイメージを合わせることは必要となる。
とは言え、先に成果(P)が読めない仕事もあれば、組織全体でP/PCのバランスをとるため、目標達成能力(PC)を受け持つ部隊もいる。具体的には、基礎研究や、探索的なユーザーリサーチ・マーケットリサーチなどは単体で売り上げに貢献するものではないけれど、革新の手段として欠かせない。だから目標達成能力(PC)として蓄えること自体を成果(P)として設定する。
ここで「成果に繋がるリサーチだけをやればよい」と言いそうになるけれど、「当たる馬券だけを買えば勝ち続けられる」理論みたいなもので、何が成果に繋がるか事前に読めない要素がある。だけど、挑まない事には成果は得られない。
くだんの部隊の位置付けについて、「業務と関係あるよ派」と「ないよ派」ですり合わせておくと、建設的だろうなと考えている。