おだまゆの試演会について
さて、今回は私がささやかに続けている企画「おだまゆの試演会(しえんかい)」について。不定期開催ではありますが、現在11回目を迎えたところです(2023年4月時点)。この企画について書いてみます。
おだまゆの試演会とは?
「クラシック音楽のピアニスト」といっても、そのフィールドは実に様々。ソロリサイタルやオーケストラ共演を重ねる人はもちろん、演奏家と教育者の両方で活躍する人、近年はYouTubeが主戦場のピアニストも珍しくなく、活動の場は多岐にわたります。
私の場合、ピアノ以外の楽器の皆さんと共演する「アンサンブルピアニスト」としての本番がほとんど。
弦楽器や管楽器、声楽のソリストさんのリサイタルや演奏会、コンクールにオーディションなど、ピアノとのアンサンブルが必要な場面で、ソリストさんからご依頼をいただき(多謝!)、リハーサルを重ね本番を共にする、これが主な活動です。
演奏活動する中で感じたのが、「心理的安全性の保たれた場で試行錯誤する機会、これが大人にとって案外少ないのではないか」ということ。何とか作れないかと思いスタートしたのが「おだまゆの試演会」です。
いつもは依頼をいただく側のピアニストである私ですが、この企画では私からソリストさん方にお声がけし(最近では「出たい」と立候補してくださる方も!)、各々がチャレンジしたい作品を持ち寄り、ピアノが必要な作品では私がすべて弾く、というものです。
読んで字の如く演奏を試してみる会、すなわち「演奏家有志が集い、様々なホールで実験的に自身のアイディアを試す、またお互いの演奏や作品に触れ学びをシェアする場」です。
基本的に非公開。様々な楽器の演奏家が「挑戦したい」「学びたい」作品をピアノの織田と共に演奏し、安心してトライ&エラーを繰り返すことができる場として企画・運営しています。
2019年スタート、そしてコロナ禍。
もともとはプライベートなリハーサル会として2019年に始めたものでしたが、2020年のコロナ禍を機に「おだまゆの試演会」として本格的にスタートさせました。まだまだウイルスに振り回されていた2021年当時、私は試演会についてこんなことを書いていました。
noteの下書きに残していた文章で、当時のもどかしさや焦り、切々たる思いそのままです。何度も消そうとしたものですが、今思うとこうして読み返すことができて良かったのかもしれません。
現在では、コロナ禍において尻込みしてしまっていた「3人以上のアンサンブル」に取り組むなど、私からのリクエストはもちろん、持ち込み企画も大歓迎で進めています。
集まる様々な楽器の演奏家
この試演会の特徴は、声楽、弦楽器、管楽器など、様々な楽器の演奏家たちが集まること。バラエティに富んだ作品に触れ、じっくりと耳を傾けあう場となっています。
試演会に向けて準備を重ね演奏し、普段なかなかご一緒することのない楽器について知り、その楽器の使い手が情熱を持って取り組む作品を目の前で味わう…なかなかいい機会だと思いませんか?
中にはコンクールやオーディション、試験の前に腕試しとして演奏する方も。練習も大切ですが、やはり1回の本番で得られることも大きいもの。コンクールなどを想定しながらの演奏、そして客席で待ち構えるのはシビアな耳を持つ演奏家たち…まさに大切な本番前のリハーサルとしても絶好の機会となっています。
ホールもあえて固定しない
また、様々なホール、サロンを実際に使ってみることも目的の一つ。アクセスや会場の使い心地、また最も気になる「響き」やピアノ含めた備品のことなど、実際使ってみないと分からないことが多いものです。演奏会開催の際、ホール選びは重要事項なので、参加者は(私も含め)このあたりも念頭に入れて演奏しているはず。
またホール下見に行った際には、備品チェック、録音や撮影環境、ホール内動線の確認に加え、ホールスタッフさんとのやり取りのスムーズさも随分気にするようになりました。
実際の様子は?
以下も、2021年に書いたnote下書きの抜粋です。
現在ではコロナ5類引き下げ措置もあり、制約もなく開催しています。とはいえ小さな会なので、ステージセッティングや映像撮影、録音、司会や譜めくりまでソリストさんにお願いすることに。
皆さま快くお引き受け下さり(むしろ率先してテキパキと動いてくださる方ばかり!)、その懐の深さに感謝しきり。有難い限りです。
当日の流れについて少し。
会場入り後、ピアノ位置や照明などを調整し、撮影機材を準備します。
そしてすぐにリハーサル開始。この時、ソリストさんの立ち位置決めやピアノ蓋の開閉などを決めていきます。10人のソリスト×各10分でもリハだけで100分。ソリストさんの楽器ごとに弾き方が変わるので、私は集中力と体力勝負。良き修行です。
リハーサル後のひと呼吸おいて、司会担当の方、または私から簡単にソリストさんのご紹介。楽器のことや曲の聴きどころなどをご説明して、演奏スタート。
試演会そのものは約2.5〜3時間でしょうか。
終了後は、撮った演奏映像をできるだけ早く編集し、ソリストさんに共有。フィードバックにお役立ていただくようにしています。ここまでがこの試演会なのです。
皆様の温かなお人柄もあって、雰囲気は毎回とても和やか!初対面同士でも穏やかに談笑する姿を見るとこちらがホッとします。
また同じ楽器の演奏者がいる場合は特に、リハーサル時にお互い響きのチェックに立ち会いアドバイスを送りあうことも。
休憩時間や終了後に演奏の感想はもちろん、狭い世界なので共通の知人の話で盛り上がっていることもしばしばです。
ソリストさん同士のご縁が繋がっていく、そのお役に立てているようで嬉しく感じます。
作成しているもの
プログラム
いくつかの楽器があれど、できるだけ関連性を待たせた並びでプログラム順を決めています。ほとんどの曲を演奏する私の体力配分を考慮しつつ(意外と大事)、演奏順を考えるのもまた楽しい時間です。
毎回プログラムを作成しているのですが、これも回を重ねるごとに進化。近頃は【#ハッシュタグ企画】を取り入れ、毎回違うお題で、出演者の素顔や意外な一面が垣間見えるよう工夫しています。
これが思いのほか大好評!この【#ハッシュタグ企画】を基に、司会の方がさらに演奏者を深掘りしていきます。
何の変哲もない普通の白黒の紙ですが、試演会に集った方々の人間関係を豊かにしてくれる「アイテム」の一つになっているような気がします。
歌詞対訳
複数の歌い手さんがご参加なので、当然イタリア語、ドイツ語、フランス語、英語…とバラエティ豊かな言語が登場します。
試演会といえど、できる限り歌詞対訳を作成。客席にいる演奏家にも、じっくりと歌曲やアリアを味わう助けになれたらと考えています。この対訳作成の際、歌い手さんとやりとりを重ねるのも、私にとって大変勉強になることなのです。
進行表
加えて、試演会がスムーズに進むよう「進行表」も作成し、事前に参加者と共有しています。会場入りからセッティング、リハーサルと行い、そして本番、撤収と進めていくにはタイムマネジメントが必要不可欠。
通常の現場ですと、演奏会場に行って弾いて帰る…と完全に主催者さん側にお任せして、演奏だけに専念できていたことも、小さな会とはいえこうして自分で企画してみると様々な気付きがあり、多くの方に支えられてステージに立たせていただいているんだなと改めて感じます。
自分でやってみることがいかに大切か、痛感しています。
学ぶことをやめずに
コロナ禍で演奏の機会が激減しても、学ぶことをやめたくないと動き出した試演会ですが、ご参加下さるソリストさんの熱量に私が力をもらい、大きな学びとなっています。続けられているのも、ご参加下さる皆さまあってこそ、本当に感謝しかありません。
「弾いたことのある作品」が1曲でも多いのは強みだと考えており、この試演会は私にとって、ソリストさんからのご提案で新たな曲を知りチャレンジできるまたとない機会。
私にとってもレパートリー拡大の足掛かりとなっています。これも様々な作品をお任せ下さるソリスト皆様のおかげです。
また、試演会の内容面でもあれこれと模索中です。毎回少しずつ趣向を変え、アンサンブルのスペシャリストをゲストにお迎えしアドバイスをいただく回や、はたまたYouTube公開にチャレンジする回など、ご参加の皆様に多大なるご協力をいただきながら試行錯誤を重ねています。
一緒に演奏する人がいなければ形にならない、それぞれにとって(私にとっても)愛しい作品たちばかりが並ぶ時間、そして安心してトライ&エラーを繰り返せる場、それが「おだまゆの試演会」です。
次回は、過去の試演会レポートを投稿していく予定です。それではまた。