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#0202 「鉄は国家なり」:日本製鉄のUSスチール買収頓挫にみる国際関係
こんにちは!釧路人おだわらです!
2025年初の昨日、日本製鉄によるUSスチール買収がアメリカ政府の阻止により実現しないことが決まりました。
この買収劇は、あの日本製鐵=八幡製鐵所(官製)が、かつて世界を席巻したUSスチールを買収するなんてー!と注目し続けてしました。
昨日のニュースに接し、驚いただけでなく、大きな失望を抱きました。
なぜなら、日本製鉄が示した提案には、USスチールだけでなくアメリカ経済や雇用にも多くのメリットが含まれていたからです。同盟国である日本の企業がこれほど誠意を尽くしたにもかかわらず、国家安全保障を理由に拒絶されるとは、どのような背景があったのか。
その答えを考察すると同時に、この決定が日米両国、さらには国際社会にどのような影響を与えるのかについて考えてみたいと思います。
買収阻止はアメリカのモンロー主義回帰の現れ
まず注目すべきは、日本製鉄がUSスチール買収に際して提示した内容です。
同社は、USスチールの雇用維持や地域経済への貢献を明確に示し、アメリカ政府にも配慮した提案を行いました。これにより、技術力と資本力を持つ日本製鉄がUSスチールの再建を図ることで、アメリカの鉄鋼業全体の競争力が向上することが期待されていました。
しかし、アメリカ政府は国家安全保障を理由にこの買収を阻止しました。
この背景には、鉄鋼が戦略的に重要な産業であるという認識があるのではないでしょうか。
ビスマルクの「鉄は国家なり」という言葉が象徴するように、鉄鋼業は産業基盤を支える不可欠な要素であり、ITや金融も国家の繁栄には重要だが、いざ戦争で国力と国力がぶつかる時には、鋼鉄の力と火力がものを言うのです。制裁を加えられても自国で生産力を維持できるロシアが現在もほぼ自力で戦争を継続できる一方、外国からの支援なしには継続できないウクライナ。ロシアとウクライナの戦争がその重要性を改めて示しています。
鉄鋼の生産力が国家の安全保障や経済力に直結するため、アメリカが外資による買収に慎重になるのは理解できる部分もあります。
それでも、日本はアメリカの重要な同盟国です。日本製鉄の提案が拒絶されたことで、アメリカ政府が同盟国をどのように捉えているのか、その信頼関係に疑問を抱かざるを得ません。
ここで思い当たるのが、第一次トランプ政権の時でも感じたのが、アメリカのモンロー主義への回帰です。
【モンロー主義】
1823年のモンロー大統領の「モンロー教書」に示された、アメリカ合衆国の外交理念。
この考えはアメリカの外交政策の基本として、20世紀前半まで維持された。
アメリカ合衆国はヨーロッパ諸国に干渉しないが、同時にアメリカ大陸全域に対するヨーロッパ諸国の干渉にも反対する、という思想。初代のワシントン大統領も辞任に際する演説でいかなる国とも「永久的同盟」は結ぶべきでないと戒め、ジェファソン大統領も「紛糾的同盟」は結ばないと表明していたので、国際的な中立政策は、当初からのもと言えるが、モンローはさらに南北アメリカ大陸(つまり西半球)に対するアメリカ合衆国の排他的な支配権を打ち立てようとした点で新たなものといえる。
https://www.y-history.net/appendix/wh1203-010.html
トランプ氏のアメリカファーストの主張と、このモンロー主義が符合するところが多いです。
20世紀前半にモンロー主義から帝国主義化し、世界の覇権を握って以降、グローバル社会を形成したアメリカですが、国力の低下とともにグローバル社会からの撤退戦を静かに行なっているのではないでしょうか。
もしかすると、日本製鐵のUSスチール買収阻止も、グローバルな外向き世界からおさらばしたいというアメリカの一部が現れていると捉えることもできます。
また、日本製鐵の前進は八幡製鐵所です。敗戦国の官製製鉄所にアメリカの繁栄を象徴するUSスチールが買収されるという抵抗感は、経済条件とは別次元で存在していたと思います。
このように、鉄は国家なりとか、国家のプライドのような歴史の教科書にでてくるようなことが、(コロナの疫病やウクライナの戦争然り)21世紀で起きていることを目の当たりにすると、我々は現代というより近代の歴史の延長を生きていると感じます。
「鉄は国家なり」
21世紀においても、「鉄は国家なり」という言葉の重要性は失われていないように思います。
鉄鋼業は、建設、製造、軍事などの幅広い分野で不可欠な役割を果たしており、国家の工業生産力を象徴するものです。
ロシアとウクライナの戦争では、物量と生産力が勝敗を左右する場面が多々見られました。
これを踏まえると、アメリカが国内鉄鋼業を守りたいという思惑は理解できます。
しかし、日本製鉄の買収提案は、USスチールの生産力を強化し、競争力を高めるものであり、むしろアメリカの国益に資するものであったはずです。
今回の買収阻止によってUSスチールが競争力を失う場合、アメリカ市場で中国製の鉄鋼製品がシェアを拡大する危険性があります。これは、アメリカが掲げる産業保護政策の目的に逆行する結果を招く可能性を孕んでいます。
中国を利する決定となるのか?
日本製鉄の提案が拒絶される一方で、中国の鉄鋼業界は依然として過剰なまでの世界最大の生産力を誇っています。
アメリカ政府がUSスチールの買収を阻止したことで、中国が恩恵を受ける可能性についても考えなければなりません。
1. USスチールの競争力低下
日本製鉄の支援を受けられないUSスチールが競争力を維持できなければ、中国製品が市場で優位に立つ可能性があります。特に中国政府の支援を受けた企業が、低価格で大量の製品を供給することができる現状では、アメリカの鉄鋼業界全体が圧迫されるリスクがあります。
2. 地政学的影響
アメリカが日米同盟の枠組みを超えた政策を取ることで、中国に対抗するための経済的協力体制が弱体化する可能性があります。
日本製鉄のアメリカ政府提訴
日本製鉄は、この決定に対してアメリカ政府を提訴する方針を明らかにしました。CFIUS(米国外国投資委員会)のプロセスを巡る訴訟となる見込みですが、大統領が下した最終決定そのものを覆すことは難しいのではないでしょうか。
それでも、この訴訟には以下の意義があるのではないかと考えます。
•CFIUSの透明性向上
訴訟を通じて、CFIUSがどのようなプロセスで判断を下したのかが明らかになりますりこれにより、参考となる前例が作られるかもしれません。
•国際社会へのメッセージ
日本製鉄が訴訟を起こすことで、アメリカ政府の判断に疑問を投げかけ、国際社会に対して日本企業の正当性を訴えることになります。
最後に
今回の決定は、短期的にはトランプ氏の支持者を意識したアメリカの産業保護政策の成果と見られるかもしれません。
しかし、長期的には日米関係や国際的な産業競争力に重大な影響を与える可能性があります。
「鉄は国家なり」という言葉が象徴するように、鉄鋼業は現代においても国家の基盤を支える重要な産業です。
日本製鉄のUSスチール買収が阻止されたことで、日米の信頼関係や産業政策に大きな問いが投げかけられました。この決定が、日米にとって幸となるか不幸となるか、そして中国を利する結果となるかどうかは、これからの展開次第です。今後の動向を注視しながら、私たちもこの問題に対する関心を持ち続ける必要があると思います。
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