龍笛を操るひと
とある川のほとりで、龍笛を聞いたことがある。
かれこれ20年近くも前の話。
龍笛を操るのは、腰辺りまでの髪と柔らかな物腰と控えめな微笑みを持った二十歳をほんの少しばかり越えた女性。
ブンガクとバケガク、どちらに進もうか迷ってます。
彼女が何気に囁いた言葉は覚えてる。
大変だねぇ。進路って。
完全に部外者のアタシには、そう言うぐらいしか出来なくて
で、どうするの?
バケガクにいきます。ブンガクは頑張れば1人でも出来るけど、バケガクは設備や仲間がやっぱり要るので。
そうなんだ。頑張ってね。
それぐらいしか言えなかった。
年に数回会うか会わないかだったけど、彼女の近況は毎度嬉しく楽しく聞いた。
実験の番は大変なんだね。徹夜なんかもあるんだね。そんななか、わざわざ来たんだね。ちゃんと寝なよ。
娘でもおかしくないぐらいの女性に、尊敬の念を抱いた。
頑張ってね。でも、無茶しないでね。無理しないでね。って。
思ったところで、アタシには何も出来やしないんだけど。
数年後、彼女は縁あってブンガク関係の方と結ばれた。
お互いを認めあっての結論。各々の道を極めるため、個々での生活を選択した。拍手喝采である。
なんのために結婚したの?
なんて言われることも多々あると、お相手が苦笑いをしていた。
トモズミだけがすべてじゃないですよねぇ、と笑い返した懐かしい記憶。
今も、きっと彼女と彼は仲良く元気だろう。
彼のデレデレかまってちゃん具合と彼女のツンデレも相変わらずだと。
各々が良ければそれでオールオッケーじゃないのかな。
外野のガヤなんて、つまるところ責任なんて負ってくれやしないんだから。
バケガクも私も亀の歩み、行きつ戻りつです。
彼女は昔そう言って笑ってた。
彼女は、もう出会った頃のアタシの年齢を遠に超えてる。
龍笛、まだ吹いてるといいな。