ピッピへの憧れと駄菓子


『長靴下のピッピ』をご存じだろうか。
赤毛でそばかすの女の子が、諸事情により一人暮らしをしている中で起きる日常のお話とでも言えばいいのだろうか。

実は、私も原作を読んだことはない。
あるのは、かれこれ半世紀ほど前に、テレビで見た海外ドラマの薄ぼんやりとした記憶だけというお粗末さ。(なのに、そんな話を引っ張ってくるという)

当時、小学校に上がるかどうかという年齢だったように思う。自分より少しだけお姉さんのピッピが、一人で楽しそうに暮らしている。
いいなぁ~と。

そんなピッピの話の中で、唯一今でも思い出すのは、お菓子が出てきた場面。

大きなガラスの容器に入った飴や、クッキーだかビスケットだか何だかわからないけれど、きっとお菓子に違いないと思えるもの沢山。

どれもみんな、当時の私の生活とは無縁の鮮やかな色彩と光を持っていた。

お菓子の入ったガラスのポットにガサッと手を突っ込んでは、それを無造作にポケットに突っ込むピッピ。
分厚い金色のコインをこれまたポケットから出して、ジャラジャラとカウンターにばら撒くように落とすピッピ。
彼女の後ろを付いてきた友達はニコニコ笑っている。
店の主人らしい大人が何とも言い表せないような不思議な顔をしている。

好き勝手して周りの大人のことなんか何も気にしない。
この子凄い!

お店で物を買うときは、「これ下さい」と言ってお店の人に断りお金を払って初めて貰えるもので、お金を渡す時も受け取る時も、きちんと数えるものだと思っていた。それを数えもせずにまるで石ころのように扱っているピッピ。

カルチャーショックなんていう言葉は、当時の私の中には当然ないけれど、たぶんそういう衝撃と一緒に、行ったことのない外国のどこかに、きっとこういう所があって、ピッピみたいな子がいるんだと信じてた。

大人が文句を言わないってなんて良いんだろう。怒られないってなんていいんだろう。好きな時に好きなだけお菓子が食べられるってなんて凄いんだろう。それもあんなキラキラしたお菓子。

それと同時に、大人を黙らせるあの見たこともない分厚い金色のコインに憧れた。すげぇー。
(ここまでの描写には、かなり思い出補正がプラスされています。その点ご了承のほど。きちんとしたストーリーや描写はそれなりの媒体で是非)


さて、その当時の私の日常といえば。
ギリギリ二車線の駅前から延びている道路だけが舗装されていて、そこを大きな牛乳の容器を幾つも積んだ三輪トラックが、ガシャガシャ音を立てながら走っているような所だった。
そう、近くには牛舎があったのだ。
かといって、山や川が近くて自然豊かな…という場所でもなかった。

当然家の前は砂利で、雨上がりにはたくさんの水溜りができた。
柵のない大きな池が家の真裏にあり、毎年一回ぐらい「子供が落ちた!」と大騒ぎになっていた。泣く力も残っていない泥だらけの子供を、大人たちが囲んでいる情景もうっすら覚えている。

そんな田舎で身近にある店と言えば、一応「八百屋」と看板は上げているものの、野菜でも魚でもお肉で何でも売っている本当の意味での食材調達所。
そんな感じだったから、お菓子類を含む間食は、ほぼ親が用意していたんだと思う。

子供だけで行けそうなお店が出来たのは、確か小学校に入ってからだったと思う。
それも池の反対側に。うっすら見えているのに遠いというこの絶妙な距離感。

良く言えば今のコンビニ、でも実態はクリーニング屋とパン屋と雑貨屋が一緒になったような生もの以外なら置いてますよ的な何でも屋。

よくドラマに出てくるような郷愁を誘う下町の駄菓子屋さんとは全くの別物で、とても無機質な場所だった。

店の一角には、子どもの目線辺りにいわゆる駄菓子も置かれていた。通学路沿いにあったせいもあって、学ランやセーラー服を着た中学生も時折り見掛けた。

小学校低学年頃は、ペラペラの段ボールに入った駄菓子が並ぶ棚の前に群がる少し大きめのお兄ちゃんたちが怖かった。
だから、その輪の中には入れなかったし、小さかった私には、それだけのお金の持ち合わせもなかった。

とはいえ、さすがにたまには駄菓子を買うことも、母親と一緒の時に買って貰うこともあった。でも、なぜかあんまり嵌らなかった。

赤いだけの全く苺の味がしないただ甘いだけの飴。
容器だけ似せたなんだかザラザラした舌触りの謎のモノ。

苺とちゃうし
お餅もゼリーもこんな固ないし
絶対うそやって、これ
10円もするねんで?
うそやん
絶対騙されてるって

と、心のどこかで思ってた。

あぁー、ピッピの行ってたお菓子屋さんに行きたいなぁー。
ピッピと友達になりたいなぁー。

大きな宝箱のような入れ物の中には沢山の金貨。
あれだけあれば、あの美味しそうな物凄く色の綺麗なお菓子がいくらでも食べられるのに…って。

そんな甘い話があるはずない…なんてことは、ひねくれていた私でも考えが及ばなかったところが、やはり子供。

ちなみに、駄菓子といえばの遠足では、担任に「3人でおやつ代を合わせて買って、分けて食べるのはありか?」と友達と直談判しに行ったことがある。


とまぁ…
駄菓子に全く思い入れがないのに、参加してしまった企画がこちら ↓↓↓


貴重なお時間を割いて、最後までお付き合い下さりありがとうございました。


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