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ミャンマー入国:国境編〜第一印象の悪さは最後には大抵忘れているもの〜
そうは思いませんか皆さん。なんにしたってそうです。時として男女の出会いにおいても同じことが言えるし(合コンとかね)、見た目とか雰囲気で食わず嫌いだったお店や食べ物だっていざ飛び込んで見れば案外イケたりするもの。ミャンマーもそうだったし...
それにしても暑い。暑すぎる。ヤンゴン1週間滞在にして食べる、少しだけ歩く、寝る以外は結局本当に何にもしていない。
暑すぎるせいだ。
しかし流石に1週間同じ都市、しかもビッグシティというのはいくら安値で滞在できるとはいえ私の性に合わないため明日から中部の都市マンダレーに行こうと決意しかけているところだ。
タイ - ミャンマー間国境で一番ひらけている(というか唯一外国人が移動できる)国境の街メーソートの宿で早朝4:30に起床してから6時にはバイタクを拾い街を出て7時頃には越境しミャンマー側の国境の街ミャワディに着。
もはや日本人ブログで有名な「ミャワディ国境で越境してきた外国人を世話する男」(何人かいるみたい)が私がスタンプをもらっている時すでにイミグレ小屋の外で待ち構えていることは確認できていて「きたか…」という印象だった。
イミグレを通過すると男は待ってました!といわんばかりにミャンマー人にしては珍しい流暢な英語で色々と案内をし始める。察するに容易く、親切そうに見えて彼はただのバス斡旋業者。
しかし私は知っている。旅の最中に出くわす自然発生的な「親切」の中にはほんのわずかな「ただの親切な人」を除いて「詐欺師」しかいないことを。
まずは相手の言い分、というか喋りたいだけ喋らせておいて、内容やサジェストを全て無視し
「えーと。私はとにかくATMに行って現地通過を降ろして、あとはSIMカードが必要かな。」
男は(名前すら聞かなかったが)ATMならこっちだ、と案内するも、なぜか普段どこの国でもキャッシング用に使っているVISAカードがATM3機で全て全滅だった。
な ん と い う こ と だ…..
順番を変え、マシンを変え、金額を変え、別のカードを使う、またしても同じ機械でチャレンジするなどしても効果なし。
この時点で「くそうミャンマーめ…」となっていた。
ATMで現地通貨が引き出せないとなると、それイコール、ミャンマー滞在そのものを諦めるしかなくなる。
すると男は少し考えてからこう提案してきた。
「これまでそんなパターンになった人は見たことないよ。そうすると、一度タイ側に戻ってタイATMでバーツを下ろしてきてこちらで両替するしかないね。君が他の通貨を持っていれば別だけど。」
そうしたやりとりの中で日本円から替える場合のレートとタイバーツから替える場合のレートを伺っていた。男が言うレートでは、日本円からよりタイバーツからの方が明らかにレートが良かった。
うーん、と考えた。
なぜなら、日本円を持っていたからだ。
毎回長期の旅行に行く際は、非常時用(パスポートを盗まれた際などに領事館へ届け出るなどの諸手続きに必要な数日を過ごせるだけの現金、あるいは航空券が買えなかった時、財布を盗まれた時用etc…)にとだいたい3万円ほど携帯するようにしているのだ。しかしそのうちの1万円はすでに中国へ降り立った時に元へと両替してしまっていたため残りの手持ちは2万円だった。
ここで1万円(ここは小さな街だったため希望額だけの両替ができなく、必然的に1万円丸々替えざるを得ないことになる)を両替してしまうと残りはたったの1万ぽっち。これじゃ非常用には少なすぎる…
そうした葛藤を抱えていた私はしばらく悩んだのち「じゃあタイに行く…」と告げた。面倒だとはいえ少し歩きさえすればあまり損をせずに済む=それだけミャンマーで使える現金が増える、ということなのであれば、早起きして時間には余裕があるし、歩けばいいだけだ。それに男が「姉」と呼ぶ両替商の女(顔は全く似てない)の店先にメインバッグを置かせてもらえるようなので
「そっちが私を利用しようという魂胆なのならこっちだって利用するだけ利用させてもらおう!(すでにここから利用するフェアなバス会社は入念に下調べしてあるから、こいつからは情報だけ搾り取ってさよならするつもりだった)」
と、相変わらずの図太さを発揮していた。何なら、簡単に騙せるとでも思いやがって、しめしめ。くらいには思っていた。
これは単に私の性根が極めて曲がっているだけである。
一度出入国しているためもうゲートは通れないので、審査官?たちとツーツーであるようなこの男についてきさえすればゲートはスルーできるとのことで、黙ってついていくことにした(通ろうと思えば通れるがここは男の厚意に甘えさせてもらった)。
するとゲートを抜ける直前になって、タイ行きをためらったかのように男がふと「わかった、これはどうだ?1万円を○○チャット(ミャンマーの通貨)。これが俺にできる最大のレート率だよ」と携帯の電卓を手に最終交渉ときた。
私の中ではすでにタイへ行きタイバーツを手に入れることに心は決まっていたところに突然の交渉だったから、動揺してしまった。しかしひるむ訳にもいかない。こちらもこちらですぐさまレートを計算した。
うーん。。。。
もちろん、通常の街の両替商としてはかなり悪いレートだった。空港の両替所と同じか少し高いぐらいだったか。
ただそのレートで計算すると、タイバーツから替えたとしてもあまり変わらない。
少し歩いたところで頭の中でいろんなことを考え、
《これならわざわざタイ国境まで戻る体力は全然ペイされない=ここで日本円から両替する方が疲れない》
決断を出した私は「わかった。じゃあ日本円からチャットに変えるよ」と伝えると、すでに国境にかかる橋を渡っていたので男は少しうんざりしたような顔をして肩をすくめてから、来た道をミャンマー側へと戻った。
男が自分の姉だという女が道路に向かって腰を据えている簡易的なテーブルで両替を済ませ、ATMが一切使えなかったこと、この男から離れたかったことなどの総じた不信感からさっさとこの街を出て少なくとも大きな都市に行きたかった私は「バスチケットも俺が手配してやる」という男には丁重に断り、事前に調べておいたローカル御用達らしい格安バス会社へと向かおうとしていた。
しかしそのバス会社は歩くと若干遠いということも下調べで浮き上がっていた懸念ではあったから、一応、念のためにと男の紹介するバスでヤンゴン(ミャンマー第一の大都市。2006年まで首都だった)までいくらか尋ねると、
15000kyat=1,110円
........やっぱり。私が下調べしていた価格は8000kyat(=590円)と、倍近くの値段をふっかけてきていたのだ。
もちろん、ここミャンマーをはじめ主な東南アジアと比べると随分と経済指標の高い日本的な感覚で言えば400km、4時間以上もの距離ならば$10でも何も不満はないが、その国にはその国の物価、平均値があるのだからそう易々と騙されてやるわけにもいかないし、第一決まった予算の上で旅している以上少しでも支出を減らしたいのは当然の考えだ。つまりケチ。
「あはは。そうやって欧米人たちを騙してきたんだろうけど、私にはきかないよ。だって本当はその半値だって知ってるんだもの。ただ色々と世話してくれてありがとう。じゃあね」
そういってついに別れようとした。すると今度は
「SIMはどうするんだ?欲しいと言っていただろ。うちで手に入るぞ」
と何がなんでも、どうにかして金を搾り取りたい様子(笑)
これについてももともと入念に下調べしておいた私はカード本体だけで180円、これに2.5GBのデータを合わせても日本円で400円ほどだと知っていたけれど、まずは聞いてやろうと思い値段を聞いてみた。
「カード本体 25000kyat = 1800円」
さすがに爆笑してしまった。
「ねぇ...本気で言ってんの?それ日本の値段より高いよ?笑 あのね、さっきも言ったけど、私は本当はその1/10の値段(180円)だってこと知ってんの。さいなら。」
。。。。。。
。。。。
。。
先述もしたけど、旅先でバックパッカーはこうした人物に声を掛けられやすい。そして彼らの中には単純に、完全な親切心でやっている者と端から騙してやろうという両方がいて、この見極めは旅慣れている者にとってもかなり難しいものがある。ただ留意しておかなければならないのは、常に、どんなときも「一方的で自然発生的な親切には何らかの下心がある」ということ。そして私は心の底からこうした "何も知らない外国人だからと足元を見てふっかけようとしてくる連中"というのが嫌いで、根性が許せないのだ。
一生懸命に商売なりパフォーマンスを披露した上で腰が低い方が、余計チップを弾みたくなるというものじゃないだろうか。
というわけでこの「一見お節介お兄さんa.k.aただの詐欺師」を後にしてスタスタとバス会社を目指した私。聞いていた所にはかなり歩くみたいだったけど実際は10分ほどで到着。大荷物を前後に背負い、早朝とは言えすでに猛烈な日差しを照らし始めているミャンマーの熱気の中歩いていた、その10分間の、何と清々しい気分だったことか。
初めての国、初めての景色。たった数百メートルほどの距離なのに、道行く人々の衣装に、軒を連ねる商店に下がる見慣れぬ文字に、空気に、街並みにーーーーーーーー
数分前までのイライラから解放されたこと、無事国境を通り抜けたこともあり、また早朝だったということもおまけして、これまでになかったほどすがすがしく爽快な気分で、ワクワクしながらバス会社カウンターへとたどり着いた。
英語は通じるのかな。さっきの男みたいだったらやだなーーーー
そんな不安を抱えつつもスタッフらしき人に近寄る。すると嬉々として
「どこへ行くの?ヤンゴン?大きな荷物はとりあえずそこに置いて。」
流暢ではないにしても、笑顔で、ハツラツと、そして優しく案内してくれた。この時点ですでに私の顔はほころんでいたと思う。予想通り590円を支払い、ゆっくりしていると今度は「コーヒー飲むならあっちの店ね。」と聞いてもいないのに教えてくれた。そう、ちょうどコーヒーが飲みたかったの(泣)。
案内された超超ローカルな喫茶店と思しき店に入ると、観光客はもちろん東洋人が珍しいのか全員の視線を集めてしまう。が、嫌味なものではなく、子供からおじさんまでそのほとんどが、何とか私の欲するものを聞き出そう、手をさし出そうというものだった。なぜかコーヒーは完売とのことで(その場にいる全員それっぽいの飲んでたけどw)あいにくの缶コーヒーだったけれど、それでも十分ありがたかったし、彼らのホスピタリティのおかげで何より気分が最高だった。そして不思議なことに炭酸入りのコーヒーだったそれは私の望んでいたコーヒーとは完璧に違うものだったけれど、それでもなお、だった。
異国の不思議な飲み物を味わいつつ手元の時計をミャンマー時間へと変更。タイ国境から数キロもないというのに一応時差が発生しているため-30分となったのだ。出発まで2時間以上も持て余していたこともあり、その足でこれまたすぐそばのSIMカードショップへ。調査通り、カードとデータで400円足らず。外国人価格ではなくローカルたちが手に入れる同じものを同じ価格で手に入れること、これこそがその国の物価を肌で感じられる部分であるし、適正と言えるのではないだろうか。
というわけで、越境してすぐの厄介なやり取りのみを除いて、既に気づいてしまったミャンマー人たちの温かさ、ホスピタリティーに感動していた私は浮き足立って国境の街、ミャワディを後にした。
この後の日々で起こり得る何もかもが待ち遠しい、そんな国境の朝だった。