テロリストをもてなした。空腹になった彼らに撃ち殺されることを恐れたからだ
午前7時、警報が鳴った。近所のシェルターから自宅に戻ると、窓ガラスが割られ、中に5人の 「ロットワイラー(テロリスト) 」が侵入していた。彼らはラウミサイル、AK-47、手榴弾を持って武装していた。
私の息子が警察官だったので、息子が見つからないかだけが気がかりだった。見つかれば、すぐに彼を狙うとわかっていたから。彼らは 「アラーアクバル(アッラーは最も偉大なり)、私はシャヒード(殉教者)だ 」と言いながら、私の頭上に手榴弾をかざし、2階に行けと命令した。夫も私と一緒だった。
まもなく、数人の警察官が到着し、私たちを解放するよう交渉を始めたが、そうはさせなかった。彼らは釈放してほしいパレスチナ人の囚人の名前を言い、その囚人たちが釈放されたら、私だけを解放すると言った。
私は彼らに話しかけ、「コーヒーか紅茶はいかが?」と尋ねた。彼らの気をそらしたかった。外にいた警察官たち(そのうちの一人は私の息子)に、何か食べ物や飲み物を買ってくるように頼んだ。私はこの現実が夢であるかの様に感じた。
昼になると、また彼らに「お昼食べる?私たちは兄弟なのだから、こんなことしないで」と話しかけてみた。彼らが空腹になったら、私たち夫婦は手榴弾で飛ばされると思ったからだ。しかし、一人が「黙れ、私はシャヒードだ」と答え、夫の頭に銃を向けた。私は夫に、「こっちに来て、一緒に『シェマ・イスラエル』の祈りを唱えよう」と言った。
ある時点で、夫が 「レイチェル、これで終わりだ。僕たちは撃ち殺されるんだ」と言った。
アレックスという警察官がテロリストに話しかけ、「(夫の)デビッドは人質として残るから、レイチェルを解放してくれないか?そうしたら、(あなたの)奥さんや子供たちと電話で話す時間を作るから」と言うと、彼は「みんなが死ぬんだから、子供たちと話す必要はない。俺が死ねば、あんたも、レイチェルもデビッドもみんな死ぬぞ」と言った。
私は彼らに子供たちは何をしているのか、何歳なのかを尋ねた。子どもたちにリオール・ナルキスの歌を教えられたらなぁと話しながら、食べ物と飲み物を差し出した。私はまた、彼らが空腹になったら、銃を撃ち始めるのではないかと心配したからだ。
息子が、自分が私の息子だと言うなと合図するのを見た。警官の一人が中にいるテロリストは何人かと合図をしてきたので、私は頭に手を置き、手で「5」のジェスチャーした。テロリストの一人が私を見て、「レイチェル、ディル・バラク(気をつけろ)、バカなことをするな 」と警告した。私は「頭が痛いのよ」と言ってごまかした。
テロリストの一人が1階に降りた時、警察官が彼を撃ち、別のテロリスト1人は負傷した。そこで、私は負傷者に手当をしようと言った。包帯を持ってきて彼の手を手当てし、「心配しないで、横になっていなさい。何か食べたり飲んだりしたいものはある?」と聞いた。彼は水を頼んだ。警察官がパイナップルの缶詰を持ってきたので、私は 「顔色が悪いわよ。甘いものを食べてたら気分が良くなると思うわ」と言った。
その間も、手榴弾は私の頭の上にあり、銃は私に向けられ、ラウミサイルもそこにあった。頭の中では「神様、私は何をするべきなのでしょう」と思っていた。
テロリストの1人に「今何時か教えて」と聞くと、「午後4時だ」と教えてくれた。彼らは、事あるごとに、警察官のアレックスに 「ディル・バラク(気をつけろ)ディル・バラク 」と言って、バカなことをするなと警告し、警察官は彼らを落ち着かせようとしていた。またテロリストたちは、私たちを救出するための部隊がこれ以上増えていないか、窓の外を頻繁に見回し確認していた。私は絶望的な気分になり始めた。「彼らに私を撃つように言った方がいいと思う。もう気が狂いそう」と、警察官のアレックスに合図すると、「レイチェル、大丈夫。息子さんはあなたが何か食べたかどうか聞いていますよ」とアレックスが合図した。この言葉のおかげで、私は息子が外にいることを思い出し、彼が助けに来てくれると気を持ち直すことが出来た。
息子が特殊部隊のために、家の見取り図を描いたのだと思う。
午前2時半、私はソファに座り、テロリストは私たちの隣にいた。特殊部隊がバルコニーと屋根から入ってきた。後で「どうやって屋根から入り口があることを知ったんですか?」と尋ねると、「ドローンを飛ばして知りました」と言っていた。
私は身をかがめ、夫は私を守るために即座に私に覆いかぶさった。
テロリストたちはみんな殺されて、私たちは解放された。その時の記憶はあまりなく、私は靴すら履いていなかった。
私は兵士たちに、「あなたたちは英雄です。私の命を救ってくれました」と言った。すると、兵士の一人が「いや、私たちは兵士としてやることをやりました。あなたこそが英雄です!テロリストたちの話を聞いて、食べ物と水を与えたんだから」と私に言った。
自分がなぜそんなことをしたのかわからない。SWATチームがテロリストを撃ったとき、彼らは私のすぐ隣に座っていた。そこから生き残れたのは、奇跡でしかない。
レイチェル
出典 Ynet