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北村直也『男はつらいよ私の寅さん』を語る

北村直也さんがFMラジオ「ムービーボヤージュ」で『男はつらいよ私の寅さん』について語っていました。


(町田和美)北村さん、こんにちは。今日もよろしくお願いします。今日は「男はつらいよ」12作目ですね。

(北村直也)こんにちは。こちらこそどうもです。マドンナとして岸恵子さんが出演されている作品ですね。

(テンパープラザー広瀬)岸恵子さん、綺麗だなぁ。

(町田和美)私あんまり存じ上げてない方なんですが、本当にお美しいお写真ですね。

(北村直也)お綺麗ですよね。私自身もリアルタイムでご活躍されている映画などは本当に記憶が薄いんです。ただ、岸恵子さんって方はもちろん存じ上げていて、今年88歳を迎えられるんです。

(テンパープラザー広瀬)88歳!?!?

(北村直也)はい、しかもほんとにこのままの感じでお美しいんですよ。

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(北村直也)この作品の中で岸さんは、柳りつ子という役名の貧乏芸術家として登場されるんですね、寅さんの小学校時代の友達の妹さんという設定なんです。ただ、実際の岸さんも当時フランスに住まわれていて、その辺りをオマージュされているんです。

(町田和美)フランスですか。

(北村直也)どちらかというと年代的にも私たちの親の世代の女優さんなんですけれど、私の母親も昔岸恵子さんのことを「海外で住んでる少し変わった女優さん」といったような表現をしていたことを子供の時に聞いた記憶がありますね。岸恵子さんは「君の名は」という映画で一世を風靡されるんですが、その後、あるフランス人の映画監督さんとのご縁で、その方と24歳の時に結婚して突然フランスに移住されるんです。

(テンパープラザー広瀬)へぇ〜。

(町田和美)そうなんだ。24歳で。

パリでの移住生活

(北村直也)当時おそらくいろんなことを言われてたんでしょうけれど、今じゃ考えられないですけれど、日本にもいろんな規制とかがあって、自由に海外で生活なんかもできなかったので、非常に珍しかったんですね。だから、そういう目で世間からも見られていたってことなんですよ。

(町田和美)その前の映画で当たったこともあって、言葉悪いですけど、ちょっと奇行的な感じなのかしら。

(北村直也)かもしれないですね。当時のフランス人監督、シャンピさんっていうんですけれども、この方との運命的な出会いはすごく大きかったのでしょうけれど、岸恵子さん自身も一人娘でいらっしゃったってことですから、相当の覚悟で移住されたんだと思うんですよ。1957年の5月1日、これを彼女は後にご自分の独立記念日だっておっしゃってるんです。

(テンパープラザ広瀬)並々ならない覚悟だったんでしょうね。

(北村直也)ところが、フランス・パリでの生活は順風満帆じゃなかったんですよ。もちろん旦那様はすごくよくして下さったらしいんですが、嫁いだ先のシャンピ家っていうのが結構な名家のようで、お家にメイドさんがいたりして、一切家のことを自由にできなかったそうなんです。自由を求めて移住されたのに思い描いていた自由はそこになかったんです。

(町田和美)なるほど。

(北村直也)でもそれは大事に大事にされてたからなんですけれど、岸さんは「私は絶えず動いて働いていたい人間だ」っておっしゃってるように、ご本人がお持ちの自己概念と現状が違っていて不一致を起こすんです。週末になるとたくさんのお客様がお家に来られたりして、本人もフランス語がわからないものだから、大学にも通ったりされて。そうなるとストレスが多くなって当然ですから、不眠症とかにもなられてノイローゼになったりするんです。独立記念日だと言ってるのに本当は独立記念日じゃなかった。

(テンパープラザー広瀬)なんとも皮肉な。

(北村直也)皮肉ですよね。結局、岸さんはお子様にも恵まれるんですが、その後18年ほどの結婚生活に終止符を打たれるんです。パリを発たれるのがこれまた5月1日という同じ日だったそうなんですが、岸さんは2回目の独立記念日だっておっしゃってます。今回の「私の寅さん」はちょうどその頃のお話なんです。

(町田和美)すごいバックグランドがあるんだ。

(テンパープラザー広瀬)人生がまんま映画みたい。

(北村直也)僕ね、この話を聞いた時、ふと思い出したことがあるんですよ。

第9作の歌子のセリフから

(北村直也)「男はつらいよ寅次郎柴又慕情」第9作なんですけれど、吉永小百合さん扮する鈴木歌子のセリフの中に、ちょうど似たような話があるんです。とらや(くるまや)で歌子が過去に結婚寸前まで行ったときのことを回想するシーンがあるんですけど。「ある日その人のうちに遊びに行ったら、バラの咲いている綺麗なお庭があって、その人から、結婚したら君は、バラの手入れだけしてりゃいいんだよって」言われたって話なんです。

(町田和美)ふんふん。

(北村直也)「そのとき、急になんだか嫌な気持ちになっちゃって、結婚を辞めちゃったって話」をするシーンなんです。「バカにされたみたいな気持ちになった」っていうシーンで。

(テンパープラザ広瀬)女を甘く見るんじゃないよ、って感じの。

(北村直也)はい、岸さんの話を聞いた時に、僕の中ではすごくこの歌子のシーンと重なっちゃいまして。おそらく、山田洋次監督は、岸恵子さんの本当の女優としての生き方の中に、自分が思っているいまだ解放されない女性のイメージというか、それをみたんじゃないかなって思うんです。だから、変に役を与え過ぎないで独身芸術家っていう役柄をあてがうことで、素の岸恵子を柳りつ子として演じてくれ、そんな思いじゃなかったのかなと。あくまでここは憶測ですが。

(町田和美)わかる気がする。

(北村直也)作品の中では、結構この柳りつ子っていう女性が強いイメージで描かれてるんです。身体が細くてキリギリスだとか、からかわれるんですが、初めて寅さんとの対面の時は、「熊さん」という間違い方はともかくとして、寅さんと口喧嘩を始めるところからスタートしますし、なんなら取っ組み合いでも起こしそうな勢いなんです。

(テンパープラザ広瀬)そんなに(笑)

(北村直也)そうなんですよ。だからこの作品、数ある作品の中でも、最後の別れのシーンではきちんと誤魔化さず柳りつ子は自分の言葉で寅さんの気持ちを断るという、数少ない感じになってるんです。寅さん、この作品では完全な形でフラれちゃうんですよ。なんか昔よくいませんでした?お兄ちゃんがいるって子で、なんか見た目華奢なんですけど、男勝り感がかなり強いような子。

(テンパープラザ広瀬)おまけに口も立つっていうね。

(北村直也)いましたよね。イメージはそんな感じに近いんですが、でもこの映画の岸恵子さんは、そんなこと全然気にならないくらい、ほんとにお綺麗ですよ(笑)あとこの作品での見せ場は、岸恵子さんのお兄さん役の前田武彦さんの演技なんですが、売れない放送作家ってのがほんとに笑えます。お上手なんですよ。

(町田和美)いろんな番組にご出演されてた方なんですよね。

(北村直也)そうなんです。一番有名なのは、「夜のヒットスタジオ」の司会なんでしょうけれど。

(町田和美)え?そうなの。

(北村直也)はい、今で言う放送事故的なことを生放送中に起こされるんですよ。そのあと、干されるんですよ、業界から。でもそんな前田さんは実力のある方だし、やっぱり山田洋次監督の目に留まるんですよ。それでご出演を果たされるんですね。

(テンパープラザ広瀬)監督、いろんな人に目をつけるんだ。

(北村直也)まぁ、それが山田監督の真骨頂ですし、人生と照らしあせてご出演されてる岸恵子さんといい、やっぱりいい味を出されるから、山田洋次監督の眼鏡が凄かったって話ですよね。あと、この表題の「私の寅さん」という理由が最後の最後でわかりますから。

(町田和美)岸恵子さんご自身のドラマチックな人生と交錯する「男はつらいよ私の寅さん」は、大阪ステーションシネマ他で【7/10(金)~7/23(木)】に期間限定で4K上映されます。北村さん、今日もありがとうございました。

(北村直也)はい、こちらこそどうもでした。あ、来週は、吉永小百合さんの歌子ちゃんがまた登場する作品ですからね(笑)


<書き起こし終わり>



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