「86歳、やっとひとり」 ~ #57 「手作りがいい」だと?!
N県の高齢者ホームにいる母とは去年の10月以来会っていない。3回目の「緊急事態宣言」が出てしまうくらいだから、次に会えるのは母娘共コロナワクチン接種が終わってからになるだろう。
「別にいいわよ~。こっちはぜんぜん問題ないし、自粛生活にも慣れちゃったから。 …それより荷物届いたわよ!」
GW訪問できない穴埋めに、北山君からのミステリーの古本を10冊ほど送っておいたのだ。内容をスグ忘れてしまうのを幸いに、同じ本を2回も3回も楽しめる母のこと。これだけあれば梅雨入り前までの1クールはいけるだろう。
「さっきちょっと食べたけど、『柚子ジャム』がとっても美味しくて…。やっぱり手作りは違うわねー。」
オマケとして入れた自家製のジャムもお気に召したらしい。宅配ボックスの空きスペースに「手作りジャムやお菓子」、クッション材がわりの「スナック菓子」を詰めて送るようにしているのだが、この“趣味のオマケ編”が近頃なかなかウケが良く、こちらにとっては“贈る愉しみ”になっている。
それにしても、一体全体いつから母は「手作り尊い♥」の人になったというのだ!?
#42「梅仕事」の回にも書いたが、東京にいた頃は「めんどくさい」だの「買った方が安い!」だの、手作りを楽しんでいるこちらの気分を下げることしか言わなかったくせに、まったく「どのおクチが言う?!」だ。
リップサービスするタイプでは無いから「美味しい」も「ありがとう」も本心なのだろうが、あまりの掌返しに私も妹のミウちゃんも苦笑するしかない。娘の手作りに「ありがたみ」なんぞ感じてしまうのだから、“大丈夫”を繰り返す母もけっこう焼がまわったのだと思っている。
まあ喜んだ上にお料理センスを褒められればこちらも素直に嬉しい。臆面のないテノヒラ返しは私としては大歓迎だ。もともと我が家は「アッサリあとを引かない」家族だが、そこに「老人力」が加わり母のご都合ポテンシャルは年々パワーアップしているらしい。
「何でもすぐ忘れちゃうんだけど、最近思うのよ。“忘れる”っていいことよねー。」
忘れたいことがあるかどうかは知らないが、母はとりあえず毎日ハッピーのようだしそれが何より。「こだわらない、とらわれない、かたよらない」般若心経の心(?)で、これからもミステリーを2度3度繰り返し愉しむように、日々を味わって頂きたい。
「86歳、やっとひとり」 ~ 母の「サ高住」ゆるやか一人暮らし
「何も起きないのが何より」の母のたよりと、「おひとりさまシニア予備軍」(=私と妹)の付かず離れずの日乗。
【ここまでの展開】
「最後は(故郷)〇〇山の見えるホームで暮らすの💗 」 60代前半から”終の棲家”プランを温めていた母が、86歳と10か月、ついに東京に住む私と妹を残しN県に移住した。
予想外のコロナ禍の中、母はホームでの二年目を迎えた。