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「86歳、やっと一人」 ~ #53 バレンタイン

友人の「親話」を聞きながら思い出したのが、#7登場のマナカちゃんと同様、親とつきあう際に悩ましい高齢者ならではの「イヤイヤ期」や「ネガティブ攻撃」のこと。

お母様はホーム行きを阻止しようと、あの手この手で娘の同情を買おうとしたという。
「子供返りしちゃってるみたい。私憎らしくて、時々ぎゅーってツネっちゃうの。」アニメ声のマナカちゃんの口からそんな言葉を聞くたびに私は可哀想でたまらなかった。(#7「先達の話」より) 

電話や顔を会わすたびに「愚痴」や「不安」を聞かされるのは堪らない。ついイラっと来て言い返すと後からボディブローのように苦い思いが沸き上がる。ウチの母もなんだかんだで「Noがキっツイ!」人なので、10年ほど前大手術を受けた後の心身ままならぬ時期などはネガティブ発言のオンパレード、こっちがおかしくなりそうだった。その頃私は密かに「AKB78」(=悪態ババア78歳)と呼んでいた(笑)。

マナカちゃんのお母様はその後ホームに無事入居。気持ちも落ち着き安心したのかネガティブ砲も自然と治まったという。ウチの母も私や妹相手にやたらはっきり「No」を言うところは変わらないが、とりあえず今の生活に満足しているらしく“AKB化”の兆しは見えない。

ところで先日、YouTubeで最近はまっているミュージシャンのオールナイトニッポンを聞いていてビックリしたことがある。「悩み相談」コーナーで15歳の女の子の「お父さんに冷たくしてしまう」という苦しくも可愛らしい電話に、私は判ったような顔で「そーゆー時期が無いと近親相姦しちゃうから、神様がそうしたんだよー。大丈夫、また仲良くできる!」とか聞いていたのだが、MCの彼の答えは -

「“オヤジ今日死ぬ”。そう思ってみるってどう?」

若干22歳(放送当時)の青年の口から、それも割と本気で出た言葉に私は驚いてしまった。
「反抗期とかあんま無かったけど、うちの親父はワリと歳行ってたから…。」

親が死ぬとか、若い子がリアルに想像なんてできるのだろうか!?
リアル過ぎる年頃の私だっていまだにピンとこないというのに…。

ところが数日後あらためて考えてみると、私も子供の頃は「パパやママが死んだらどうしよう!」と想像したり夢に見ては枕を濡らしていたのを思い出した。子供はそれだけ親の庇護を必要としているということだし、ある程度成長してからは、“まあ、あり得ないけど”と思っているからこそ想像できることもあるのかもしれない。
さて頑張って想像してみよう。今日母が亡くなったと連絡が来たら・・・・

私の場合「えー!まさか!」と驚いた後、「そうか…。うーん、ちょっと早かったけど、まあポックリで何より。」と受け入れてしまう気がする。(寂しさはもっと後からやってくるとしても。) 相応な年齢ということもあるが、「とりあえず楽しそうだったから」というのが大きいだろう。

ちょっとだけ後悔があるとしたら、先週の電話でバレンタインチョコレートのことで悪態ついた事くらいか。

「パパに手作りチョコレート送るから、お供えしてね。」
「あ、ヤダ!チョコレート食べないからイラナイ!!!」
「アンタじゃない!パパに贈るの!!!」
「やめてよー、無駄になるから!!!!」
「うるさいーーーーーっ!!!!!!!」

男性はドン引きすると思うが、平時の母娘ゲンカなんてまあこんなもんだ。このくらいの調子でいってくれるのがいい。


「86歳、やっとひとり」 ~ 母の「サ高住」ゆるやか一人暮らし
「何も起きないのが何より」の母のたよりと、「おひとりさまシニア予備軍」(=私と妹)の付かず離れずの日乗。

【ここまでの展開】
「最後は(故郷)〇〇山の見えるホームで暮らすの💗 」 60代前半から”終の棲家”プランを温めていた母が、86歳と10か月、ついに東京に住む私と妹を残しN県に移住した。
予想外のコロナ禍の中、母はホームでの二年目を迎えた。


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