「86歳、やっとひとり」~ #49 ショッピング
Go To トラベル “都民解禁!”に励まされて、10/中旬ようやくN県のホームに暮らす母の訪問が叶った。
高齢者施設ということで入館はご遠慮して、母とは2日間、ランチ~お買い物の「お出かけコース」を楽しむことに。車中は女3人のトークが止まらない。
「よく来てくれたわね!クルマ久しぶりだけど運転大丈夫?
ミウちゃん、そんなブラウスなんかでヤダわー。風邪ひくから何か上に着てちょうだい!」
規則正しい生活ですっかりスマートというか一回り小さくなったものの、母は元気いっぱいでひたすら妹の薄着を気にしている。
「んもー、暑いんだってば!」
しつこい追及に音を上げたミウちゃんがキレ気味に返すやりとりを聞いているうちに、家にいた頃の日常が戻ってくる。女同士の遠慮のない会話はときにちょっとコワい。
それでも
「来週でちょうど一年だもの。早いわねー。」
「ホント、いいタイミングに来て良かったよね。コロナでこんな騒ぎになるとは夢にも思って無かったもの。ママがここに居てくれれば私たちも安心。」
私たちは7ヵ月ぶりの再会にホッとしていた。
*
ランチは母のリクエストで「回転ずし」。大好物の鉄火巻きを3回もリピートして腹ごしらえをすると、午後はいよいよ待望のショッピングだ。
「着るものなんかいっぱい持ってるから大丈夫よ」とか言っていたくせに、今日のために母が用意したメモにはインナーやらアウターやら7つも8つもアイテムが並んでいる。日々ホームの皆さんと顔を合わせることでオシャレ心が刺激されたようだ。
さらに洋服屋さんの隅に置かれたラブリーな手提げやポーチにも引っかかっていると思ったら、
「皆さん食事の時に持ってくるのよ。鍵とハンカチくらい入るカワイイの❤️」
ひゃあ、これはもう“女の子”レベル!
「まあ欲があるのはイイことだよねえ。長生きの元だし。」
私と妹のミウちゃんは、ダメ出しの多い母に振り回されながら着々任務を遂行し、2日間でお買い物リストをコンプリートした。
「昨日買ったカーディガンさっそくお夕飯に着ていったら、羨ましがられちゃった!」
すっかりご機嫌な母にこちらも気を良くしながら、私は何となくスタバでお茶をしながら聞いた母の話が心に掛かっていた。
ホームには頭も体もすべて自由になる人はむしろ少なく、また私たちのように一緒にお買い物を楽しめる娘や親族が訪ねてくる人ばかりでもないという。
「〇〇さんは右半身が不自由だから一人でお買い物に行かれないし、息子さんが来た時につきあってもらってもお洋服とかはねえ…、ウチはホント良かったわー。」
無邪気に喜ぶ母の笑顔を見ながら、母のワイン色のカーディガンを羨ましく眺めているお友達のことを想うとちょっと切ない気分になる。私たちの訪問でテンション上がり気味の母の様子が、周りの方を悲しませることがないよう思わずにはいられなかった。
お友達がいなくても心配、いても心配。
幼稚園に通い始めた子供に、親はこんなことを思うんじゃないだろうか。
87歳の母を相手にそんなことを思うようになるとは…。なんだかちょっとオカシカッタ。
「86歳、やっとひとり」 ~ 母の「サ高住」ゆるやか一人暮らし
「何も起きないのが何より」の母のたよりと、「おひとりさまシニア予備軍」(=私と妹)の付かず離れずの日乗。
【ここまでの展開】
「最後は(故郷)〇〇山の見えるホームで暮らすの💗 」 60代前半から”終の棲家”プランを持っていた母がついに行動に出た。気に入った施設も決まり、引越しを経ていよいよ母の”新生活”一年目が始まった。