元芸人と元AV助監督の交換日記「僕がAV業界に入ったきっかけ〜とあるAV監督との出会い〜」#5(いのり)
もう5回目の日記となった。ところが、未だに日記の体を成していないことに先輩に言われて気づいた。もはや日記ではなく手紙だ。
初めは続けられるだろうかと不安だった。しかし始めてみると思いのほか楽しく、全く苦にならない。今のところ。なるほど、受刑者たちが、文通を頻繁にする気持ちがわかった気がする。
先輩が言ったように、僕らは普段「真面目な会話」を一切しない。どんな面倒事を抱えていても、会ってしまえばずっとふざけている。「いる」というよりは「しまう」方が正しい。もはや病気だ。
文章だと真面目な話をすることができる。自分はもちろん、先輩の「真面目」な一面も見る事が出来た。なんだか僕の知らないパラレルワールドに住む「先輩」と会話している気分だ。不思議な感じだけれどワクワクもする。
「セクシャル」、「バイオレンス」。僕もこれらに魅せられた1人だ。その結果、AV業界という「セクシャル」に全振りした世界へ足を踏み入れた。
僕にとって忘れられない出来事がある。カンパニー松尾監督とバクシーシ山下監督との出会いだ。
大学4年生のクリスマス・イブ。阿佐ヶ谷でのこと。僕はとあるAV作品のイベントに参加した。それは「死ぬほどセックスしてみたかった」(バクシーシ山下監督)というAVを観るという内容だった。この作品はAVマニアでは「伝説」の作品として知られている。何が伝説なのかというと、その過激過ぎる内容だ。「非道徳」、「非倫理」、「アンモラル」全てが詰め込まれている。それ故、絶版となっている。それ以外にも出演していた女優さんが死んでしまったりと多くの「いわく」がある。
僕はワクワクしながら「阿佐ヶ谷ロフトA
」に足を向けた。興奮のあまりか、会場にかなり早く到着した。時間を潰す為に会場内をふらふらしていると、物販が行われているのが目に入った。
小さな机の上にはバクシーシ山下監督、カンパニー松尾監督の作品やグッズがぎっしりと置かれていた。僕にとってはまさに「クリスマスプレゼント」だ。
僕は作品を1つ取り、会計をしようとした。すると「DVD2個購入なら値引きするよ。」その言葉を聞き、もう1つDVDを手に取り財布を開いた。
「やばっ。」手持ちのお金が足りなかった。「じゃあ、頑張って1000円引きにするよ。」僕の様子を察したのか物販スタッフはさらに値引きしてくれた。しかし、それでもお金が足りない。するとカンパニー松尾監督がタバコを咥えながらこちらに近づいてきた。「どうしたの」と監督は物販スタッフに話しかける。「この子お金が足りないみたいで。」監督は「なるほどねえ。」と言いながら僕の顔を見た。すると、まさかの反応が返ってきた。「あれ、前のイベントも来てくれたよね?」。
僕はその前年に行われた違うAV上映会にも参加していた。その時もカンパニー松尾監督がいた。そこで「AV監督になりたいんです!」と話した僕のことを覚えていてくれたようだった。
「結局AV監督にはなれそう?」監督が僕に聞く。「実は(大手AVメーカー)に内定決まりました。」すると思いも掛けない答えが返ってきた。「そうなんだ。分かった。今回は出世払いでいいよ。」
今思い出しても、言葉が出ないくらい痺れる。僕は頭が真っ白になりながら破格の値段で2つのDVDを手に入れた。イベント後、タバコを吸うカンパニー松尾監督にサインを貰った。サインの隣には、こう添え書きがあった。『現場で会うの楽しみにしてるよ』
その後カンパニー松尾監督との約束を果たすことはできなかった。僕が業界を辞めてしまったのもある。それ以外に「今」のAV業界ならではの事情も要因だった。今でもあの時のことが夢に出るし、ずっと後悔している。
話せば一瞬。書いて見ると思いの外長かった。バクシーシ山下監督、あともう1人の僕にきっかけを与えた人のことは次書くとしよう。もし、日記の番外編があるならば、バクシーシ山下監督のことを書きたい。
P.S. 痺れた、悔しかった、辛かった。先輩の芸人人生の中で「忘れられない出来事」はありますか。あれば聞きたいです。
業務連絡:これまでの日記で書ききれなかったとかありますか。流石に悩み続けると疲れると思います。なので、とにかく書きたい事、書き足りない事をコラム形式で書く「番外編 コラム企画」をやるのはどうでしょうか?