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【ステルスリハビリテーション】

利用者A様は、大のキレイ好き。デイサービスホール内の小さなティッシュカスすら見逃さず、しゃがんで拾おうとする。
移動には歩行器を使っているような方なので、しゃがんだり立ったりという動作は、転倒のリスクが高い。スタッフが「危ないから…」と何度も説明するが、聞く耳をもたない。
A様にとっては、しゃがんだり立ったりを繰り返して転倒することよりも、床に落ちているティッシュカスの方が、よっぽど重要なのだ。
僕は、作業療法士として、このA様の「床をキレイにしたい。」という気持ちに、できるだけ寄り添いたいと思った。
僕はA様に言った。「いつも床をキレイにしてくださって、ありがとうございます。あんな小さなティッシュカスに気付けるのは、Aさんくらいのものです。おかげで、デイサービスに外部からお客様がお越しになっても、恥をかかずに済みます。」
そして、A様に提案した。
「僕も、Aさんのゴミ拾いのお手伝いをしたいと思うのですが、いいでしょうか?僕が、ちり取りを持って、Aさんの後ろをついて行きます。Aさんは、ゴミをはき集めてもらえると助かるのですが。」
A様は笑顔になり、たった5分程度ではあったが、僕とA様は協力してゴミをはき集めた。
その結果、A様の目につくところにゴミはなくなり、しゃがんでゴミを拾おうとすることはなかった。
ほうきは、長柄のものを使った。片手では扱いにくく、両手持ちとなり、近位見守りが必要だが、しゃがまずに済む長さなので、そっちを優先した。
しゃがんでゴミを拾うよりも、ほうきではき集める方が、ずっと効率的なので、A様も広範囲のゴミを集めることができて、満足そうだった。今後も、デイサービス利用時には、定期的にやりましょう、ということになった。

「危ないから、やめてください。」「私達がやりますから。」
確かに、スタッフの言う事はある意味正しい。
でも、仮に、この声かけにより、A様の「しゃがんでゴミを拾う」という行動が消去されたとしても、それは、スタッフの言い分を通したに過ぎない。
A様は不満を抱えたままだろう。
WIN-LOSEであり、ゼロサムゲームなのだ。
A様の気持ちにも寄り添いつつ、スタッフの心配も汲み取り、結果として、環境美化にもつながる方法を、全力で考える必要がある。今回のA様への関わりは、この点ではうまくいったと思う。

「落合って、いつも対象者(利用者様、患者様)とキャッキャ言いながら遊んでばかりで、全然仕事してないな。…でも、なんか対象者、元気になってないか!?」

そう周りに思わせることができたなら、僕の勝ちだ。

自然に生活に溶け込んで、よく分からないうちに相手が元気になる。
そんなステルスリハビリテーションが僕の目標であり、ALL WINが僕の理想の作業療法だ。

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