舌がん切除後のリハビリ 発声編
2021年11月の舌がん切除手術、2022年後半の不安感による心身の不調を経て、2023年春真っ只中。
新学期、新年度といっても今年度は私自身の変化はなく。
娘は新学年、夫は決定した仕事関係の変化を前に緊張もあり、2人のそわそわや緊張をキャッチして落ち着かないような、でもここは落ち着け、私のことじゃないから、と言い聞かせる自分もいて、要は落ち着かない春です。
現在、舌がんの切除手術からの経過観察で通っているのは
・口腔外科・・・主治医さん
・マウスケア
・言語聴覚士さんによる発語の訓練、舌の状態の観察
の3つ。
マウスケアと言語聴覚士さんは同じ病院の同じ口腔リハビリの科です。
マウスケア担当の先生と言語聴覚士さんで術後のリハビリを担当してくれています。
今回はその言語聴覚士さんとの訓練からの発声、話すことのお話です。
言語聴覚士さんとリハビリ
私の場合、言語聴覚士さんとは最近どうですかー?という話から始まり、舌の動きの確認、練習用の短文を読む、次回の課題の提示、で20分弱くらいが一回の受診の流れです。
継続して通うことで、舌の状態、発声の状態、何か対処すべき変化がないかをみてもらっています。
先月と今月の何が変わっているのか、自分では正直わかりません。
発声もよくなってますね、と言われても「そうなのかー」という気持ち。
実際、舌がんの診断がおりる前の数か月間、口内での舌のおさまりの悪さ、口内炎と思っていた箇所の腫れとその箇所を中心とした動かしにくさを感じていましたが、一か月間の変化としては何がどう変わっているか、顕著な変化を感じることなくいました。
変化というのはその最中にはなかなかわかりにくいもので、一回30分にも満たない時間は経過観察中の私には大事な時間です。
舌の部分切除と術後の話しづらさ
手術して1年以上経過した今も「い」「き」「り」あたりの発語が苦手です。
術後、2週間後くらいだったか。
スーパーできくらげを探していて店員さんに場所を聞いた時、「きくらげ」がうまく言えずに伝わらず、2回言い直しました。
その時は伝わることが必要なので、「きくらげ」とニュアンスでわかってもらえればいいかな、と言いにくい「き」をはっきり言わず、「ひ~くらげ」と似ていて言いやすい音にしたという感じ。
いいにくい言葉を発するときには口や舌に力が入り、結果、全身に力が入っています。
あらかじめ言うと決めて発する時にはあらかじめ力が入り、言いながら「言いにく!」と、うまく発声できなかったことで初めて言いにくい単語だったと気づき、結果力が入っていたり。
声が小さいとか、周りがうるさいとか理由はさまざまに、会話中や手続きなどのやりとりで聞き取れずに聞き返すというのは日常によくあること。
とはいえ家族ならうまく話せないのを知っているからいいけれど、外の世界で伝わらず聞き返されるような状況が繰り返し起こると軽くへこみます。力も入るので知らず知らずのうちに疲れがたまります。
聞き返されて「傷つく」かどうかと問われるとしたら、私は幼少の頃から小さい声だったりごにょごにょと話してしまうことが多く、「すみません」、という気持ちにはなるけれど、「傷つく」とは違う気がします。
ただ、術後はへこむ、というか「自分が病気で舌を切ったという事実を」思い知る、という感覚です。
ああ、私ってそうなんだ、と外から知らされる機会、と言えるでしょうか。
やはり、話すこと、言葉って、人や自分以外の何かとの関わりにあるものだと思い知るわけです。
今の言語聴覚士さんとの出会いと術後すぐのこと
担当となった言語聴覚士さんと初めて話したのは手術の前々日、術前のコロナPCR検査で個室に隔離されていた時のこと。陰性判定後に個室にあいさつに来られました。
実際にリハビリを始めるのは退院後になること、今は手術と術後のことだけ考えていてくださいね、と。
そして、仕事をしているとしたら、人前で話をしたり電話応対など、会話をする仕事ですか、と軽くきかれ、仕事は在宅で人と話すことはないですと答えると、そうですか、術後はちょっと話をすることが難しいと感じることがあるかもしれない、術後、身体が安定した時からリハビリをはじめましょう、と。
今思えば、接客の仕事などは術後数か月の感じでは難しかったかもしれない。
手術後1週間ほどは舌やその周辺をガーゼや糸?で結束しているので喉から音はでるけど言葉にはならず、結束を解いた後も筆談ですごしていました。退院までにすこしずつ発語の感覚を戻し、不明瞭ながら話ができるように。
ただ、それも病院内で「舌の切除手術をした後の人」を知っている医師や看護師さん相手であったからで、家族にも通じたかどうかは疑問。
退院まで、コロナ禍で面会できなかったことを幸いに、家族とはLINEでテキストのみのやりとり。
退院後すぐは、病院の会計時に自分のフルネームを伝える際にもうまく言えず、何度か言い直していました。
言語聴覚士さんの訓練でこのあたりの言いにくさなどを段階的に改善していきました。
発語、発声の訓練
退院して通院が始まり、言語聴覚士さんの訓練が始まりました。
まずは舌の状態の確認を。
自分の前に鏡を置き、舌を前に出す、右に、左にと動かします。
ここで「動かそうと思っていても動かない舌」を知りました。
切除したばかりはまだむくみもあり、いまよりもっとぼてっとしていました。
顎回りも、リンパを切除した首回りもむくんでいた時期です。
舌の脇、左側を切除したので、そこの動きが出来ず、ふと気づくと思いもよらない方向にだらっと偏っていきます。私の場合は左側に寄ることが多い。
発語の最初は1文字ずつを舌の位置、形、強さなどを意識しながらゆっくりと発声する訓練を、そこから数か月かけて2文字、3文字、短文と長くなりながら、丁寧に言葉、音を発する訓練です。
家でも朝晩、日中や普段の生活の中で、舌を動かすことについても指導されます。
月ごとの訓練の日に何をするかというより、普段の生活に訓練を取り入れていくことが大事なことで、発声、発語の訓練の他に、鏡を見ながら舌を前、右左、上、奥、と動かす、思い出したらべーーっと舌を出してみる、家族と話す時も「ひ~くらげ」のようにニュアンスに逃げずになるべくしっかり発音するように意識する、など。
そして何より話すこと、会話することから逃げずに暮らすこと。
家族とはうまくなくていいから、いままでと同じようにべらべらと話すこと。買い物などで外に出たら、落ち着いてゆっくり、伝わることを大切に話すこと。
なんとなくであれば、ノンバーバルな表現を含めて、家族には伝わってしまうもの。
日常的なコミュニケーションと並行して、意識して動かす、単語を口に出すことを続けました。
冬など、寒さや冷えで口が動かしにくくなることも経験しました。
そして、いつもそんなに訓練、訓練と頑張っていたわけではなく、朝晩の読み上げをさぼる日もありました。
今思うこと、リハビリの継続と「舌は筋肉」
リハビリを通して、
「舌は筋肉でできてる」
ということをしみじみ感じます。
切除手術後、今も切除した舌の左側がピリピリ、ヒリヒリ、しびれるような感じがあります。
なので、ボーっとしている時にも「舌の存在」を自覚します。
これまではなかった感覚。
早い段階で言語聴覚士さんに
舌は筋肉でできてる、複雑な動きができる、そして鍛えれば動くようにもなる
と伝えられました。
言われた時は希望になり、振り返れば「確かに!」と思えています。
振り返る、にはコツがあって、だいぶ前を振り返るのがポイント。
昨日と比べてもそう変わらず、むしろ今日は昨日より調子悪い、という日もあるから。
手術後に迎えた最初の冬の時期、膠着感を感じ言語聴覚士さんに話すと、
体調も気分も、毎日天気が違って夜になって朝がくるのと同じで波があってあたりまえ。
調子が悪くなり続けるのは何か原因があったり病気の可能性があるけど、波があるのはあたりまえだから、動きがよくない時は「今日は疲れてるんだな」って思う、それでなやむことはないですよー、
そんな風に言われて、気が楽になりました。
同じ舌がんの切除手術でも、切除範囲によっても予後はちがうだろうし、あくまで医療知識も何もない、一患者のリハビリ体験です。
でも、こつこつと続けていくと、今の自分が結果で、これからも続ければよくなるだろうと希望が持てることがあるんだな、と思っているところ。
レコーダで音声を録っておけばよかったかな。
一度、リハビリのはじめの段階で言語聴覚士さんが録音していたけれども。
まだまだたくさん勢いで話したい時、舌がうまく回らない感じとか、言いにくさはあるけど話ができるようになってる。
自分の名前も、聞き返されなくなってる。
鍛えるとよくなる、やった結果が自分にとっていいことでしかないことがいい気分。
鍛えられる身体があることにありがたいなと。
次回以降では舌の定位置や食事についてまとめてみようと思います。