企業内弁護士に関する弁護士職務基本規定
法律事務所から企業へ
月日が流れるのは早いもので、法律事務所の弁護士から企業内弁護士に転向してから5年が経過しました。法律事務所のいたときは、顧問企業や個人のから相談を受け、ときには訴訟を提起したりといろんな案件に関与してきました。
個人の方にとっては、弁護士に依頼するなんて一生に一度あるかどうかです。そのような人生のターニングポイントに関わるというのは、かなり緊張感を伴う仕事だと思います。
弁護士職務基本規定
企業内弁護士は、そのような法律事務所の弁護士を辞めてサラリーマンになったという感覚に近いのかもしれませんが、依頼者が顧問企業や個人の方達から所属する企業とその従業員達に置き換わっただけであって、求められる弁護士としての職務遂行能力や倫理観に変わりありません。
弁護士の職務遂行に関する規律が書かれている弁護士職務基本規定というものがあります。数年前、組織内弁護士の規律が2つ盛り込まれました。
第50条(自由と独立)
官公署又は公私の団体(弁護士法人を除く。以下これらを合わせて「組織」という)において職員若しくは使用人となり、又は取締役、理事その他の役員となっている弁護士(以下「組織内弁護士」という)は、弁護士の使命及び弁護士の本質である自由と独立を自覚し、良心に従って職務を行うように努める。
実際に弁護士バッジをつけて仕事をする場面は、法廷に立つときぐらいです。今でこそ年に数回程度しかありませんが、この規定は、普通のサラーリマンとして働くだけじゃ足りないんだよ、とプロとしての自覚を促してくれる大切な規定です。
企業内弁護士による企業内の違法行為に対する措置
また、個人的に企業内弁護士にとってうれしい規定も追加されました。
第51条(違法行為に対する措置)
組織内弁護士は、その担当する職務に関し、その組織に属する者が業務上法
令に違反する行為を行い、又は行おうとしていることを知ったときは、その者、自らが所属する部署の長又はその組織の長、取締役会若しくは理事会その他の上級機関に対する説明又は勧告その他のその組織内における適切な措置をとらなければならない。
法律事務所の弁護士は、第三者的な立場で顧問企業に助言すればよいですが、企業内弁護士はそうはいきません。そのような目線で仕事をしていると社内での信頼関係が損なわれてしまいます。
かといって、企業活動が法令に違反している場面に出くわすこともありますからそのようなときにどう動くか、非常に悩ましいときがあります。
この規定は、社内で違法行為に出くわしたときに、相手を止めるための最終手段として使える条文です。この条文を使うときはよほどの事態かもしれませんが・・・。
この規定をよく読むと、「その他の上級機関」までは適切な措置を取りなさいと書いてありますが、監督官庁などは入っていません。
例えば、企業内で労働基準法に違反している状態が続いており、企業がそれを是正しようとしない場合があるとします。この場合、企業内弁護士が労働基準監督署に申告してよいか、と言われれば、結論、それはNoだと考えています。
この場合、企業内弁護士として説得力あるプレゼンで経営層を納得させて、企業内の違法状態を解消せよ、ということなのでしょう。
企業内弁護士を採用する企業が増えている
ここ数年、企業内弁護士を採用する企業がかなり増えてきました。コンプライアンス経営が重要視されているなかで、法令違反を発見した企業内弁護士は、弁護士職務基本規定をはじめ、高い倫理観をもって、代替案の提示や部署間の調整などにあれこれ悩みながら企業のために働いてくれます。
顧問弁護士では痒くて手が届かないところまでうまく動いてくれるでしょう。
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