エラ呼吸の夢
ミーターの大冒険
第六部
地球へ
第２０話 エラ呼吸の夢
エピソード １６２
あらすじ
ファウンデーション暦４９２年、いよいよミーターとイルミナを載せたファー・スター２世号はメルポメニアからアルファに着く。
ミーターは、太陽系と地球についての最終的情報を得ようとしてアルファに降りることにした。
その前にメルポメニアで入手した図書館の蔵書に記されていた地球と地球人類、そしてアルファの住民の起源の土地、ニフについての恐怖の出来事について驚嘆する。
その古文書のなかに、メルポメニアの滅亡寸前に記されたであろう『スペーサーとアルファ』なる書物をミーターは、イルミナに提示し、その概略の説明をさせる。
ニフの起源と核戦争の事実であった。
イルミナはまたニフ人が二種類いることを語る。
ニフ人たちは、核融合という理想のエネルギーを人類に提供するものの、謙譲の美を進んで実行し、祖先がそうであったように、移動の民に目覚め、密かに宇宙に出て行った。
彼らは後にシンナックス人として知られるようになる。それは、ナックの思想に同調していたニフ人以外にも地球全土に人種を越えて散らばっていったからである。
残ったニフ人たちは、地球各地で放射能に汚染された環境浄化をしつつ、最後まで地球を守り続けた。が、最終的には地球を手放さなくてはならなかった。そして彼らはテラフォーミングを必要としていたアルファに移住した。
イルミナは、銀河の歴史的収束点前後の大事件について繙（ひもと）く。
それは、ケルドン・アマディロ博士の「核反応増強装置」による「地球放射能汚染計画」であった。
アマディロは、イライジャ・ベイリーとハン・ファストルフ博士への恨み骨髄に達するほどに執念を燃やし、ついに復讐の刃を地球人撲滅という悲惨で残酷なシナリオを完成させようとしていた。
ついに太陽系の入り口にたどり着いた。人類の母なる太陽系。そして夢の地球。
ミーターは、ロボットには病原菌は感染しないことを承知のうえで、万全の防備態勢でアルファに降り立った。そこには一人の少女が待ち受けていた。
ミーターは、まずこの少女が語る彼らの星の名称がメルポメニアで入手したデータと食い違っていることに驚嘆する。
さらにミーターはアルファ人の特異性について知らされる。
本文
ミーター・マロウが操縦する航宙船が惑星に降り立つと、彼はまずこの星の異質さに目を奪われた。星全体は海に覆われ、細長い島が一本、海原の中に突き出していた。その島には、カビレの山を頂点に、８つの町が一直線に並んでいる。町の名前はどこか懐かしくも奇妙だった。マーキュリー、ビーナス、マース、ジュピター、サターン、ウラノス、そしてネプチューン。この星に何か秘密があるに違いない . . . ミーターの直感がそう告げていた。
彼を迎えたのは、ツムギと名乗る女性だった。彼女は親しみやすい笑顔を浮かべながらも、どこか物腰に威厳が漂っていた。簡単な挨拶を終えた後、彼らは会話を始めた。
「ミーターさん、あの航宙船でお一人でいらしたのですか？」
ツムギの声には控えめな好奇心が含まれていた。
「いやいや、一人ではありません。もっとも、イルミナは女性というか、人間ではありませんが。」
「まあ、人間でないなら、どのような存在なのでしょう？」
ミーターは苦笑した。イルミナの説明をする代わりに話題を変えた。
「この星はとてもユニークですね。細長くて、島の端にはカビレの山がありますよね？」
ツムギは頷いた。
「その通りです。この島には25,000人が住んでおり、8つの町が山に向かって並んでいます。私の住む町、アタカナはカビレから3番目に近い町です。」
町の名前を聞いたミーターは思わず感嘆した。
「なるほど、これらの名前は何か特別な意味を持っているのでしょうか？」
「昔からそう呼ばれていたので、詳しい由来は分かりません。」
会話が進む中で、ミーターはさらに驚くべき事実を知る。アタカナだけが淡水の湖に囲まれているという。
「この水は海水ではなく、農業のための淡水です。私たちは桑の木を育て、蚕を飼っています。」
「蚕？」ミーターは目を見開いた。「何のために？」
「シルクを作るためです。そして繭を使った寝具も。」
ミーターは驚きを隠せなかった。
「繭を寝具に？そんな変わった習慣があるなんて！」
「ターミナスでは違うのでしょうね。」ツムギは静かに言った。
彼らの会話はさらに深い領域に及んだ。この惑星の住民は、農業だけでなく漁業でも生活を成り立たせていた。そして、もう一つの技術革新がこの星で進行中だというのだ。
「それは、人間の両生類化計画です。」
「エラ呼吸？」ミーターは信じられない思いで訊ねた。
「はい。地球以来の悲願です。」ツムギの目が輝いた。「もうすぐその夢が実現します。」
ミーターは言葉を失った。この星には、過去と未来が交錯するかのような、人類の新たな可能性が宿っていた。彼は心の中でこう確信した。この惑星には銀河の未来を変える鍵が隠されている、と。
次話につづく . . .
