「夏休みの最後の日」
子供時代は特別な意味合いのあった今日と云う日。
それは大人になった今でも感慨深いものです。
何と申しますか、この日が過ぎると途端に夏が終わってしまう様な氣が致します。
私は「自由研究」「讀書感想文」「観察日記」と云った時間のかかる課題以外は大抵7月の内に片附けてしまっておりました。
(別の言い方をすれば面倒な課題は後廻しにすると云う事です)
よく午前中に友達を呼んで漢字ドリルだの計算ドリルだの、その他藁半紙に刷られた各種プリント類をカリカリ埋めていったものであります。
答えが明確に1つである算数等の課題は私も含め誰かが解くとその答えをみんなで寫し合って子供乍らに「持ちつ持たれつ」で進めて參りました。
いやはや、持つべきものは友達です。
「宿題をやる」と云う大義名分の下、母から冷房の使用許可が下り、概ね宿題6割・遊び4割の感じで樂しんでおりました。
そして昼食後はそのまゝ學校のプールに行って午后は友達の家で遊ぶと云った1日をよく過ごしていたものです。
これら宿題と云うものは今ではこれも含めて夏休みの良き思い出でありますが、何かと「やらされている」と云った感じがして面白くないものです。
その点「自由研究」が樂しみだったと云う事は前回の記事の通りです。
今の心境を語るなら夏休みの最後の日に宿題を一つもやっていなかった事に氣が附いた時に似ている。
今も昔もそんな文言が似合う夏休み最後の日と評判の8月31日ですが、今日もツクールの制作はさり氣なく慎ましやかに續くのであります。
本題はここから…
さて、主人公は「故郷に踏み込み、地下に眠る天然ガスを掘り出そうとしている何者かの正軆を確認する」と云う「課題」を解決する為に江戸の町へやって來ました。
そこで旅立ちの日に別れを告げたヒロインと何故か再會して「堺屋という大店が關與している」との情報を得たので諸々下準備の後、そこへ探索に出掛けるのであります。
しかし、そこは江戸でも屈指の大店で浪人の主人公がおいそれと足を踏み入れられる場所ではありません。
何とか中に入り込む方法を探します。
江戸の町で情報を集めていくと「よそから來た無宿人は品川の口入屋で堺屋の仕事を世話してもらえる」と云う情報に行き着きます。
そこで主人公もその口入屋を訪れてみますが…
そうスンナリと事が運ばないのがRPGの常。
仕事を紹介してもらわなければ堺屋の中へは入り込めません。
今度はそれに必要な「紹介状」の在り処を求めます。
これが俗に言う「おつかい」と云う奴でRPGが敬遠されるか否かはこの匙加減に因って決まるとも言われております。
「Aを解決するにはBをする。その為にはCが必要になる」と云った感じで容易にBへ辿り着けない様に間に課題を設定する手法は古くから存在する常套手段です。
さて、ここで主人公の當面の課題は「紹介状を入手する事」となりますが、それがどこでどうやって手に入るかは自分で考えなければなりません。
RPGは「考えるゲーム」だと思っております。
どうすれば良いか情報を整理して謎を讀み解き結論を出さなければなりません。
イマドキは何かと「〇〇をしよう」と明確に表示されてゆとりある設計ですが、古來自分で何をすべきか考えるゲームだった筈です。
偉い人にはそれが解らんのです!
まず、順序立てて推理していきましょう。
この口入屋は無宿人と呼ばれる住所不定無職の者を専門に受け入れているとの事。
従って、ここで仕事をもらえる無宿人は「紹介状」を持っていると云う事になります。
そして江戸はこうした無宿人が増えて問題になっているという状況です。
つまり、その無宿人達に尋ねればどうすれば良いか手掛かりが掴めるかもしれないと云う事です。
更に情報を集めていくと無宿人達は神田の外れにある番外地に一種の「スラム街」を形成して暮らしているとの事なので早速そこへ行ってみましょう。
史實の江戸でもお上の支配の曖昧な地域等にはこうしたスラム街が形成されて犯罪の温床になっていた様です。
いつの時代のどんな都市でも、こうした場所は存在するものです。
四ツ谷や下谷の辺りにその時代の名残があります。
このエリアでは敵と遭遇するので氣を附けて歩かなければなりません。
あまり世の為人の為になりそうにない人物なので遠慮無く倒してしまいましょう。そこまで強力な相手でもありません。
時々落とす「あいくち」は古物屋に持って行くと良い財源になります。
建物はどこもボロボロで路上にはこうした人で溢れておりますが聞き込みをしていきます。
すると、ここを仕切る「頭目」の存在が見えてきます。
ここに住んでいる無宿人達はその支配下にある状況なのです。
早速、その「頭目」が住んでいる家を訪ねてみます。
ところが新參者を相手にする程寛容ではない様です。
とりあえず子分に尋ねると、ここの頭目である「丹十郎様」は腹が減ったとの事で好物の食べ物を探す事になります。
それが何であるかは例によってその辺をうろついている「路上生活者」に尋ねていきますが、肉が好物と判明します。
今度は肉を探す羽目に…。しかし江戸では肉を賣っている店はどこにもありません。
それもその筈で史實でも江戸時代での肉食は仏教の關係で禁忌とされていました。
しかし江戸時代の人達が全く肉類を食べなかったかと云うと、そうではありません。
これは一種の抜け道で「藥食い」と称してどこからか肉を入手して(藥と云う事にして)食べていました。
今日、馬肉を「櫻」、鹿肉を「紅葉」、猪肉を「牡丹」と言うのも肉食を直接表現しない隠語として成立したと云う説があります。
さて、その肉を江戸で探すとなると今度はどこで手に入るのか調べなくてはなりません。
またまた情報を集めていくと江戸の町外れの更に先にある「染井村」の猟師から肉を賈う事が出來ると云う事が判明するので今度はそちらへ向かいます。
現實の東京都豊島区駒込の辺りですが、江戸時代はこの辺は都市郊外の片田舎の様だったのです。
そこの百姓家を訪ねると…
とんでもない女性ですが、その豪胆さに惚れて所帯を持ったのだとかどうとか…。
旦那さんのお惚氣話は程々にして、早速奥さんに話し掛けて肉を譲ってもらいます。
どうでも良いハナシですが、實はこのイベントは本來囲炉裏端に居る男に喋らせる筈だったのですが、間違って奥さんの台詞に設定してしまった為、修正せずに辻褄を合わせた経緯があります。
その方が少しだけ面白いかと思ったので、こうしたイベント編集のミスは大事にしております。
スラム街でチンピラを倒して稼いだ金があるので肉を1つ賣ってもらいます。
あとはまた神田の番外地へ戻るだけですが、ここでこのゲームの厄介なシステムが邪魔をします。
このまゝ持ち歩いて戻ると、どうやっても時間経過で肉が腐ってしまうのです。
駒込から神田の先まで徒歩の上、常温で肉を持って行ったら傷んでしまうのです。
何か他の方法で目的地迄早く移動しなければなりません。
染井村には川が流れていてこの様に船着場があります。
實は現實にもこの周辺には隅田川の支流が流れているのです。これを利用すれば兩国附近で神田川へ接続してそっちの方へ行けるらしいのです。
船頭に金を払うと乗せてくれます。行先は神田です。
江戸は水路が張り巡らされており、かの伊太利はヴェネチアの都にも引けを取らない水運都市だったのです。
元々江戸は水はけが惡く川の多い土地だったので運河として堀が發達して舟が交通手段として用いられていました。
今では暗渠となりましたが東京の地下には驚く程多くの川が存在しているのです。
それらを辿ると嘗ての交通網を垣間見る事が出來るでしょう。
嘗ては地上を流れていた川ですが、東京のあちこちにはこうした地下河川が流れています。
その出入口は不氣味に暗い口を開けており、そこに水が吸い込まれていく様は或る種の恐怖感を醸し出します。
散歩のついでに見た一寸した近所の街の景色も注意深く観察すると面白い發見があるものです。
ゲームのネタは色々な所に轉がっております。
斯くして肉を手に入れた主人公。
舟を使って急ぎ神田番外地へ戻って來ます。
こうしてRPGは数々の課題をこなしていくのでありますが、それは偏に「どうしたら良いか考えた末の結論」として實行さるべきかと存じます。
ただ單に「こうしろ」と具軆的な指示を與えられて「やらされる」のではなく、自發的に「どうしたら良いか」を考える様にすると、同じ「おつかい」でも「作業」に終始するか「謎解き」として樂しめるかの明暗を分かつのではなかろうかと存じます。
数々の「おつかい」の末に見るものは何か?次回に續きます。
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