限界を超えていく 三菱重工 決算&財務諸表を分析
限界を超えていく 三菱重工
今回は総合重機最大手の三菱重工の決算と財務諸表を解説します。
三菱重工業は日本の総合重機最大手で、航空宇宙、エネルギー、交通システム、造船、環境システムなど幅広い分野で事業を展開しています。
航空宇宙部門では、宇宙ロケットや衛星の製造から、商業用と軍用の航空機の開発に至るまで幅広く手がけています。
エネルギー部門では、原子力発電を含む各種発電システムの製造やエネルギーインフラの構築に関わっています。
基本情報は、こちらの表のとおりです。
今回は、三菱重工を、成長性、効率性、現金の生成能力、財務の安定性、割安性の5つの観点から総合的に分析・評価します。
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株価のチャート
株価のチャートは、こちらのとおりです。
株価は、右肩上がりであり、高値圏にあることが確認できます。
過去5年間の株価のパフォーマンスは、プラス194.04%となっています。
最新の決算
三菱重工は、2月6日に決算を発表しています。
24年3月期第3四半期累計(4-12月)の連結最終利益は前年同期比2.1倍の1380億円に急拡大し、通期計画の1900億円に対する進捗率は5年平均の51.7%を上回る72.7%に達しました。
直近3ヵ月の実績である10-12月期(3Q)の連結最終利益は前年同期比3.7倍の461億円に急拡大しました。
2024年第3四半期累計のハイライト
2024年第3四半期累計の受注高については、エナジー、物流・冷熱・ドライブシステム、航空・防衛・宇宙の3セグメントで増加し、44,966億円、前年同期比52%増となりました。
特に、ガスタービンのみ単独で運転される発電方式であるGTCC、原子力、防衛・宇宙が受注を大きく伸ばしました。
事業利益については、全セグメントで前年同期比で増益となりました。
売上高の増加、工事採算の改善、サービス事業の拡大、価格適正化、円安等が 寄与し、事業利益は前年同期比82%増の1,916億円となりました。
セグメント別の事業利益
三菱重工の2024年第3四半期累計の事業別利益では、エナジー事業が最も高く775億円で全体の約34.5%を占めています。
次いで物流・冷熱・ドライブシステム事業が588億円で約26.2%、航空・防衛・宇宙事業が536億円で約23.9%、プラント・インフラ事業が345億円で約15.4%です。
このデータから、エナジー事業が同社の収益源であることがわかりますが、他の事業も比較的バランスよく寄与していることが見て取れます。
セグメント別の事業利益の成長率
三菱重工の事業別成長率を見ると、物流・冷熱・ドライブシステム事業が最高で前年同期比164.9%の成長を記録しました。
次いでプラント・インフラ事業が139.6%、エナジー事業が99.7%、航空・防衛・宇宙事業が50.6%と続きます。
これらの数字から、三菱重工の各事業が大きな成長を遂げていることがわかります。
年間配当と配当利回りの推移
三菱重工の年間配当は2020年の15円、利回り5.49%から2021年に7.5円、利回り2.17%に減少しています。
2022年と2023年は徐々に回復し、2024年予想では配当が16円に増えるものの、利回りは1.10%に低下しています。
この低下は株価の上昇が原因です。
総還元性向とは?
総還元性向とは、会社が儲けた利益を、配当や自社株買いという形で、株主に対してどれくらい還元しているかを表す指標です。
総還元性向が高いほど、株主還元に力を入れている企業であることを示します。
ただし、株主への還元が多いことは、設備投資などに使用できる資金が少なくなる可能性があります。
総還元性向
三菱重工の総還元性向は2019年に41.5%で始まり、2020年には57.8%に上昇し、2021年にはさらに高い62.0%に達しました。
しかし、2022年には31.8%に減少し、2023年も33.5%と低い水準で推移しています。
EPS
EPSとは、「Earnings Per Share」の略で、1株当たり純利益ともいわれます。
EPSからわかることは、企業の「収益力」と「成長性」の2つです。
数値が高いほど企業の収益力は高いと見ることができます。
また、同じ企業の当期EPSと前期以前のEPSを比較することで、企業が順調に成長しているか判断することもできます。
三菱重工のEPSは2023年度に持続的に成長し、2024年度も好調が続いています。
特に2024年第3四半期は107.6%増の41.1円、第4四半期の会社側ガイダンスでは45.6%増の56.5円と見込まれています。
売上高の推移
三菱重工の売上高は、2023年度第1四半期の8713億3200万円からスタートし、成長率が徐々に変動しつつも2024年第3四半期には1兆1913億9500万円、成長率12.1%に至りました。
全体的に安定した成長を示しています。
経常利益とは?
経常利益は、本業における利益だけでなく、企業の持つ資産の運用利益や銀行からの利息など、事業を行って得た利益です。
経常利益は、売上高と営業外収益を足した値から、販売した商品の原価である売上原価と、販売のためのコストである販管費、営業外費用を除くと求めることができます。
経常利益の推移
三菱重工の経常利益は2023年第2四半期には前年比で924.4%の大幅な増加を記録しましたが、後半は前年同期比で減少しました。
他方で2024年は安定しており、第3四半期には231.8%の増加となりました。
経常利益率とは?
経常利益率は、売上高に占める経常利益の割合を示したものです。
この割合が高いほど、本業以外の収益や費用を含めた会社全体の収益力が強いと判断できます。
経常利益率
三菱重工の2023年第4四半期から2024年第3四半期の経常利益率については、2023年第4四半期と2024年第2四半期を除いた2つの四半期が前期の利益率を上回っており、利益率は上昇傾向にあります。
「利益」は意見、「キャッシュ」は現実
損益計算書(PL)に記載される売上高などの「利益」は、本来であれば来期に立つ売上を、今期の売上として計上することや架空の売上を立てることで、意図的に「利益」を過大に見せること、いわゆる粉飾が可能であり、明らかな粉飾でない限り、このような粉飾を見抜くことは難しいと言われています。
他方、キャッシュフロー計算書(CF)に記載される営業キャッシュフローなどの「キャッシュ」は、実際にどれだけの現金が出入りしたのかを表し、意図的な調整をする余地がありません。
そのため、会計の世界では、『「利益」は意見、「キャッシュ」は現実』、または『キャッシュフローは嘘をつかない』とされています。
また、損益計算書では黒字にも関わらず、倒産してしまう「黒字倒産」の原因は、売上が発生しても、その入金、現金収入が大幅に遅れ、企業が現金不足に陥ることで起こるとされています。
そのため、企業の「利益」だけでなく、企業の「キャッシュ」を確認することが重要です。
営業キャッシュフロー
営業キャッシュフローは、企業の営業活動で得られた現金収入です。
三菱重工の営業キャッシュフローは、2020年に最高値の4525億6400万円を記録しましたが、2021年にはマイナス949億4800万円とマイナスに転じ、2023年は808億8800万円と大幅に減少しています。
営業キャッシュフローマージンとは?
営業キャッシュフローマージンは、売上高に占める営業キャッシュフローの割合を示したものです。
この割合が高いほど、企業が売上から多くの現金収入を得ていることを意味し、現金を稼ぐ能力が高いと判断できます。
なお、「MarketHack流 世界一わかりやすい米国式投資の技法」によると、営業キャッシュフローマージンは、理想として15%から35%程度あると素晴らしいとされています。
営業キャッシュフローマージン
三菱重工の営業キャッシュフローマージンは、2020年に最高の11.20%を記録しましたが、2021年には-2.57%とマイナスに転じ、2023年は1.92%と低下しています。
アクルアールとは?
アクルアールは、企業が現金収入を伴った質の高い利益をあげているかを判断する指標です。
アクルアールは純利益から営業キャッシュフローを引いた値で計算されます。
アクルアール=純利益(特別損益を除く)ー営業キャッシュフロー
純利益は、全ての収入から全ての支出を除いた利益であり、いわゆる会計上の利益です。
他方、営業キャッシュフローは、企業の営業活動で得られた現金収入です。
例えばA社のように、アクルアールがマイナスの場合、企業が多くの現金を営業活動から生み出し、現金収入が会計上の利益を上回っていることを意味します。これはA社が現金収入を伴う質の高い利益を生み出していることを示します。
逆に、B社のようにアクルアールがプラスの場合は、現金収入が会計上の利益を下回り、現金収入を伴わない質の低い利益を生み出している状況を示しています。
アクルアール
三菱重工のアクルアールは、2022年、2020年、2019年にマイナス値を記録し、これは現金収入が会計上の利益を上回り、質の高い利益を示しています。
一方、2023年と2021年は正の値となっており、現金収入を伴わない質の低い利益を生み出していることが分かります。
自己株式調整済み負債比率とは?
自己株式調整済み負債比率は、企業の抱える負債が、純資産に対して何倍あるのかを示しています。
自己株式調整済み負債比率は、以下の式で求めることができます。
自己株式調整済み負債比率=負債÷(純資産ー自己株式)
この比率が低ければ、純資産に対して負債が少なく、財務が健全であると見なされます。
「史上最強の投資家 バフェットの財務諸表を読む力」によると、自己株式調整済み負債比率が0.80を下回ることが望ましいとアメリカの著名な投資家である、ウォーレン・バフェットは言います。
自己株式調整済み負債比率
三菱重工の自己株式調整済み負債比率は、2023年度第3四半期に2.16から始まり、2024年度第2四半期には1.84に低下しましたが、第3四半期には1.96に上昇しています。
ウォーレン・バフェットが望ましいとする0.80を大幅に上回るこれらの値は、企業の財務リスクが比較的高いことを示唆しています。
固定長期適合率とは?
固定長期適合率は、企業の固定資産が、純資産と固定負債といった安定した資金で賄えているかどうかを示す指標です。
固定長期適合率は、以下の式で求めることができます。
固定長期適合率=固定資産÷(純資産+固定負債)
一般的に、この比率が100%以下であると、企業の固定資産が安定した資金でまかなえており、会社の財務状況が安定していると判断できます。
固定長期適合率
三菱重工の固定長期適合率は、2023年第3四半期に85.18%で始まり、一時的に88.37%まで上昇後、2024年には83.15%に低下しましたが、第3四半期には85.28%へと回復しました。
この比率が100%以下で推移しているため、三菱重工の固定資産は安定した資金で適切に賄われており、財務状況は安定しています。
総合評価
それでは、三菱重工を、成長性、効率性、現金の生成能力、財務の安定性、割安性の5つの観点から総合的に分析・評価したいと思いますが、続きの内容については、有料記事となります。
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続きの記事では、三菱重工を、成長性、効率性、現金の生成能力、財務の安定性、割安性の5つの観点から総合的に分析・評価しています。
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