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初心者から上級者までわかる「DOE(株主資本配当率)」徹底解説、配当利回りだけじゃ見えない“企業の貯金箱”を見極めるカギとは?


見逃せない「企業の貯金箱」

少し前に「配当利回りが高い銘柄だから大丈夫」と思って投資したのに、翌年には配当が大幅に減っていてがっかりしたことはありませんか。

あのときの悔しさや「もっとちゃんと企業を見ておけばよかった…」という後悔、今も心に引っかかっていませんか。

実は、配当利回りだけに注目していると、企業が本気で株主還元を考えているかどうかを見落としてしまいがちです。

そこで頼りになるのがDOE(株主資本配当率)

企業が“自己資本”という貯金箱をどう使っているかが一目瞭然になるので、無理なく配当を支払えるかをより正確に見極められます。

「だったら具体的に何をチェックすればいいの?」と疑問に思いますよね。

この記事では、初心者の方がパッとイメージしやすい基礎から、上級者向けの応用例までを丁寧にまとめてあります。

読むだけで、配当金を支える企業の“内側”をのぞくヒントが手に入るはずです。


この記事から得られる3つのポイント

  1. 安定配当の見極め
    配当の裏づけとなる自己資本を確認できるので、単なる利回りだけではわからない“余力”を見通しやすくなります。

  2. 将来の増配が期待できるかを判断
    自己資本がしっかり増え続けている企業なら、配当も自然と伸びる可能性が高くなります。

  3. 投資判断の精度アップ
    ROEや配当性向、自社株買いなど、他の指標や施策と合わせて分析することで、企業をより深く理解できます。


ここまでお読みいただいて、「なんだか気になる」と思ったなら、今すぐ本文をチェックしてみてください。

配当という嬉しいリターンを、もっと納得して受け取るためのヒントが、この記事にはきっと詰まっていますよ。

DOEの見方を変えると、投資の楽しさも何倍にも膨らみます。

今こそ一歩踏み出してみませんか。


はじめに

本記事では、まず初心者向けにDOEの概要を分かりやすく解説し、その後、中級者・上級者向けに視点を広げて解説していきます。
最終的には、「DOEをどう投資判断に活かすのか」や、「ほかの指標や会計基準とのつながり」まで掘り下げてみましょう。

(1) 初心者向けの説明

「配当利回り」だけを見ていれば十分だと思っていませんか?
でも、ある企業が“安定的に配当を出せる会社”なのかを見極めたいときは、ほかの指標にも目を向ける必要があります。
では、そんなときに役立つ指標として「DOE(株主資本配当率)」はどんな意味を持つのでしょうか?

【配当金て何?、配当投資てどうやるの?、という方はこちら👇もチェック】

(A) DOE(株主資本配当率)とは

DOEとは、Dividend on Equityの略で、日本語では「株主資本配当率」と呼ばれます。
これは、企業がどれくらい配当を出しているかを、株主資本(=自己資本)に対してどの程度の割合か、という形で示した指標です。

具体的には、
DOE = (1株当たり配当金 × 発行済株式数) ÷ 株主資本 × 100%
で求めることができます。

なぜならば、配当の総額を企業の自己資本で割ることで、「株主から預かっているお金(株主資本)に対してどのくらい配当を出しているか」がわかるからです。
その結果、配当利回りとは違った角度で配当の水準を把握できます。

配当利回り、EPSなど他の配当関連指標との違い

  • 配当利回り(Dividend Yield): 「株価」に対する配当金の割合を示します。
    たとえば、株価1,000円に対して年間配当金40円なら配当利回りは4%です。

  • EPS(1株当たり利益): 企業が1株あたりどのくらい稼いでいるかを示す指標です。
    配当が収益に対してどのくらいの割合なのかを見るのに使われます。

一方、DOEは「自己資本」という視点から配当の水準をとらえます。
したがって、株価変動の影響を受けにくいという特徴があるのです。

【EPSとは?、EPSを使った分析方法を知りたい方はこちら👇】

筆者(きらく)の考察
配当利回りばかり気にしがちですが、株価は日々変動するものです。
そのため、株価を分母とする配当利回りだけでは企業の本当の配当余力がわからない場合もあります。
DOEを見ることで、株主資本に対してどれだけ配当を出しているかを把握できるので、配当の「安定感」を測るうえで有益な指標といえるでしょう。


(B) なぜDOEを知っておくべきか

投資判断におけるDOEの役割

たとえば、あなたが“貯金箱”を持っていて、そこにたくさんのお小遣いが入っているとします。
なのに、友達にちょっとしかお菓子を奢らなかったら、「もっと奢ってあげればいいのに」と思われるかもしれません。
同じように、企業にも“自己資本”という貯金箱があって、そこに十分なお金があるのに、あまり配当を出さなければ「もっと配当金を増やしてほしい」と考える株主が出てきます。

逆に、貯金箱に入っているお金があまり多くないのに、やたらとお菓子を奢っていれば、すぐに中身が尽きてしまうリスクがありますよね。
企業でいえば、自己資本が少ないのに配当をたくさん出すのは、将来のための投資に回すお金が足りなくなるかもしれない、ということです。

だからこそ、DOEを知っておくと「この企業は自己資本をどう使っているのか」という投資判断に役立ちます。
なぜならば、DOEを見れば、企業が貯金箱(自己資本)と配当金のバランスをどのように考えているかをイメージしやすくなるからです。

DOEが示す「配当の安定性」へのヒント

企業は、株主から「これからも配当を出してほしい」と期待されています。
そのため、利益が安定しないときでも、配当をどうにか続けようと努力する場合が多いです。
一方で、DOEが高すぎると自己資本から配当を出しすぎてしまう可能性があるので、将来の投資や経営に支障が出るリスクも考えられます。

このように、DOEは企業の配当の安定性をチェックする手がかりになります。
なぜならば、自己資本が厚い企業は、少し業績が下がっても配当を維持しやすい傾向があるからです。
しかしながら、DOEだけでなく、その企業が実際に利益をしっかり稼げているか(業績面)も合わせて見ることが大切です。

DOE○%を下限とする企業の配当方針

一部の企業は、「DOE 4%を下限とします」といった方針を掲げることがあります。
これは「株主資本に対して、最低でも4%分は配当に回します」という宣言です。
たとえば、株主資本が1,000万円ある場合には、最低で40万円は配当に出すというイメージです。
したがって、株主としては「配当が減ってしまうリスクが少ないかもしれない」と安心感を得られます。

ただし、企業側としては、万が一業績が悪化しても4%分の配当を出さなくてはならないため、内部留保(企業の貯金)や将来投資に回せるお金が減る可能性があります。
その結果、成長戦略に支障が出るかもしれません。

筆者(きらく)の考察
DOEが高い会社を見つけると、配当をたくさん出しているように見えて「ここに投資したらいいかも!」と思いやすいです。
しかし、自己資本が少ないのに無理をして配当を出しているケースもあるので、単に数字だけを見て飛びつくのは危険です。
逆にDOEが低めの会社でも、自己資本を増やして将来の研究開発や設備投資に注力している場合があります。
「なぜ4%を下限にしているのか」「その4%は企業にとって無理のない数字なのか」など、企業の配当方針の理由をしっかりチェックすると、あなたの投資判断はより賢いものになるでしょう。


(C) 簡単な計算例で理解するDOE

基本的な計算式の紹介

先ほど述べたように、DOEは以下の式で求められます。

DOE(株主資本配当率)= (配当総額) ÷ (株主資本) × 100%

シンプルな数値を使った計算例(株主資本、配当額を用いたDOE算出)

たとえば、ある企業の株主資本が1,000万円あるとします。
この企業が1年間で株主に支払う配当総額が100万円だとすると、DOEの計算は以下のとおりです。

DOE = 100万円 ÷ 1,000万円 × 100% = 10%

この場合、自己資本の10%を配当に回しているということになります。
したがって、投資家は「この企業は自己資本1,000万円に対して100万円も配当を出しているけれど、果たして自己資本は十分に余裕があるのだろうか?」という視点を持つことができます。


以上が、初心者向けのDOE(株主資本配当率)の解説です。
DOEを学ぶことで、配当をより多角的に分析し、企業の配当余力や安定性を考えるきっかけになります。
ぜひ、他の指標と合わせてチェックしながら、賢い投資判断に活かしてみてください。


(2) 中級者向けの説明

「DOEはなんとなく理解できたけれど、これをどう投資判断に活かせばいいのだろう?」
そう感じる方も多いのではないでしょうか。
実は、DOEを使って企業の配当方針や財務状況を深く読み解くと、投資の精度がぐっと高まります。
なぜならば、DOEは「自己資本」という企業の“貯金箱”と配当金の関係を表す指標だからです。
そこで今回は、DOEと他の指標を組み合わせて投資判断をするポイント、そして配当と並ぶ株主還元策である「自社株買い」との関係をやさしく解説していきます。

(A) DOEを使った投資判断のポイント

企業の財務体質・配当方針を見極める視点

「DOEっていう指標は何となく分かったけれど、具体的にはどうやって企業の財務体質や配当方針を見極めればいいんだろう?」
こう感じている人も多いのではないでしょうか。

まず、企業が配当を出すには「配当金をまかなうためのお金(余裕資金)」が必要です。
なぜならば、業績が不安定な企業ほど、継続的に配当を支払うのが難しくなるからです。

たとえば、あなたが友達と毎月ご飯に行くとき、安定的な収入や十分な貯金があれば、毎回の食事代を気にしなくても済むでしょう。
しかし、バイト代が減ってしまったり、予備のお金もなかったりすると、毎月ご飯に行くのは難しくなってきます。
つまり、企業にとって「安定した利益を生み出せる仕組み」や「自己資本という貯金箱の厚み」があるかどうかは、配当を継続できるかどうかの大きなカギになるのです。

具体的な数値例

たとえば、ある企業の自己資本が1,000万円、DOEが3%だったとします。
この企業は自己資本の3%、つまり年間で30万円を配当に回す方針です。
しかし、もし業績(利益)がほとんど出なかった場合には、自己資本(1,000万円)が増えず、配当を3%維持するのが難しくなる可能性があります。
逆に、利益が順調に出れば、自己資本が1,100万円、1,200万円と増え、それに伴って3%の配当額も自動的に増加していきます。

したがって、DOEを用いた配当方針を掲げている企業の場合、いかに安定した利益を稼いで自己資本を増やしていけるかが大きなポイントなのです。

筆者(きらく)の考察
DOEが高い企業を見つけると、「配当が多くて魅力的!」と思うかもしれません。
しかし、肝心の利益が伴わず、自己資本が増えないと、配当を維持するのが難しくなるリスクがあります。
だからこそ、企業の財務体質(たとえば、自己資本比率が高いか、借金はどのくらいあるか)や、配当方針(長期で継続的に配当を出す余裕があるのか)を総合的にチェックすることが大切です。
結果として、「自己資本が毎年どのくらい増えているのか」「その増え方は業績によるものか、無理をして借金しているのではないか」などを見極めることで、投資判断の精度はぐっと高まるでしょう。


(B) 企業の配当政策とDOEの関係

企業の配当方針(配当性向・DOEの使い分け)

企業が配当を決める基準は、大きく分けると「配当性向」と「DOE」の2つがあります。
なぜならば、配当性向は“利益”を基準にして配当を決定し、DOEは“自己資本”を基準にして配当を決定するためです。

  • 配当性向:利益(純利益)のうち、何%を配当に回すか。
    たとえば、配当性向30%なら利益が2倍になれば配当も2倍に増やせる一方、利益が大幅に下がった場合は配当も大幅に減りやすいです。

  • DOE:株主資本(自己資本)のうち、何%を配当に回すか。
    たとえば、DOE3%なら株主資本が大きく増えるほど配当も増える可能性があります。
    しかし、企業が赤字になったり大幅に業績が下がったりすると、株主資本を減らす要因となり、配当も減少するかもしれません。

では、企業はどうやって使い分けているのでしょうか?
たとえば、景気や業績が大きく変動する可能性がある業種では「配当性向」を重視して、利益に応じた柔軟な配当額を設定する企業が多いです。
一方で、長期的に安定した増配を目指す企業は「DOE」を基準に、配当額を株主資本に対して一定割合で維持・成長させようとすることがあります。

筆者(きらく)の考察
「配当性向を重視する企業」は、当期の利益が出たら素直に配当へ反映するため、業績が好調なときは魅力的に映ります。
しかし、業績が悪化すると配当が急減するリスクもあります。
一方、「DOEを重視する企業」は、基本的に自己資本が増えるほど配当も増えるという仕組みなので、長期的に増配を狙いたい投資家から支持されやすいです。
ただし、自己資本が思うように増えない(利益が伸びない、もしくは総還元性向が高すぎる)場合には、配当も伸び悩む可能性があります。
結局のところ、どちらの方針を採用するかは企業の経営戦略次第というわけです。

株主還元策としての自社株買いとDOEの違い

「企業が利益を出して株主に還元する方法は“配当”だけだと思っていませんか?」
実は、自社株買いも大切な株主還元策の一つです。
しかし、DOEが「企業がどれだけ配当金を出しているか」を表す指標であるのに対し、自社株買いは直接あなたの口座にお金が入ってくるわけではありません。
そこで、今回は「自社株買い」と「DOE(配当)」の違いを、身近な例を使って説明します。

自社株買いって、どんなイメージ?

たとえば、あなたと9人の友達(合計10人)で10枚のピザをシェアしていたとします。
1人につき1枚(ピザ10枚 ÷ 10人)ずつもらえる状況ですね。

ところが、あなたが「今あるピザのうち2枚は僕が買い取るよ」と言って、みんなからその2枚を買い取り、食べてしまったらどうなるでしょうか?
ピザは最初10枚あったのに2枚が買われたことで、残りの8枚を9人でシェアする形になるかもしれません。
この結果、持っているピザの価値が相対的に増えるイメージになります。

企業が自分の株を市場で買い戻すのも同じようなことです。
市場に出回っている株式数が減るため、残っている株式1株あたりの価値や利益の割合が高まる可能性があります。
そのため、株主全体としては、株価が上がりやすくなったり、1株あたりの指標(EPSなど)が向上したりするメリットが期待できるわけです。

DOEとの違い

  • DOE(配当): あなたの口座に“配当金”として直接お金が振り込まれます。
    たとえばDOE 3%を掲げている企業なら、自己資本(株主資本)の3%を配当として支払うという方針です。

  • 自社株買い: あなたが持っている株自体を企業が買い取るわけではありません(多くの場合、市場で売りに出されている株を企業が買い戻す形になります)。
    あなたに直接お金が入るわけではありませんが、発行済株式数が減ることで、残っている株式の価値や1株あたりの収益が高まりやすいという効果が見込めます。

筆者(きらく)の考察
配当(DOE)と自社株買いには、それぞれメリットがあります。
配当は「目に見えてお金が入ってくる」というわかりやすさがありますが、その分、企業はキャッシュを外部に放出するため、内部に残るお金が減ります。
自社株買いは「1株あたりの価値」を上げる効果がありますが、株価が本当に上がるかは市場環境や企業の業績次第です。
結果的に、企業によっては配当と自社株買いを組み合わせることで、株主に多角的なメリットを与えようとしているケースもあります。
投資家としては「この企業は配当に力を入れているのか、自社株買いで株主還元を図っているのか、あるいは両方か」を見極めると、より正確な評価ができるでしょう。

これが、「配当(DOE)」と「自社株買い」のイメージ的な違いです。
いずれも、企業が株主に利益を還元する手段には変わりありませんが、どちらを重視しているかで企業の考え方や戦略が異なってきます。
そのため、投資家としては企業の「配当+自社株買い」という総合的な株主還元策
をしっかりチェックし、「自分がどの還元方法を好むのか」を考えながら投資先を検討するとよいでしょう。


以上が、DOEを中心に据えた中級者向けの解説です。
DOEをほかの指標と組み合わせれば、企業の財務体質や配当戦略をより立体的に理解できるようになります。
ぜひ、配当性向や自社株買いの動向も含めてチェックしながら、投資判断に活かしてみてください。

(3) 上級者向けの説明

「DOEを使って企業を分析するうえで、PERやPBRなどの指標とどう組み合わせればいいのだろう?」
「DCFなどを用いた企業価値評価を行うときに、DOEはどう活きるのか?」
こうした疑問を持つ方もいるのではないでしょうか。
実は、DOEを活用した配当分析をさらに一歩進めたいならば、企業価値評価や他の指標との比較・組み合わせが欠かせません。
なぜならば、DOEはあくまで「配当と自己資本の関係」を示す指標であり、企業全体の価値を把握するには複数の指標を総合的に見る必要があるからです。

(A) 他の指標との比較・組み合わせ

PER, PBR, ROEなどとDOEを組み合わせる意義

「DOEだけ見ていれば安心!」と思っていませんか?
実は、企業の本当の実力や魅力を知るには、PERやPBR、ROEなどの他の指標もあわせてチェックしたほうが、より全体像が見えやすくなります。

  • PER(株価収益率): 株価が、企業が生み出す利益の何倍になっているかを示す指標です。

    • たとえば、PERが10倍なら「1年で1株当たり100円稼ぐ企業を、1株1,000円で買っている」イメージです。

    • もしPERが低い場合は、「市場がその企業をあまり高く評価していない=株価が割安」という可能性があります。

  • PBR(株価純資産倍率): 株価が、企業の純資産(自己資本)の何倍かを示す指標です。

    • たとえば、PBRが1倍なら「株価が企業の自己資本と同じ水準」というイメージです。

    • もしPBRが高い場合は、「市場が企業の自己資本を高く評価している=将来の期待が大きい」という可能性があります。

  • ROE(自己資本利益率): 「自己資本をどれだけ効率よく使って利益を上げているか」を示す指標です。

    • たとえば、ROEが10%なら「自己資本の10%分の利益を1年で稼いでいる」ということです。

一方、DOEは「自己資本の何%を配当に回すか」を見る指標です。
ここで組み合わせのポイントとなるのがROEとDOEの関係です。

  • たとえば、ROEが10%の企業がDOE3%を続けるなら、残り7%(=10% - 3%)が自己資本に積み上がるイメージです。

  • 自己資本が増えるほど、次の年度の配当額も増える(=増配が続く可能性がある)かもしれません。

【ROEとは?、ROEを使った分析方法を知りたい方はこちら👇】

筆者(きらく)の考察
PERやPBRは「企業を市場がどう評価しているか」、ROEは「企業がどれくらい儲けを出せるか」を示す指標です。
DOEは「配当をどれだけ出しているか」を表しますが、市場の評価(PER/PBR)や儲ける力(ROE)によっては、同じDOEでも「将来の配当に無理がありそう」なのか「まだまだ伸び代がある」のかが違ってきます。
つまり、DOEだけを見て一喜一憂するのではなく、株価水準や利益の出し方もあわせてチェックすると、投資判断をより正確に行いやすいでしょう。

企業価値評価(DCFなど)との関連性

「将来、この企業がどれくらい儲かるのか」を見極めたいとき、DCF(Discounted Cash Flow)という評価方法を使うことがあります。
DCFと聞くと「何だか難しそう」というイメージを持つかもしれませんが、要するに企業が今後生み出すお金の流れ(キャッシュフロー)を“まとめて現在の価値に換算”して考える、というイメージです。

DCFをざっくりイメージする例

たとえば、あなたが将来10年間、毎年10万円のお小遣いをもらえると想像してみてください。
「10万円 × 10年 = 100万円」がもらえる総額だとしても、それを“今すぐに一括で受け取れる”わけではありません。
そのため、10年後に受け取るお金は、今の価値にするとちょっと減らして計算する必要があるのです。
なぜならば、10年待たずに今お金をもらえたら投資や貯金ができるのに、将来もらうお金にはその間の利息や投資の機会が失われているからです。
そのため、DCFでは「将来A社の株価が100万円になる場合、その株価(100万円)を今の価値に換算すると、いくらになるのか」を計算し、企業の総合的な価値を考えます。

DOEは配当予想に役立つ

では、DOEがDCFにどう関係するのでしょうか?
DCFをするには「どれだけのキャッシュフローが将来生まれるのか」「そのうち、どれだけ株主に配当として支払われるのか」をざっくりでも見積もる必要があります。

たとえば、企業が「DOE3%を目標としています」と言っていたら、“自己資本の3%くらいの配当”を今後も続けようとしていると予想できます。
その結果、以下のイメージを持つことができるでしょう。

  1. 毎年、自己資本がどれくらい増えそうか(=企業の利益がどのくらいか)

  2. その自己資本の3%が配当として支払われそうだ

もし企業の自己資本が順調に増えていけば、配当総額も少しずつ増えていくはずです。
このとき、DCFを使って「未来にわたって生まれるキャッシュフロー」を考える際、“配当の成長シナリオ”を設定しやすくなるのです。

筆者(きらく)の考察
DCFは、あくまで「将来キャッシュフロー」の合計を、今の価値に直す手法です。
しかし、その将来キャッシュフローが「どれくらい配当に回されるのか」「企業に再投資されるのか」を読めないと、予測が難しくなります。
DOE方針を示す企業は「自己資本の○%を配当に充てる」という約束事があるため、未来の配当がどのくらいになるかをざっくり推定しやすいメリットがあります。
結果として、DCFを用いるときに「年間の配当は自己資本成長に伴ってこのくらい伸びそうだな」と計算しやすくなり、投資判断の目安を立てやすくなるでしょう。


簡単にまとめると、DCFは「将来のお金の流れを割り引いて現在の価値を出す」手法ですが、配当がどれくらい払われるかという見通しがあれば、より具体的な計算が可能です。
DOEはまさに「どれくらい配当を出すかの指標」を示してくれるので、DCFと組み合わせると、企業が生み出す価値の“受け取り方”をイメージしやすくなるのです。


(B) 配当政策分析の高度な視点

企業がDOEを設定する狙いとリスク管理

企業がDOEを設定する背景には、株主への安定還元の約束自己資本を維持・成長させる狙いがあります。
なぜならば、DOEを設定すると、赤字時でも配当を無理に維持しようとする余力があれば、株主に安心感を与えられる一方で、企業にとっては自己資本を減らすリスクもあるからです。

たとえば、DOE4%を掲げる企業が、もし大きく赤字になってしまうと、自己資本が減り続けるのに配当総額を4%維持するのは難しくなります。
その結果、いずれ配当の減額や停止に追い込まれる可能性もあるわけです。
したがって、企業側は常に「DOEを維持するための収益力(=ROE)やキャッシュフロー」を確保できるかどうかをリスク管理しなければなりません。

筆者(きらく)の考察
配当性向に比べて、DOEは「自己資本を基準にした配当」という点で安定感をアピールしやすい指標です。
ただし、企業が赤字に転落したり、自己資本を積み増すことができなくなったりすると、DOEを掲げていても配当維持に苦しむケースがあります。
結果として、「安定配当」と「成長性」を両立させるには、あくまで企業の本業による稼ぐ力が大前提だということです。

国際会計基準(IFRS)との関連や実務上の注意点

「IFRSって言葉を聞いたことはあるけれど、正直なんだか難しそう…」という人も多いかもしれません。
実は、IFRS(国際会計基準)を採用している企業の場合、日本基準とは少し違った形で“自己資本”が計算されることがあります。

どんなところが違うの?

たとえば、「その他包括利益」などと呼ばれる項目が、日本基準よりも広く計上されたり、資本として扱われる範囲が違ったりすることがあります。
その結果、「純資産」「自己資本」「株主資本」が、日本基準よりも大きくなったり小さくなったりする可能性があるのです。

たとえば、A社がIFRSで「株主資本は800億円」と開示していても、日本基準で計算すると「700億円」になることがあるかもしれません。
もしあなたが「DOE=(配当総額 ÷ 株主資本)× 100%」を計算しようとするとき、日本基準の“株主資本”を使うのか、IFRSベースの“株主資本”を使うのかで数字が変わってくる可能性があります。

筆者(きらく)の考察
IFRSを導入している企業の決算書を見るときは、「この会社がDOEを計算するとき、どの部分の金額を株主資本としているのか」を確認しておくのが大切です。
なぜならば、会計基準によっては株主資本の定義に差が出ることがあるからです。
せっかく良いDOEだと思っても、実はIFRSでの株主資本の値を使っている場合と、日本基準の値を使っている場合で大きな違いが出るかもしれません。
よって、投資家としては企業の注記やIR資料などをよく読んで、「どの会計基準を使い、どの数字を分母にしているのか」を把握する必要があります。

【何で決算が重要なの?、決算分析てどうやるの?、という方はこちら👇もチェック】


(C) 応用的な計算例とケーススタディ

「DOEを計算するのはなんとなく分かってきたけれど、実際に数年分を並べるとどんな風に分析できるの?」
ここでは、少しイメージしやすい例を使いながら、過去の推移を見る方法や、マクロ経済・業種特性を意識した考え方をご紹介します。

1. 過去の推移を使ったDOE分析

たとえば、ある企業の3年間のデータが以下の通りとします。(数字はイメージしやすいようにシンプルにしています)

  • 1年前のDOE = 27万円 ÷ 900万円 × 100% = 3.0%

  • 2年前のDOE = 24万円 ÷ 800万円 × 100% = 3.0%

  • 3年前のDOE = 21万円 ÷ 700万円 × 100% = 3.0%

この企業はDOE3%を継続していることがわかります。
同時に、自己資本が毎年100万円ずつ増えているため、「利益が安定して出ているか、あるいは株主に還元しつつも資本を積み上げられている企業なのだろう」と推測できます。

筆者(きらく)の考察
過去3年・5年・10年などのスパンでDOEと自己資本の推移を見ると、「企業は安定して配当を出せる力があるのか」や「長期的に増配しているか」が見えてきます。
特に、自己資本が毎年積み上がってDOEもある程度一定の場合、「配当+資本の成長」で株主のリターンを高めている可能性があるので要チェックです。

2. マクロ経済や業種特性を踏まえたDOEの応用例

  • 景気に左右されやすい業種(自動車・鉄鋼など)

    • 好景気のときは利益が大きく伸びて自己資本も増えやすいため、DOEに沿って配当がどんどん増える可能性があります。

    • 逆に不景気になると業績が一気に落ち込む場合があるため、DOEを維持できずに配当を減らすリスクが高まります。

  • 景気にあまり左右されにくい業種(インフラ・通信など)

    • 毎年の業績が比較的安定しているため、自己資本を着実に増やしていける可能性があります。

    • DOEを設定していれば、ゆるやかではあるものの、堅実に増配していく期待が持てます。

具体的には、たとえば電力会社がDOE4%を掲げている場合、毎年の売上や利益が大崩れしにくいため、配当を安定的に出しやすいという長所があります。
その一方、自動車メーカーがDOE4%を掲げていても、世界経済が大きく後退すれば、利益が激減してDOEどおりの配当を出しにくくなるかもしれません。

筆者(きらく)の考察
DOEだけではなく「どんな業界か」「世界景気や国内景気にどう影響を受けやすいか」を踏まえて考えると、企業が本当にDOEを維持できるのか、さらに言えば増配できるのかが見えてきます。
あなたが長期投資を考えているなら、業種特性やマクロ経済をざっくりと押さえておくことで、急に景気が変動したときにも落ち着いて判断できるようになるでしょう。


DOEという指標は「自己資本と配当」を結びつける便利なものですが、PERやPBR、ROEなどとあわせて活用し、IFRSなどの会計基準の違いも頭に入れながら総合的に見ることが大切です。
また、具体的な数字を使った計算例や、業界・マクロ経済の視点を意識すると、さらに投資判断の精度が高まるでしょう。

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