新型コロナで死に至るケースは高年齢側にシフトし、ほぼ平均寿命に重なる
1.イントロダクション
先日、以下の記事を執筆した。本記事はその後継なので、簡単におさらいをしつつ、本記事のイントロダクションをしたい。
2022年1月以降、新型コロナウイルス感染症の特性が以下のように変わっている。
特性1 感染しても重症化しにくい
特性2 重症化したら死亡しやすい
その直前にあった特徴的なイベントとしては以下の2点がある。
① ワクチンの2回目接種が完了(全人口比76.9%)【2021年11月30日】
② 東京都でオミクロン株の市中感染を確認【2021年12月24日】
集団免疫の獲得による効果か、ウイルスの特性が変化したことによる効果かは判然としない。しかし、これらは新型コロナウイルス感染症の特性が変化したことの要因を構成すると想定される。
なお、「特性1 感染しても重症化しにくい」の解釈には注意を要する。
世の中で「新規感染者」と言われているのは、正しくは「新規陽性者」であり、新たに検査で陽性とされた者のことを指す。
これは、検査能力(単位時間あたりに実施可能な検査数)がボトルネックとなる指標であり、検査を要するとされる判断規準とその運用が変わると変動する。つまり、社会、行政、医療機関の体制・状況の影響を受けやすい。
他方、「特性2 重症化したら死亡しやすい」の解釈については、特性1よりも不確実性が小さいと考えられる。重症と死亡は、患者の臨床状態に即して医師によって判断されるからである。
新型コロナウイルス感染症における「重症」は、「集中治療室に入室する又は人工呼吸器が必要である」という臨床状態によって定義される[1]。
集中治療室や人工呼吸器が使えるかどうか、つまり医療機関の体制・状況次第では、患者の優先度に応じて医師の判断にバリエーションが生じる可能性がある。しかし、社会、行政の体制・状況とは独立した判断であるので、相対的に不確実性は小さいと考えられる。
このように、特性2は特性1よりも解釈に当たって堅牢であると考えられることから、本記事では特性2に着目し、どのような属性の人が死に至りやすいのかを示す。
2.性別・年代別死亡者数の解析
厚生労働省の「データからわかる-新型コロナウイルス感染症情報-」には、「性別・年代別死亡者数(累積)」のオープンデータがある。
これを用いて、性別、年代に着目して解析することにした。(解析に供したデータは2022/07/21版)
「特性2 重症化したら死亡しやすい」は2022年1月以降に見られる傾向であり、東京都でオミクロン株の市中感染が確認されたのは2021年12月24日である。また、最近(2022年7月)、新規感染者数が爆発的に増えているのはオミクロン株の変異株(BA.5系統等)であることから、以下のとおり期間を定義し、報告されているデータを2分した。
オミクロン以前:2021/12/24以前のデータ(2020/09/02~2021/12/21)
オミクロン以降:2021/12/24以降のデータ(2021/12/29~2022/7/19)
各期間について「性別・年代別死亡者数(累積)」を再計算し、さらに年代を変数とする累積分布図を作成した。
2.1.全体の解析結果
全体傾向を把握するため、性別を分けずに解析した[図1]。
この図は、10歳未満の年代から数え上げて所定の年代までの死者数が、全年代の死者数の中でどれぐらいの割合を占めているかを示している。
直観的な理解をすると、グラフが右側にシフトすると、新型コロナウイルスで死に至るケースがより高年齢側にシフトしていることを意味する。
オミクロン以前のデータは青色のグラフで示した。
例えば、70代の部分には40 %という数字がある。これは10歳未満の年代から70代までの死者数を合計すると、死者数の全体の40 %を占めることを意味する。裏返すと、80代と90歳以上の年代の死者数が60 %を占めることを意味する。
オミクロン以降のデータはオレンジ色のグラフで示した。
例えば、70代の部分には28 %という数字がある。これは10歳未満の年代から70代までの死者数を合計すると、死者数の全体の28 %を占めることを意味する。裏返すと、80代と90歳以上の年代の死者数が72 %を占めることを意味する。
これらのグラフを見てのとおり、オレンジ色のグラフは青色のグラフよりも一貫して右側にある。このことは、オミクロン以降、新型コロナウイルスで死に至るケースがより高年齢側にシフトしていることを意味している。
2.2.男性・女性別の解析結果
性差があるかを把握するため、男性・女性別の解析結果を示す[図2]。
図2の読み方は、図1と同様である。ポイントは以下のとおりである。
(1)性別を問わず、オレンジ色のグラフは青色のグラフよりも一貫して右側にある。したがって、性別を問わず、オミクロン以降、新型コロナウイルスで死に至るケースがより高年齢側にシフトしている。
(2)オミクロン以前、以降のそれぞれの期間で、男性のグラフは女性のグラフよりも左側に寄っている。このことは、男性の方が女性よりも若い年代で死に至りやすいことを示している。
3.平均寿命等との比較
10歳未満の年代から数えて半数(50%)以上が死に至る閾(しきい)となる年代は以下のとおりである。
オミクロン以前
男性:70代(79歳まで)
女性:80代(89歳まで)
オミクロン以降
男性:80代(89歳まで)
女性:80代(89歳まで)
特に、オミクロン以降で10歳未満の年代から数えて半数(50%)以上が死に至る年代に関して、ちょうど半数(50%)となる年齢(以下「半数致死年齢」という。)の目安を図2から読み取ると、以下のとおりと推定される(図2は連続関数ではないので、あくまで粗い推定であることには留意。)
半数致死年齢の目安(オミクロン以降)
男性:80代前半
女性:80代後半
他方、厚生労働省の令和3年度簡易生命表[2]によると、男性及び女性の平均寿命(0歳の平均余命)及び寿命中位数(出生者のうちちょうど半数が生存し、半数が死亡すると期待される年数)は以下のとおりである。
平均寿命
男性:81.47歳
女性:87.57歳
寿命中位数(簡易生命表からの読み取り)
男性:84~85歳
女性:90~91歳
半数致死年齢の目安は、平均寿命とほぼ同様になると考えられる。
一方、統計量の意味合いからは、比較に適するのは寿命中位数である。
これとの比較で言えば、新型コロナウイルス感染症は依然として生存年数の引き下げ要因になっているが、オミクロン以前と比べれば、その寄与は小さくなっている。
総じて、新型コロナウイルス感染症は、日常生活を送っている中での様々な死因と比べて、甚大な影響を与えるようなものではなくなりつつあると考えられる。
参考文献
[1]新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き・第 8.0 版
※ 厚生労働省の「医療機関向け情報(治療ガイドライン、臨床研究など) (mhlw.go.jp)」のウェブページ内を参照されたい。
[2]令和3年簡易生命表の概況(厚生労働省ウェブサイト)
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