御法度落語 おなじはなし寄席 #7 (BS朝日)
◆数多ある噺のなかで、なんじゃこれ?な、カッコよくいえば超現実的 = シュールな落語が今回の「あたま山」。
私が初めてこの噺を知ったのは、数年前に見た子ども向けの短いアニメ映像だった。
変なストーリーだなと思いつつ、頭の池に飛び込むラストの画像が衝撃的で、しばらく忘れられなかった。
その後、寄席や独演会でもご縁はなかった"レアで変な噺No.1"を、この番組で拝見できるとは!
春風亭一朝師匠の「あたま山」、笑福亭鶴笑師匠の「さくらんぼ」、さらにパペットversionの3パターンを連続で見られるなんて。
御法度どころか、新選組なら切腹ものの"甘美なひととき"であった。
◆予告通り、師匠方の楽屋シーンから始まった今回。出番をどうやって決めているのかと気になっていたが、あんな感じなんですね。
(香盤や年齢などの差がない場合は、ジャンケンやサイコロで決めたりするのだろうか?)
「先やった方が得なんですよ」と、ちゃっかり先攻を取った大先輩の一朝師匠だったが、パペット付きの鶴笑師匠を後攻にしたのは流れの点でも大成功だったと思う。
◆一朝師匠「あたま山」
「頭から桜の木が生えるなんて、絶対そんな事あるわけないよ」と判っているのに。師匠が語ると格調高く聞こえたのは、醸し出す雰囲気のせいなのだろうか?
その一方で、長屋の花見の"お茶け"をくすぐりに入れたり、"宇治の蛍踊り""瓢箪からコマ"など、適度に馬鹿馬鹿しい(落語らしく良い意味で)小ネタで笑わせてくれる、まさにイッチョウ懸命な師匠。江戸落語の神髄を見せて頂いた。
◆鶴笑師匠 「さくらんぼ」
唐草模様の包みと共に登場した鶴笑師匠。
「ばってやって びゃっとやって ぶっとやんねや」と、擬音語いっぱい関西弁なのに、何故か上品に聞こえた。
まくらで語られた6代目笑福亭松鶴師匠の思い出話と共に、死について語る師匠。
そうか!「さくらんぼ」って死についての噺だったのかと、新たな見方を教わった気持ちで耳を傾けた。
余談ではあるが、医者が両手でトントンと診察する様子を見て「子どもの頃に小児科でやってもらったなぁ」と懐かしくなった。たしかに師匠の言う通り、一体あれは何の為だったのだろう。
◆アフタートークでは、御二方とも「難しいバクチのようなネタ」だとおっしゃっていた。だからこそ、観客としては"怖いもの見たさ"で聴きたくなる不思議な落語なのだろう。
「人は忘れ去られた時に死ぬ」とおっしゃっていた鶴笑師匠。という事は、忘れられないこの噺は永遠に死なないということになるのだろうか。主人公のケチ兵衛さんは最後に死んでしまうけど、生き続ける物語。ここに、最高の芸術的オチがあるのだ!やっぱり凄い。
さはさておき、涙を誘う鶴笑師匠のパペットさばき。人形と音楽を使った新しい見せ方に、批判も多かったとのことだが、続けて下さってありがとうございます。そのおかげで、落語の新しい可能性も見せて頂けました。可愛いくてワザありまくりのお人形が師匠の手づくりである事が、今回一番の感動だったという事で締めたいと思う。
◆次回は隅田川馬石師匠 vs 笑福亭生喬師匠で、「辰巳の辻占/辻占茶屋」。
男と女の騙し合いがサスペンス的に描かれるこの噺。ドキドキして来週を待ちたい。
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