「多摩川水害と“岸辺のアルバム”」(アナザーストーリーズ)
濁流にのまれて流されてゆく家屋の映像は、近年の震災や水害でも目にした事はある。「中に人がいなければ、生命さえ助かれば良い」と思うのが人の常だろうが、流された家屋に住んでいた人たちは住処や家財を失う。その後どうすれば良いのか、生きるための闘いが始まるのだ。
そんな実話に重ねて、1977年放映の名作ドラマ「岸辺のアルバム」の制作秘話が明かされるドキュメンタリー。"家族とは何だろう"と思わずにはいられない60分だった。
放映時幼かった私は、ジャニス・イアンの歌うテーマ曲「ウィル・ユー・ダンス」だけは覚えている。毎週楽しみにそのドラマを見ていた母の横で、流されてゆく家屋の映像を眺めていた事も。
水害で流される家屋にどんな家族の物語があったのか。山田太一の着眼点が素晴らしい。当時の世相を反映し、その全てを一つの家族に背負わせる作家ならではのアイデア。更にそれをドラマにしてしまうプロデューサー・堀川とんこうの力量。今も続く"TBSの金10ドラマ"の系譜に相応しい傑作だ。
山田太一は、家を流された家族がアルバムを失った悲しみを被害に遭った家族から聴いて、小説を書いた。「アルバム=写真」は、バラバラになった家族が唯一共有できた過去の思い出、そのものなのだ。
東日本大震災の時も、津波で流された写真を復元再生させるボランティアがあったという。デジカメやスマホのおかげで、誰もが気楽に写真を撮るようになった。しかし撮るだけで完結してしまう現代において、現像される写真はどのくらい減ったのだろう。かつてほど大事に保存されなくなった印象を受ける。
それは奇しくも、現代における家族の在り方にも近いものがあるように思える。
今のドラマは、出演者ありき話題性先行のものが多い。そこに加えて、もっと深い人間の業や情を映し出すような上質なドラマを見せてほしい。
今一度、「岸辺のアルバム」を全編通して見たい。