「“玉砕”の島を生きて〜テニアン島 日本人移民の記録〜」 (ドキュメンタリー ETV特集)
戦前、サトウキビ栽培のため多くの日本人移民が生活を築いていたテニアン島。太平洋戦争中の昭和19年夏、強大な米軍が上陸し、島の日本軍は全滅。米軍が迫る中、日本人移民たちは、次々と集団自決に追い込まれていく。親しい者同士で命を絶った壮絶な体験。生き残った家族が生涯抱え続けた苦悩。重い記憶を背負った人々を20年以上にわたり取材。彼らの遺言ともいうべき300時間に及ぶ貴重な証言をもとに、極限の戦場を描く。(公式HPより引用)
グアム、サイパン、ガダルカナル、ミンダナオ、硫黄島など、戦時中様々な島が激戦地となり地元民が犠牲になった。恥ずかしいが、この番組を見てテニアン島という名前の島を私は初めて知った。戦前は日本からの移民が楽園のように生活していたその場所が、一転して地獄となった様をこの番組は淡々かつ克明に綴られていく。
一家の大黒柱である父親を失い、姑と子どもたちを連れて逃げた母親。企業の社員として赴任した独身男性。メインはこの2つの視点だが、私が最初に感じたのは「良くぞあの場所から生きて帰ってこられたものだ」。とにかく生還して長生きされている事にホッとしたというか、礼賛に近い思いだった。
しかし番組が進むうち、そんな単純な感想が許されないほど衝撃的な実状が語られてゆく。生きて帰ってきた事を悔やむだけでなく、あの場で死んでいた方が良かったとさえ思うような、辛い想いを胸に彼らは過ごしてきたのだ。
同僚と共に島内を逃げ、最後の晩餐に甘いぼた餅を食べ終えた瞬間、艦砲射撃を受けた男性。瀕死の同僚を苦しませたくない一心で、爆弾を置いてその場を去る。
子ども達と共に洞窟内に潜んでいるところに日本兵が一人来て、わが子殺しや玉砕を扇動する。まさに沖縄戦と同じ悲劇が、テニアン島でも起きていたのだ。
また、母親と妹を自分の銃で打った男性もいた。
どの事態も、平常時なら殺人として許されない行為である。しかしそれが平然と行われてしまうのが、戦争の狂気なのだ。
この番組のディレクターは、長年に渡ってテニアン島の戦争に関わった方々に寄り添ってきた。だからそれまで口をつぐんでいた戦時中の話を、彼らから聴くことができた。またその話を、このように番組にして私たちに届けてくれる。それを見られるとても貴重で尊い機会を、逃してはいけないとしみじみ思った。
番組の最後、それまで謎として伏せられていた悲しい事実が明らかになる。母が手にかけた1歳の末弟は息を吹き返す。そこに止めをさすよう母は長女に頼む。母親がわが子にわが子を殺すよう頼むなんて、頼む方も頼まれる方も例えようのない生き地獄である。生還して長生きした母も娘も、同じ辛さを抱いて供養の日々を過ごしたのだろう。
番組ではこんな美しい場所と対照的に、戦死者や海に身投げする一般人の映像が多く流れる。想像を絶する悲劇があった事を、みんなが知る事で戦争の抑止にするべきだと思った。
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