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ETV特集 山田太一からの手紙

11/9(土) 午後11:00-午前0:00
公式サイト

昨年11月に亡くなった脚本家・山田太一。筆まめで知られる山田は、多くの人に膨大な手紙を書き送った。それは仕事仲間や知人にとどまらない。一般の方からのファンレターにも直筆で、長文の手紙を送った。そこには山田のテレビドラマへの熱い思いと直言、そして心揺さぶるメッセージがつづられていた!手紙を受け取った人が何を感じ、山田がテレビに託したものとは何だったのか。テレビドラマへの愛、信念、闘いを見つめる。
(以上公式サイトより)

テレビっ子の私だが、悔しいことに山田太一氏のドラマをリアルタイムで見ていない。
「岸辺のアルバム」は母が見ていたのを、チラッと布団から覗いただけ。「ふぞろいの林檎たち」も少し上の世代だし、と眼中になかった。なんとも勿体無いことだ。

かろうじて見たのは再放送で「今朝の秋(1987 NHK)」。涙ボロボロだったが、このドラマは50歳を過ぎた山田氏が老いを意識して書いたとの解説に納得。余命宣告をうけた息子と老父を描いた、生命についても考えさせられる秀作だった。

たしかに、山田氏のドラマには派手な展開やドギツイ性描写は無い。なのに人の心を打つ。
そのわけは、市井の人物に向き合い彼らの内面や取り巻く環境を誠実に描くことで、視聴者の共感力に訴えてくるからだと、この番組で改めて認識した。

映画からテレビの世界に移り様々な名作を世に送り出してきた彼は、2000年を過ぎた頃からテレビの世界の荒みようを嘆く。
バブル期以降、その場限りの楽しみに熱中する軽薄な世の中の風潮と、実直な自分の作風との乖離が大きくなってきたからであろう。
これは山田氏の責任ではなく、世の流れに疑問も持たずに身を任せるその頃の意識のせいである。
人物を見つめることで素晴らしいドラマを紡いできた山田氏は、日本人の意識の堕落をいち早く体感していたのではないだろうか。

ペラに直筆の執筆スタイルは、パソコン(ワープロソフト)打ちが主流の現代にとって"昔のもの"という認識がある。手紙同様に勢いのある豪快な字で、流れるようなドラマを書いてきた山田氏は、ご自身の作風の終焉を予見していたのかもしれない。

しかしそれは見当違いだと、私は断言したい。
名作はいつの世も名作であり続けるのだ。
その証拠に、先日クドカン脚本で放映された山田太一氏原作の「終わりに見た街」は物凄い反響だったではないか。
フィクションでしか書けないものをドラマにする、まさにその通りの怖くて現実感あるものだった。

番組冒頭に紹介された、中島唱子へ送った優しいメッセージ。山田太一氏の御人柄と脚本家としての矜持が現れた、とてもあたたかいものだった。
長年山田氏と共にドラマ作りをしてきた東義人氏の言葉を紹介して筆をおきたい。

「自分をね、気付かせてくれる、発見させてくれる。そういう力を持ってる人だと思いますね。山田さん自身・ドラマ自身もね、いつも普通の人を描いていらっしゃいながら、自分を励ますね。そういう力を与えてくれた人じゃないかと思いますね」

こんな世の中だからこそ、見ておきたいものが山田太一氏のドラマである。

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