御法度落語 おなじはなし寄席 #9 (BS朝日)
熱血フードファイトかと思いきや、ホラー映画のような結末を迎える「そば清(柳亭左龍) 」vs 「蛇含草(桂米二)」
2週の再放送をはさんでの本放送再開に相応しい、めちゃめちゃ面白い落語対決だった。
◆ 先攻・柳亭左龍師匠
ちょいポチャのルックスだけでなく、柔和な語り口も柳家さん喬師匠譲りな柳亭左龍師匠。
大河ドラマ「晴天を衝け」で"江戸ことば指導"をされているだけあって、滑舌の良いべらんめえ口調と蕎麦の食べ方は、これぞ江戸落語!見ても聴いても江戸を感じられる「そば清」だった。
大食漢のくせに自信なさげに蕎麦を食べ始め、「その日の調子でございますから」と言いながら、難なく30枚目を平らげるそば清の様子。
自分も一分銀を出しているつもりになり、なんとも憎たらしく見えた。
なのでラストの衝撃は少し可哀想な気もしたが、「それ見たことか」と溜飲を下げる思いもしてしまった。
人間欲張ってはいけないな、と。
◆ 先攻・桂米二師匠
第一印象は"ロマンスグレーの素敵なおじさま"。上方らしくないというか、なんだか上品な雰囲気があるなと思ったら、京都御出身との事で納得。
蕎麦アレルギーとの米二師匠、お餅を爆食する「蛇含草」で良かったですね!
そんな気品あふれる米二師匠が、ハフハフ言いながら見せる「餅の曲食べ」は圧巻だった。さすが上方、普通には食べないところがニクイ。
初めて見た「蛇含草」が米二師匠で、本当によかった。
食べ過ぎて家に帰った徳さんを心配する御隠居の優しい様子に、米二師匠御本人のお人柄が出ているようだった。芸は人なり、というところだろうか。
◆ 江戸と上方の違い
今回の噺、タイトルの違いが大きな意味を持つことに気づかされた。
江戸の「そば清」は主人公の名前であり、彼をメインに据えて物語が進む。
話の転換点で、ウワバミと赤い草のエピソードが出される。ここに"梅干しとアルミの弁当箱の話"か補足される事で、赤い草の効能が説明される。
にもかかわらず、そば清の思い違いが悲劇を生むのである。だからラストは、なんとなくもの悲しい気分になってしまうのだろうか。
上方「蛇含草」は、悲劇(⁉︎)の元凶となる草にスポットが当たっている。
噺の序盤にその草が現れ、どういう草かの説明もされる。
聴き手はなんとなく聞いたその草の存在を、最後の最後になって徳さんと一緒に思い出す。「人間が溶ける」と聞いているにもかかわらず...。
思い違いも結末も、両者同じで怖いはずなのに、ここでは面白く感じてしまうのは何故だろう?
「そば清」には金銭が絡んだり、家が建ったりという現実感が漂っている。
「蛇含草」には序盤で生活の描写はあるけれども、餅を食べるシーンの面白さや2人のやりとりに温かな人情が見える。
江戸が冷たいというわけではないが、上方には"苦境さえも笑いで乗り越える"ような強かさを感じた。
◆アフタートークより
今回も裏話満載で、落語同様に楽しく拝見した。
お正月のイメージがあるお餅が出てくる「蛇含草」。どうして夏の話かと不思議に思ったが、着物無しではありえない羽織の存在を理論的に考えて、との事。
だから麻の甚兵衛になった説は、とても勉強になった。
人間国宝・桂米朝師匠をもってしても理想通りにはいかないのが落語。
落語って奥深い。ますます好きになることを確信した。
◆次回は『将棋の殿様/大名将棋』。
ドリフのコントを見るような、これも面白落語!(落語はみんな面白いのだが)
六代目柳家小さん師匠と笑福亭仁嬌師匠の対局、大いに楽しみである。