五十嵐早香のエッセイは何故、面白いのか?第1回「バギオよりも高低差のある人生の始まり」
仏教の禅宗の言葉に「龍吟ずれば雲起こる(りゅうぎんずればくもおこる)」という言葉があります。
龍が物凄い鳴き声で、穏やかであった天に急に雲がわきあがる様子を表していますが、転じて、英雄が行動を起こすと、同志が自然と集まってくるという意味です。これを現代風に解釈した方がいます。その方は、NHKの「プロフェショナルの流儀」などで特集されたミシュランガイド12年連続3つ星を獲得中の「日本料理 龍吟」代表シェフ、山本征治さんです。目標を決めてそこに向かって行動を起こせば、自分のやっていることの結果が自分についてきますよ、と解釈したそうです。「自分が思いを決めたことを積み重ねていくと必ずその結果がついてくるんだな」と修行時代に読んだ禅の本から店の屋号である「龍吟」と決めたと2023年8月2日に行われたメディアアーティストの落合陽一さんとの対談でも語っていました。
「龍吟」の山本さんが感じた「龍吟ずれば雲起こる」という言葉、僕なりに解釈してみると、二つに分かれて、一つは禅の意味に近い才能がある人が行動を起こせば、応援する人が集まってくる。これは現代でもよく見ますよね。もう一つは、山本さんの解釈のように「ずっと続けていくうちに雲が起こっていた」というものです。
人間の人生もそうかも知れません。
何か目指すものに向かって続けているうちに、思わぬ結果が待っていたということもあるでしょう。
五十嵐早香さんの場合もそうです。
彼女のブログは2020年2月1日から名古屋のアイドルグループSKE48の公式ブログで始まりました。
そこから4年の月日が経ちました。
SKE48を卒業後は、noteで文章を書いていた彼女の才能がついにプロの方に認められる日が来ました。
※こっちが前編です。
※こっちが後編です。
天下の講談社が運営してる「現代ビジネス」でエッセイの週刊連載が始まりました。
もう一回、書いておこう。
講談社ですよ。
超大手じゃないですか。
そんなところの編集の方に才能を見つけられるまでも是非、エッセイ化していただきたいものです。
それでは、記念すべき第1回の感想を書いていきましょう。
まず、導入が素晴らしい。自分が何者かを明らかにして、華やかなキャリアとは裏腹に意外と平凡な日々ですよ、ということを読者に明かしながら、ここから始まる非凡な過去へのフリが効いてますね。
まずは、埼玉県の小学生時代まで時計の針は戻ります。
お父様の突然のフィリピン移住宣言。
とんでもない人生のターニングポイントが小学生の彼女にいきなりやってくるわけです。そして、このお父様の宣言が最初は自分も周りも信じていなかったけれど、徐々にそれが現実なんだなと実感していく描写が凄くリアリティがありましたね。
当時の早香先生の交友関係の意外な広さが海外でも発揮されるのか、とこの時点で僕は予想していました。
ただ、フィリピンはとんでもなく大変なところでしたね。
ちなみに、彼女が移住したフィリピンのバギオですが、どんなところかしら、とYouTubeで動画を観てみると、留学先として有名なんですかね。「PINES Main キャンパス」で英語力が向上することが色々な動画で語られていました。ううむ、もちろん、そこだけではないと思うんですが、英語のレベルが高いんですかね。エッセイでも書いていたように日本で学んできたことが通用しないまま、彼女はひたすら英語と向き合います。しかも、1日中。海外だから逃げ場ないですし。
しかし、ここで、「龍吟雲起」的なことが。
半年ほど経ったころ、英語が分かるようになってきます。
ここに辿り着くまでの辛さを想像するだけで、こちらまで辛い気持ちになってきますが、ついに英語分かるようになった彼女は、フィリピンの方々の優しさもはっきりと分かるようになります。そして、フィリピン料理も病みつきになり、完全にフィリピンに馴染みはじめたわけです。
更に、ここで日本のアニメカルチャーとも出会います。
教えてくれたのが、学校の先生というのもいいですね。
人生で初めての趣味、アニメと出会い、そこから彼女はコスプレを始めます。アニメが盛んな日本からやってきた少女は気づけばフィリピンのアニメファンの方々に大人気に。こういうのをクールジャパンというんじゃないんでかね( 多分、違う )。オタサーの姫状態から16歳になる頃には、「絶世の美少女」だと勘違いしたとんでもないモンスターにメガ進化。ただ、このあたりの描写にさりげなく挟まれる「大いに苦しめる」という言葉が、どうやらジェットコースターが上まで上がり切ったことを我々に教えます。
AKB48の姉妹グループ、「MNL48」のオーディション開催を彼女は知ります。QuadlipsのCOLEさんが在籍していたところですね。アイドルになった自分の姿を2秒間想像し、3分後に応募したと普通に書いてますが、自分の人生のかじ取りが大胆ですね。フィリピンに移住はご家族の力によるものですが、アイドルになるというのは、彼女自身の決断ですもんね。第1審査も審査突破圏内。自信満々で過ごしていた彼女に不意打ちのようにやってきた上位200名が踊る「恋するフォーチュンクッキー」の動画。
もしや、これですかね?
SNSに溢れる阿鼻叫喚。
本当は、自分がいたはずなのに、いないという現実。
第1回は悔しい気持ちで終わるかと思いきや、謎のメールが、果たしてどうなる、気になり過ぎる終わり方でした。
いやあ、一つの回の中で何度も上がったり下がったりがあって読みごたえがありました。
あと、いつも絶対にアイドルのことで連絡が来ない、前に働いていた職場の方々から結構連絡をいただきました。「『現代ビジネス』に書いてる子、君が推してる子じゃない?」とかね。
今回の連載開始でまた新たな読者が増えて行くと思うと嬉しいです。
今日のお昼に彼女のお知らせポストを読んだ時、思わず、声がもれてしばらく放心しました。
人間って、本当に嬉しいことがあると、じわじわそれを実感していくんですね。「えっ、ほんとに、えっ、マジで?えっ、えっ、うわああああ」みたいな感じでしょうか?
正直、グラビアの方が言葉がいらない分、世界にも打って出れるし、ストリーマーを極めた方が、今の世の中にはマッチしているのかもしれません。三宅香帆さんの「なぜ働いていると本を読めなくなるか」でも書かれていましたが、どんどん文章が読みにくくなっている世界で、それでも書き続けてくれた彼女に本当に感謝しかありません。諦めずに書き続けてくださってありがとうございます。
僕は彼女に会ったこともありませんが、それでも他人の幸せが自分の幸せのように嬉しいというのが「推す」ことの醍醐味なんだな、と今日は噛み締めました。
ずっと書き続けてきたことで、ついに、龍吟のように雲が生まれましたね。積み重ねていくうちに結果が生まれていく。
これから毎週、新しい積み重ねが始まります。
新しい雲が積み重なっていきます。
いつか雲の先に龍のような五十嵐早香初の単行本が待っていると僕は願っています。
ああ、本当に良かった。
エッセイという自分の過去や現代をものがたることで、きっと普通に喋るのとは違う味付けで彼女のこれまでを我々は味わっていくことになるでしょう。
今日までの日々がどんな辛くても、どんなに悔しくても、それでも、美しいと思える結末を期待しながら、毎週楽しみにしたいと思います。
こんな大変なご時世なので、無理をなさらずに、何か発見や心を動かしたものがあった時、良ければサポートをお願いします。励みになります。