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「あの小説の中に集まろう」

 学生時代に言われて傷ついた言葉があります。
 「絵が描けないから文章を書いてるんでしょ?」
 僕はその言葉に何も言い返せませんでした。
 あまりにも驚いたからです。
 えっ、文章を書くのは、絵が描けないからやるの?
 僕、絵が描きたいとか思ったことないよ?
 文学が好きだから書いてるんだよ?
 その時、何か理解し合えない断絶を感じた覚えがあります。
 僕は「ごめんね」と小さく笑って、その場を去りました。

 当時の僕は創作のゼミに所属して、ある小説家の方から物語について教わっていました。ジャンルは純文学でした。当時の僕には小説を通して言いたいことや、文学じゃないと零れてしまう気持ちが沢山ありました。だから、毎日書いていました。
 しかし、「これはいけそうだ」と先生に太鼓判を押してもらえても、新人賞では結果が出ない日々が続いていました。
 僕のいたゼミでは、そもそも物語を綺麗に閉じるまで書ける人が限られていましたし、内容まで気にして作ることができる人は限られていました。更にその中で先生から、これはプロとも張り合えるから応募した方が良いと言われる人は、僕以外いませんでした。
 だからでしょうか。
 結果が出ない度に、勝負はしないけれど評価はしたい人達に、色々なことを言われました。 
 「ここがダメだと思った」とか「もっと読み手のことを意識しないと」とか。もう落選という結果が出ているので、正しい側として気持ちよく正解の評価ができるわけです。
 いつも僕は「ごめんね」と小さく笑って去っていました。


 それから、時は経ち、社会人になった僕は気づけば読むことが専門になっていました。仕事でもほぼ毎日本を読まなければいけませんでしたし、趣味でも本を読み続けました。ただ、物語を創作しようとしても、平凡なアウトプットばかりになっていました。自分が読みたい物語は、もっと才能のある人たちが書いているし、映画も好きになったので、現実の世界を映し出す手法としての言語の難しさを映画と比べて感じていました。本来なら小説はお金もかからないし、自由度も高いはずなのに、凄く窮屈に感じていました。
 何より、当時の僕にはもう言いたいことが無くなっていました。

 2018年の10月頃に10年働いた仕事を辞める決心をして、無職になりました。丁度、その頃、毎日暇だったので、ふとブログを始めました。
 自分の好きなアイドルグループに関するブログです。
 当時、グループに関する情報の消費の早さと、ネガティブな話題が中心になり始めていた頃で、何か自分の好きな楽曲の魅力や人の素晴らしさを伝えたいと思ったからです。

 他の人が情感を中心に読み解いているのに対して、自分はブログや生誕祭の手紙やインタビューや配信の言葉など、なるべく一次文献にあたりそうな言葉を中心にして、説得力を増していこうというコンセプトで始めました。ただ、これは、批評をよく読まれる方なら分かると思いますが、その創作者からにじみ出てしまうものを拾うことは苦手ですし、「当人の言うことは全て正しい」という思考停止にも陥りがちです。
 なので、上記の情報を吟味して自分なりの考えを入れるようにしました。
 本当にゆっくりですが、読んでくださる方が増えてきました。
 

 ブログを2018年の10月末に始めてもう5年近く経ちます。
 おかげさまで、なんとか走り続けてこれました。
 昨年は、紙の雑誌を2冊だしたり、今年の春には電子書籍を出しました。
 しかし、世間的には完全に無名でしてね。
 SNSのフォロワー数は、Twitterが500人ぐらい、noteも100人と少しぐらいです。
 5年やってこの人数は、少ないのかも知れませんが、おかげ様でクラウドファンディングの時は力になってくださる方や、雑誌製作の時にアドバイスをくださる方や、一緒に文章を書いてくださる方とも出会えました。
 正直、リアルの空間で会う人達よりも、SNS上で知り合った方々の方がやり取りが多いくらいです。
 しかし、この4月から5月までの1ヶ月である変化が起きました。

 それはAIイラストが描けるようになったことです。

最近は、SNSのヘッダー画像を作るのに凝ってます


お気に入りの作品の一つ。定期講読マガジンの「webのかける人」の新しいヘッダーです。


 これはAIにプロンプトという言葉を入力していきます。
 絵を言葉で描いていくわけです。
 自分の表したいビジュアルを言葉で探っていく。
 それはとても労力がいりますが、短時間でビジュアル化できるのと、絵のタッチが自分が好きなリアルさで表現できるのがとても大きくて、暇さえあれば絵を作っておりました。それは、「いいね」や「リツイート」を誰からももらえなくても良い、完全に自分の為の落書きでした。電子書籍の予約数を追いかけていた僕には、良いストレス発散でした。

 そして、試験的に名前を全く変えて、AI専用のアカウントを4月25日頃に作りました。2日に1度ぐらいのペースで絵をアップします。これはオープンにしませんし、このnoteがアップされる頃にはもう消えていると思いますが、わずか短期間で300名以上のフォロワーを確保しました。僕は一回も告知もリツイートも何もしません。ただ、淡々と「#AIアート」とつけて絵を貼っていくだけです。
 そちらのアカウントを開く度に、フォロワーがガンガン増えて行きました。
 その時、ふと僕が5年かけて積み上げてきたものって何だったんだろう、と感じました。
 そりゃ確かに絵は文章を読むよりも美しさや素晴らしさも分かりやすいです。
 綺麗と汚いとか好きと嫌いとかのジャッジはずっとしやすいです。
 もっと観たいという気持ちも凄くわかります。
 しかし、この無限にAIイラストが生まれている現状はいつまで続くんだろうな、とも思います。
 いつか飽きが来るのか、それとも作り続けるのか?
 僕も他の方が描いたAIアートを保存しますが、それを見返すかというとなかなかありません。
 まるで早押しクイズのように、「これは好き」とか「これはいまいち」ぐらいの判断をして次の絵に移ります。

 AIを味方につけることで、僕は一定のクオリティと早さを手に入れて、更に文章以上に理解しやすさも手に入れました。それは別のアカウントを作って試してみたことからも分かります。
 ただ、どこかモヤモヤした気持ちもありました。
 やはり、AIが作るものには良い意味での余裕はありますが、これだけは伝えたいという切実さがまだ無い気がしています。また、連続性を見せるのにはまだ練習が必要だと思っています。簡単にいうと1枚ものの絵はコントロールすることが出来るけれど、連続性のあるものは難しいという感じです。
 完全なコントロール性はまだ手に入れられていません。
 ( この課題は早ければ今年中に解決しそうな気もしています )

 さて、そんな中、5月2日に推しがとんでもない宣言をしました。


 「第2回note創作大賞」。
 実は、去年の第1回の時に応募要綱だけ読みましたが、「今の僕は雑誌作りで忙しいし」と見送っていました。
 第2回が発表された時も、なんとなく興味がある部門だけ見て、見送ろうと思っていました。「今の僕は電子書籍売るので忙しいし」と。
 いや、僕も書きたい。
 出よう。
 そう決めて、翌日のnoteに参戦のことを書きました。

 おそらく、推しが参加する部門とは違う部門で戦うことになると思います。去年の受賞作の文字数をチェックすると二万字以上の量になります。二万字がピンとこない方は「かける人 創刊準備号」の週刊中坂さんの記事がだいたい2万字ぐらいだったのではないかと思います( 少し調整していただいたので、もっと少なかったかも知れません )。
 書き上げるまでは、時間がかかります。
 読み直して、校正する時間を考えると、あまり時間はありません。

 ある部門ではAIの使用が認められています。
 noteにAIが導入された時に、実は脚本作りを何度かしてみたんですが、あまり思うようにはいきませんでした。
「ここで何かを気づいたような表現を入れてください」と入れると「すると、ペンギンのペンタは何かを気づいたように視線を向けた」というような直接的な表現になってしまします( おそらくプロンプトの際にネガティブ項目を増やすと調整されるのかも知れませんが )。
 ただ、将棋の電王戦のように、相当仕上げてくる人もいるかも知れません。なんせ締め切りの7月17日までにまだ2か月以上あります。AIに2か月も時間を与えるってあなた、と使っている人間からしたら思いますが、それでも負けない作品を自分は作りたいと思っています。
 根拠のない自信です。
 記事を書く時は、あれだけ根拠になりそうなものを集めて書くのに自分のことになると、何の根拠もないのに挑戦していく。
 それが僕の愚かだと思うところですし、生きていてワクワクするところだと思っています。
 不思議ですが、今の僕は伝えくてモヤモヤしていることや描きたいことも頭の中にあります。それは平凡なことかも知れませんが、自分だけのやり方で組み立ててやろうと思っています。AIのように均衡がとれたものではないですし、泥くさい文章かもしれません。でも、書きたいことがあります。推しと同じ創作でチャレンジできるということにもワクワクしています。

 今、学生の頃と同じ質問をされたら、きっと、こう答えると思います。
「文章も書けるし、AIに手伝ってもらいながらだけど、絵も作れるよ。どっちも好きだし。でも、今は凄く文章にこだわりたいし、すがりたいし、これで頑張りたいんだよね。何より、負けたくない人がいるんだ。だから、ごめんね」

 今日も静かになった深夜の部屋でキーボードを叩きます。
 才能が無いから一文一文に手間暇をかけながら、組み立てていきます。
 心に火を点けた推しに感謝の気持ちを込めて、今の自分の最高の作品で挑みたいと思います。


 ※ちょっと宣伝。僕の初の電子書籍が発売中です、良かったら、読んでみてください。


こんな大変なご時世なので、無理をなさらずに、何か発見や心を動かしたものがあった時、良ければサポートをお願いします。励みになります。