見出し画像

リード職人から見たリード3000円は適正価格なのか

今回はリードメイキング講座とは別に、筆休めの記事です。
多くの人が興味ある内容かと思いますが、同業者の方にはセンシティブな内容になる可能性もあります。あくまで私一個人の意見という事と、この記事が原因で営業の妨げになる場合、対応しますのでお問い合わせください。

オーボエのリードは一般的に3000円と言われています。これより安い場合もありますし、高い場合ももちろんありますが、どちらも一般的な価格は3000円という値段を意識した価格設定になっていると感じます。

言い換えますと、3000円より高いリードは何か付加価値があり、3000円より安いリードは価格が安い理由があるリードという事になります。

リードの3000円ですが、含まれているものは主に、材料費、加工費、送料、小売店の利益分です。(詳しく説明すると他にもありますし、また一般的な会計用語などと違いますが、わかりやすさのためこのようにさせていただきます)これらを別々に解説していきます。

1.材料費

材料費はチューブが一番高価で、次いでケーンの材料費が高いです。ワイヤーや糸などはリード一本あたり1円に満たないくらいになります。

チューブは種類によってかわりますが、リード職人の場合百本単位で買う事が多いので、オンラインショップで売られているようなチューブの単品価格よりは安くなります。体感として恐らく300円~500円の範囲にはおさまる気がします。(私の場合は匠チューブを使っていますのでこれより高いです)

ケーンは丸材から作るか、カマボコから作るかで材料費は変わりますし、キロ単位で購入すると廃棄率とかもあるので変動します。また丸材から作る場合は材料の仕入れ値は安くなりますが、その分ガウジングの加工が必要となり、ガウジングマシンのメンテナンス等も必要になります。
丸材からの加工の場合、ケーンは1キロ3万円前後で、400本前後あります。私の場合、およそ3~4分の1くらいは廃棄し、丸材1本から基本的に3本材料をとるので、上手くいけば1キロで800~900枚材料がとれます。…体感もっと少ない気がしますが、この場合、ケーンの材料費は
30000÷800~900=37.5~33.33…
となりおよそ35円です。

その他に、糸、ワイヤー、息漏れ防止テープ、ラッカーあたりがありますが、リード1本あたりで考えると全て合わせて1~2円程度でしょう。

これをみていただくとわかる通り、リードの材料費はほぼチューブ代です。一般的には材料費は大体500円くらいと思ってよろしいかと思います。

2.加工費

1本あたりにかかる時間分の費用で、リード職人の利益となる部分です。ひとつ目安としまして、音大などを卒業し、フリーで演奏活動するような個人が運営するオーボエの個人レッスン(大手楽器店などのレッスンではなく)の相場は、1時間で5000円程度が多いかと思います。この5000円から、場所代、交通費、先生生徒間でレッスン予約対応の通信費等の経費を引いたものが利益となり、技術職として考えた場合の時給がおよそ想像つくかと思われます。およそ4000円程度でしょうか。

時給4000円を高いと見るか低いと見るかは人それぞれかと思います。もちろんレッスンとリード製作は業務内容が全く違いますので単純比較はできないのは重々承知していますが、一つの参考になるかと思います。

また、リード1本あたりの製作時間ですが、こんな動画を以前作りました。

ここで計測した結果、1本作るのに要した時間は13分37秒でした。
これを参考に実際の時間を考えると、タイムを縮める要素としては、オーボエは一つの工程をまとめてやることが多いので、効率が良くなること、タイムが増える要素としては、マシンのメンテナンスや作った物の完成間近で廃棄扱いになるものがあったりといったところでタイムが増えるかと思います。
また、動画では出来上がってすぐでタイムをとめてますが、試し吹きしたり、日をあらためて微調整などもありますので、結局はタイムはもっと伸びます。計算しやすいようにすると、1本あたりおよそ20分~30分になるでしょうか。

1本あたり20分(=1/3時間)の場合、時給4000円で計算すると、リード1本あたりの加工費は
4000×1/3=1333.33…
1本あたり30分(=1/2時間)の場合、加工費は
4000×1/2=2000

1本あたりに関わる時間が20分か30分かで、1333円~2000円とかなりバラつきがありますが、この範囲から著しく逸脱することはないかと思われます。

3.送料、小売店の利益分

送料と小売店の利益分を一緒に考えるのはアレですが、わかりやすさ重視でゴリ押しさせていただきます。

送料は、リード職人から小売店にリードを送る際にかかる費用です。まとめて送るので、1本あたりはかなり低いものとなります。例えばリード100本送って送料が1000円の場合、送料は1本あたり10円です。

小売店の利益分ですが、まず販売価格は、職人の希望小売価格に基づいて、利益率を考慮に仕入れ値を相談し決定するか、仕入れ値から利益率をもとに販売価格を決定するかのどちらかとなります。そして販売価格から仕入れ値を差し引いた額が小売店の利益分となります。リードは楽譜や小物類と違い、試奏の対応など手間がかかるのと、リードの消費期限とでもいいますでしょうか、売れ残って在庫をかかえると販売できなくなるリスクもあり(リード職人への返品対応になる場合もあります)、他の商品より利益率を高めに設定するのは容易に想像つくかと思います。おそらく700~1000円程度が小売店側の利益となるかと思われます。
(700~1000円の場合利益率は30%前後)

4.まとめ

以上より、材料費、加工費、送料、小売店の利益分を計算すると

500 + 1333~2000 + 10 + 700~1000 = 2543~3510

以上となり、1時間5000円のレッスンをする、専門的知識を持つ人物が作るリードが3000円というのは、妥当な額と私は考えています。大手ダブルリード専門店であるN社とJ社のオンラインショップのリード販売ページをざっと見ますと、3000円をやや下回るものがほとんどです。

「リード職人→小売店→消費者」のモデルだと以上のようになりますが、地方などでは、「リード職人→小売店(卸売りの役割)→小売店→消費者」といった形をとる場合もあり、その結果として小売店の利益と送料がさらに上乗せされて、地方ではリードが高いといったことが起こります。


さて、リードが3000円は妥当だからおしまい、ではこの話をした意味がありません。一つ考慮に入れてないもの、リードの寿命についてと、さらに消費者がリードの費用を抑えるための考察をしていきます。

5.リードの寿命

リードの寿命は、私の認識では1本を使い続ければ10日、2本ローテーションしてギリギリ1ヶ月程度と思っています。以下の動画でも少し触れました。

リード1本3000円自体は妥当であるものの、10日~15日で使い物にならなくなる、ここがリードが高いといわれる一番大きな理由です。もし3000円で1年持つなら高いとは思わないでしょう。

リードの寿命を長くすることができればその分負担は軽減されますので、上の動画を参考にしていただき、リードを大事に扱うということ、逆に大事に扱い過ぎると古いリードに慣れてしまい、新品のリードを吹く感覚を忘れるという事態に陥りますので、計画的にリードを購入することをお勧めします。

先生に習っているのであれば、なるべく節約して楽器を吹くには、リードのローテーションをどうすればいいか、という相談もぜひしてみると良いと思います。

6.リードを消費者が手軽に入手するための考察

リードを消費者が手軽に入手するために、まず、私はどんな値段設定をしているかですが、私はノーマルリードを2500円、学生割引で2000円、レッスンは1時間5000円でリード1本付きでやっております。レッスンは現在コロナの影響で休止しておりますが、レッスン自体3000円と2000円のリードの抱き合わせ商法ということで一般的な価格より値引きをしています。


消費者の皆さんが安く手に入れる方法としましては、直接リード職人にコンタクトをとって購入することで、「リード職人→消費者」という形をとることで、小売店の利益分をカットした価格で入手できる場合があります。

…私自身楽器店にリードを卸している身でありながら、楽器店さんを敵に回すような発言をしていますが、リードを製作する時間と、販売する時間というのは別物ということは留意しておく必要があります。

リード職人が製作ではなく、販売することに時間を割くというのは、つまりお客様の対応や梱包や発送などをする時間を費やす、という事です。リード職人はリードは作れても、お客様の対応がうまくなかったり、注文があってもすぐ発送できないという事もあります。

一方、楽器店でリードを購入すると、試奏できたり、行けばすぐ買えたり、親切に対応してくれたりというメリットが非常に大きいです。また、職人の製作時間が増えれば供給が多くなり、長期的に見てリードの価格が下がるという考え方もできます。

リード職人から直接購入する場合、ホームページ等で案内があれば良いですが、無い場合はSNSやメールなどで突然購入しますと言われても、対応できない場合があり得ますのでご注意ください。


結局の所、リードの為の出費をおさえる為には長持ちさせる、リード職人から買うくらいでしょうか。他にはフリマアプリ等の個人間売買サイトを使う、なども考えられますが、まとめの項目で提示した金額を参考に、安すぎる物に関しては相応の理由があると思って購入したほうが良いと思います。


最後に。リードを購入される皆さんが安く手に入れようとする努力は、限界があると思います。それよりも、販売する側にもっと値段を安くする努力や工夫が必要だと考えています。リード3000円は昔から当たり前のことだと思い続けるのは、大げさに言うとオーボエ界の衰退にすら繋がると思います。

かといって何も考えずに1000円値引きをするとどうなるかというと、リード職人の加工費から減らすとした場合、職人の時給を減らすということになります。
この記事の例だと時給4000円で、加工費1333円~2000円(20分~30分)で計算しましたが、1000円リードを値引きして加工費333円~1000円となると、時給1000円~2000円となり、専門的な知識を用いる技術職としては厳しい時給になるのはお分かりになると思います。

単純に値引きをするのではなく、例えば、学校や楽団単位でまとめて購入することで安くする方法を案内するだとか、購入したリードを示して演奏動画や本番の演奏会をすることで広告の役割をしていただくことで安くするとか、ポイント制で貯まると値引きできるとか、色んな購入プランを提示するのが今後必要になってくると思います。
ポイント制でポイントが貯まったら記念品!も嬉しいとは思いますがそれよりも値引きのほうが多分嬉しいでしょうし、何か付加価値をつけて5000円くらいの商品価値があるリードを3000円で特別販売!よりもまず普通のリードを1円でも安く提供するにはどうすればいいのかというのを求められていると感じています。

良いリードを作ること、そして販売する側と購入する側互いがwin-winな方法を模索すること、これらを今後の自分の課題に考えていこうと思いまして、今回の記事を終わりにさせていただきます。

ご覧いただきありがとうございました。


よろしければサポートをお願い致します。今後の活動費に使わせていただきます。