読書⑮
1.姑の遺品整理は、迷惑です 作者 垣谷美雨さん
エレベーターのない団地の4階に一人で住んでいた預金ゼロの姑の遺品整理をすることになった望登子(年齢50代・夫は一人っ子)が主人公。
望登子は、一人、片道1時間半をかけ、パートを休みながら、姑の家へ通い始めます。一刻も早く遺品整理をしなければ家賃8万円を払い続けなければならないのです。
遺産整理が想像しているよりずっと重労働と友人にアドバイスされていたとはいえ、10年前に亡くなった舅の服、十人単位の客が来ても困らないだけの食器、6年前の賞味期限のサラダ油、30個はありそうな冷蔵庫の中の食べかけのジャムや佃煮の瓶詰め等を目にし、望登子は心の中でつぶやきます。「お義母さん、こちらの身にもなってくださいよ」「お宅は十人家族か何かですか?」と。
図書館で借りた本の裏表紙に貼られた帯には「誰もが直面する問題をユーモラスに描いた長編小説」とあります。そのとおり!この小説は遺品整理をユーモラスに描いています。しかし、ただ、面白いだけでなく、遺品整理の大変さも伝わりましたし、人情もしっかりと描かれていて、読後は、ほっこりとしました。
作者は映画「老後の資金がありません」の原作者です。だからか、私は、頭の中で主人公の望登子をいつしか天海祐希さんに置き換え、この作品を読んでいました。
2.歌舞伎座の怪紳士 作者 近藤史恵さん
「スーツケースの半分は」を読んで以来、近藤さんの作品を図書館で借りまくっています。
実家で母親(父とは離婚)と二人暮らしの27歳・無職の久澄(くすみ)が主人公。ある日、苦手意識のある父方の祖母から、代わりに芝居を見に行き、感想を伝えるというバイトを提案されます。
バイトを引き受けた久澄は、人生初の歌舞伎を見に行きます。そして、そこで、奇妙な出来事に遭遇してしまいます。そんな久澄を歌舞伎座で隣の席に座った親切な老紳士が助けてくれるのですが、その後、久澄は、なぜか、いつも劇場で老紳士と会うことになり、奇妙な出来事も起こるのです。
この作品が好きな理由は、ミステリーであり、鬱屈を抱え、不安な日々を過ごしていた久澄が、歌舞伎や老紳士との出会いを転機に、人生をやり直していく成長ストーリーでもあるところです。久澄が見た歌舞伎の演目の説明が、とてもわかりやすく、興味深かったです。一度、明治座で歌舞伎を見たことがありますが、また、歌舞伎が見たくなりました。ぜひ一度、歌舞伎座で。
最後に謎の老紳士の正体も明かされます。
本の帯には「転機は、思わぬところからやってくる」とあります。確かに……この作品は、それを教えてくれました。