#006. ANNIHILATORが「METAL」を再録して「METAL II」を出したワケ。
はじめに
音楽に限らず、映画やドラマでも、続編というのは製作側に大きなプレッシャーがかかるものである。
というのも、すでに前作でストーリーやキャラクターが確立しているので、必然的にそれを活かしていくしかなく、むしろそうでなければ続編とは呼ばれないからだ。
特に作品プロデュースの世界では、いかに続編を良いものにして人気シリーズ化していけるかというのが命題にもなっており、それがコンテンツの価値を高める常套手段でもあることは、紛れもない事実である。
果たして製作側が続編にどれだけの情熱と心血を注いでいるのか、例えば、続編として成功した傑作SF映画「ターミネーター2」を取り上げてみる。
ご存知、アーノルド・シュワルツェネッガーの代表作であり、ジェームズ・キャメロン監督の出世作である。
未だに金曜ロードショーなどでは定期的に放映されているので、大筋の物語や主要キャラクターの相関関係については割愛する。
ひとまず「ターミネーター」の続編を製作するにあたり、キャメロン監督は「前作を鑑賞していない人」向けに脚本を書いたということ。
つまり、1作目を観ていなくてもストーリーが分かるように仕立てたのだ。
それを証拠に前作の主人公サラ・コナーを、それこそサラっと流すように脇役として描写している。
彼女がこの続編で初登場するシーンから思い出してみて欲しい。
思いのほか、そこに説明的な演出が少ないことに気付くだろう。
そして間髪入れずに登場するのがサラの息子、エドワード・ファーロングが演じるジョン・コナーである。
彼が出てきたことで、サラが今作の主役ではないことに観客が感付く。
この辺のシークエンスは本当に上手くて、確かに前作を観ていなくてもグイグイと画面に釘付けになっていくのは、さすがキャメロン監督である。
そして何よりも凄いのが、主演のシュワちゃんを悪役からヒーローに変えるというパラダイムシフト的な変更を加えたということだ。
これは1作目を鑑賞済みの人間からすれば到底考えられない設定であり、だからこそ、この2作目は空前の大ヒットを記録したんだろうと思う。
個人的に、この2作目にはとても印象的なシーンがある。
T800というサイボーグの暗殺者役シュワちゃんが、一般人を躊躇なく撃ち殺そうとした時、ジョンがそれを止める場面だ。
確かこういうやりとりではなかったかと記憶している。
このシーンでキャメロン監督は何を伝えたかったのか、考えてみたい。
まず、ジョンは幼い少年であっても、むやみに人を殺してはいけないことを知っている。
しかし理由を聞かれても、彼はまだ幼いので分からない。
というよりも、理由を言語化することがまだ出来ない。
対して、シュワちゃんはサイボーグなので、人間の心を持ってはいない。
彼は機械なのだから当たり前と言えば、当たり前である。
しかし問題は、本作のサイボーグは人間と外見が変わらないことにある。
つまりキャメロン監督は、見た目が人間である機械に、果たして人間の心が宿るのか、という普遍的なテーマをこの続編に掲げたのである。
もっと言えば、人間であることの本質とは道徳的価値観であるという理屈を、最後の最後まで貫き通したのがこの「ターミネーター2」なのだ。
(誰もが知っているあのラストシーンにそれが全て凝縮している。)
さて、前作の「ターミネーター」は1985年に日本で公開された。
パソコンOSの歴史を紐解けば、ちょうどその年に「Windows 1.0」が公開され、そこから10年後に「Windows 95」がリリースとなる。
そう考えると、かなり未来を先取りした内容であることが窺える。
端的に言って、SF映画とは未来を描くことなので、現実よりも一歩も二歩も先を進んで描くのが特長であり、それがまた存在意義でもある。
特にこの機械と人間との関係性については、すでに1982年に巨匠リドリー・スコット監督によって「ブレードランナー」が公開されており、本作も大なり小なり影響を受けていたことは間違いない。
とはいえ、キャメロン監督は哲学的なテーマを文学的な世界観で描くのではなく、あくまでも誰もが楽しめるエンタメに徹することで、ハリウッドらしい風刺の効かせ方にも成功したと言えるだろう。
具体的には、CGを使った派手な演出と、普遍的な人間ドラマのようなストーリーライン。
これらが見事に融合し、やがてテーマが集束していくラストシーン。
いかがだろう。
映画史上、最も成功した続編と呼ばれるのも納得がいくのは当然だ。
万が一にも、まだ未見の方がいるならば、ぜひ鑑賞して頂きたいと思う。
ということで、前置きに2,000字も費やしてしまって恐縮だが、そろそろアルバムレビューに移りたい。
今回は泣く子も黙るカナディアン・スラッシャー、ANNIHILATORが過去作品を再録した続編(「METAL II」)について取り上げてみようと思う。
前提として、ANNIHILATORとはJeff Watersのバンドである。
Yngwieじゃないけど、彼がいなくなればこのバンドは即解散だ。
それを証拠に、1984年デビュー時のメンバーは、Jeffを除いて1人も残っていない。
にも関わらず、多作なバンドとしても有名なので、Jeffのクリエイティブ魂は突出しているとも言える。
驚くべきことに、1989年のデビューアルバム「Alice in Hell」から現在に至るまで、約2~3年毎にアルバムをリリースし続けているという事実がある。
しかもそれらが駄作であったことなどは1度もなく、常にスラッシャーの間では話題作になるほど、その才能にも全く陰りが見当たらない御仁である。
彼のギタリストとしての腕前は、スラッシュメタル界隈でもトップ級だ。
特にギターリフのコンポーズについては他の追随を許さない。
また、ギターソロについても、例えばピッキングハーモニクスを挟み込むセンスなどは天才的であり、これはTESTAMENTのAlex Skolnickに勝るとも劣らない、スラッシュメタル界きっての技巧派とも言えよう。
試しに以下のLIVE動画におけるギターソロ、大体3分10秒ぐらいからを聴いてみて欲しい。
時間にしてはほんの一瞬だが、これぞ天才の所業とも言うべき、完璧なグルーヴの中で絶妙なピッキングハーモニクスを炸裂させているJeffの姿を拝める。
そんなJeff Watersにとっての、いやANNIHILATORにとっての最高傑作とは何か。
多くの方は迷うことなくデビューアルバム「Alice in Hell」や3作目の「Set the World on Fire」を推すとは思うけども、僕の場合は2007年にリリースされた「METAL」の存在を無視することが出来ない。
その名の通り、メタルとは何か、という根源的なテーマにJeff Watersが真正面から取り組んだアルバムなのだから。
この作品、実は多彩なゲストミュージシャンが参加して作られた企画盤という側面もある。
具体的には、今は亡きCHILDREN OF BODOMのAlexi LaihoやARCH ENEMYのMichael AmottとAngela Gossow、そして何とJeff Loomisなどの凄腕ギタリストが多数参加していた。
また、ドラムにはMike Manginiが正式メンバーとして在籍していたので、テンポが遅い楽曲でも、そのグルーヴには全く問題がない。
そして何と言ってもリードヴォーカルを務めたDave Paddenの存在感だ。
いろいろと賛否はあるかもしれないが、僕は彼の声が気に入っている。
リズムギター担当としてもメリハリのある力強いバッキングをするし、LIVEでの安定感も抜群だったので、彼が脱退した時は非常に残念と感じた。
そこでこの続編「METAL II」の話である。
言うまでもなく、メンバーを総入れ替えした布陣で製作された本作は、上で紹介したように、元ICED EARTHのStu Blockがリードボーカルを務め、ドラムには何とDave Lombardoが参加。
これぞメタルといった顔ぶれなのだが、正直なところ、なぜわざわざ再録してまでこのアルバムを作ったのか、よく分からない内容なのだ。
誤解があるといけないので、先に断っておく。
駄作では決してない。
むしろ前作よりモダンでヘヴィな質感にあふれ、パンキッシュな要素が大幅に後退しているので、生粋のスラッシャーの方には好評だろうと思う。
ドラムには全くの不満もないし、サウンドプロダクションも良好である。
しかし、分からない。
それは、ギターソロなど細かいアレンジから何から全て、前作を踏襲しているからだ。
再録と言えば聞こえは良いが、もはやこれはセルフコピーに近い。
この作品を初めて聴いた時、ここがどうにも理解出来ずにいた。
では本作を製作した動機について、Jeff本人の言動を拾ってみよう。
プロダクションとはサウンド、特にミックスダウンやマスタリングを指しており、そこの意味は分かる。
前作よりも音の粒立ち感が際立っているし、マスタリングも上手い。
しかし、パフォーマンスに不満があったとはどういうことだろうか。
個人的には、前作となる「METAL」は、Jeffにとってもベストパフォーマンスだったように思えてならないのだが、彼の言葉から推察するならば、やはりリードボーカルとドラムに不満があったということではないのか?
そう考えると、前作が好きだったファンとしては少々複雑な気分である。
レコーディングの過程において、アーティストがどのテイクを採用するか悩むことは当然あるだろう。
そこでボツになったテイクはおまけとして世に出るものもあれば、そのまま陽の目を見ないものもある。
そうして最適解のテイクを選びながら表現活動をしていくわけだが、Jeffがメンバーを総入れ替えしてまでやりたかったテイクがこれなのかと言われると、どうにも拍子抜けしてしまう。
素人には、前作との大きな違いがほとんど見出せないからだ。
もちろん、リードボーカルによって曲の雰囲気はガラリと変わっている。
しかしこれを最適解とするかどうかは、はっきり言って貴方次第。
良い悪いではなく、単純に好きか嫌いかの問題である。
従って、本作を聴くことによって、改めて前作の良さを痛感した僕のようなリスナーも、もしかしたらいるかも分からない。
ちなみに曲順も大幅に変更されている。
曲目については「Operation Annihilation」が除外され、その代わりにVAN HALENの「Romeo Delight」が収録されているが、これは追悼の意味もあるそうだ。
ただ、これも個人的な意見になるが「Operation Annihilation」を外したのは甚だ残念である。
この曲はJohn Bush在籍時のANTHRAXのような、機知に富んだファンキーなグルーヴが最高で、過去のLIVEでも息の合ったプレイを披露していたから。
この曲を聴け!
ということで、気を取り直して、本作から1曲をピックアップしてみよう。
僕の推し曲は、、、やはり前作でも好きだった「Army of One」である。
すでに上の方でもYoutubeで紹介済みだが、リードボーカルの交代によってここまで雰囲気が変わるものなのかと、正直驚いた次第。
楽曲のアレンジそのものは大きく変わっていないので、こうした対比が出来るのは、ある意味で面白いと思う。
よもやよもや、例えばこの曲のリードボーカルがJohn Bushだったら、僕の評価はもっと高くなっていたかもしれない。
どうにも、今回のリードボーカルを務めたStu Blockの声は、ANNIHILATORのサウンドに合っていないような気がしてならないのだ。
あえて言うなら、ドラムも、、、Mike Manginiの方が良かったと思う。
ANNIHILATORがSLAYERのような、猪突猛進型のスラッシュメタルだったら、こうした異論が出ることもなかっただろう。
ANNIHILATORはスラッシュメタルの中でも少し異質な音楽性だけに、どうにも釈然としない後味が残ってしまった。
従って初見の方は、ぜひ前作の「METAL」もチェックして頂きたい。
今回は比べる楽しみがあるので、そこは好きか嫌いかで判断して欲しい。
僕としては昔から好きなバンドだけに、この続編が成功することを祈りつつ、引き続き次回作にも期待したいと思う。
総合評価:80点
文責:OBLIVION編集部
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