スワローズ 黄金期をめざして(A)
(なんちゃってケース)
10月16日、高津臣吾は球団オーナー、球団社長、GMとの会議を前に、落ち着かない気持ちで室内を歩いていた。ついマスクをカパカパしてしまう。2022年の日本シリーズも、対戦相手がオリックス・バファローズに決まった。CS(クライマックスシリーズ)の勝ち方を見ていると、昨年以上に投手力と勢いをもって乗り込んできて、厳しい戦いになることは想像に難くなかった。2019年、2020年とリーグ最下位だった両チームが2021年、2022年と優勝して日本シリーズで顔を合わす。なんという因果かと苦笑いもしたくなる。
窓の外には、少し色づき始めたイチョウ並木と風にたなびくスワローズの旗が見える。賑やかな声がする方へ眼を向けると、できたばかりの「つば九郎ハウ巣」前に何組か写真を撮るファンの姿が見えた。
「アレも一時的な話題づくりにはいいが、これからどうするつもりなんだろうか…」
高津にも意外だった。夏にCOVID-19による停滞はあったものの、一年を通して強い球団だったと振り返っている。リーグ優勝し、CSも3連勝で日本シリーズ進出を決め、順風満帆だと考えていた。しかし、「なぜこんなに勝つのか」という疑問の声が球団内から聴こえたことに驚きを隠せなかった。CSではスワローズが圧倒的な強さで終わったことで、試合数は最少に抑えられ、チケット収入、グッズ収入が想定より少なかったというのだ。
「強いチームを作るだけではダメなのか…?」
神宮球場は2036年までに建て替えを予定している。パ・リーグ球団を中心に、ファミリー層を取り込むボールパーク構想や女性ファンを増やす取り組み、アパレルなどグッズの販売方針を変えたことで収入のポートフォリオを変えようとしている動きがある。球場だけでなく、都心の大きな公園として市民や利用者に愛され、持続的な収入を得ていくボールパークの意義は、メジャーを経験し多くの都市を回った高津にも実感するものがあった。
目の前の日本シリーズを勝つことはもちろん絶対的な条件で、今日はドラフト会議、そして来年のコーチはじめ布陣についての議題が中心だろう。
短期的な勝利だけでなく、中長期の計画について、どこまでが監督の裁量で行うことなのか疑問に思う部分もあったが、個人的に思案することはあり、ケガなく無理なく若手を育てていくこと、そのためにも経験豊富なベテランも身近にいる環境、自発的に成長していく組織をつくることは間違いなく自分の役目だ。
コロナ禍を経てオンラインの楽しみも増え、野球以外にもユーザーがお金を出すイベント、娯楽、体験が多様化していく中、一球団の一監督としての自身ができることは何なのか。
また、持続可能性という意味では、カードとしてただ優秀な選手を採ればいいというものでもなく、選手のセカンドキャリアといった、一人の人生にも寄り添って送り出せる風土醸成も求められる時代となった。球団、オーナー企業、選手団、ファン、スポーツ業界と一体となってどんな未来に向かっていきたいのか。
乳酸飲料が並ぶ中、まったく関係ないブラックコーヒーを片手に、つば九郎はう巣前で来園客にふてぶてしく愛想を振りまくつば九郎を眺めながら、高津はため息をついた。
《ケース本文》(略)
1.スワローズ球団の歴史
2.1993年日本一の状況
3.2019-2020年のシーズン
4.2021年シーズンの変革とメンバー
5.顕在化している課題
《添付資料》(略)
1.株式会社ヤクルト球団 財務諸表
2.株式会社ヤクルト本社グループ、球団チームの組織構造
3.セパ12球団 過去5年間の観客動員数、ファンクラブ会員数
4.セパ12球団 2010年からのドラフト結果一覧
5.日本の主要観戦スポーツの動員数、収支の概要
6.米国メジャーリーグ各チームの観客動員数改善の取り組み
7.全球団マスコットキャラクターとソーシャルメディア活用の状況
8.付録 地域とともに生きるヤクルトレディ秘話
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。
※単なる1ファンが日本シリーズとドラフトが待てずにビジネススクール風ケースで書いた戯れです。
書いた理由は以下の通り。
①スワローズが好きだから
②野球が好きだから
③文章を書く力の鈍りを立て直したいから
④インプットが脳的に辛くて、とりあえず何かアウトプットしたいから
⑤ドラフトと日本シリーズが待ち遠しいから
⑥ヒマだから