プライマリーバランス黒字化
プライマリーバランスとは、社会保障や公共事業をはじめ様々な行政サービスを提供するための経費(政策的経費)を、税収等で賄えているかどうかを示す指標です。
プライマリーバランスが黒字ということは、その年の税負担(税収入)で、国民生活に必要な支出がまかなえているということです。
プライマリーバランスの黒字化を目指すというのは、国家の経済運営を企業経営や家計と同じ発想で考えていることになります。
個人や民間企業は通貨を発行できないので、いずれ収入と支出の差額を黒字にして、そこから借金を返済しなければならないのは当然です。
しかし国家は自国通貨を発行できるという特権を持っています。
自国通貨建ての債務がどんなに積み上がっても、返済できないということはあり得ません。
共通通貨ユーロを採用したヨーロッパの国々は、自国通貨の発行権という特権を放棄したために、国家であるにもかかわらず、民間主体と同じように、破綻する可能性のある存在へと成り下がってしまったとも言えます。
かつて、ギリシャは「ドラクマ」、イタリアは「リラ」という自国通貨をもっていました。しかし両国は自国通貨を放棄して共通通貨ユーロを採用しました。
ユーロを発行する能力をもつのは欧州中央銀行だけです。各国政府はユーロを発行することはできません。
ユーロ建ての債務を返済するためには、財政黒字によってユーロを確保するほかなく、それができなければ財政危機に陥ります。
自国通貨発行権をもつ日本とは、まったく状況が異なります。
また、2001年に財政破綻したアルゼンチンは、アルゼンチン・ペソという自国通貨がありますが、外貨建ての国債がデフォルトしました。
外貨建て国債の場合には、その外貨の保有額が足りなければデフォルトします。
日本は、ほぼすべての国債が自国通貨建てですから、自国通貨を発行して返済にあてればいいということになります。
実際、歴史上、返済の意志のある国の自国通貨建ての国債がデフォルトした事例は皆無です。
プライマリーバランス黒字化とは、国債関係費を除く政府の歳入と歳出を一致させる(厳密には歳入の方を大きくする)という発想です。
日本は、高齢化により政府の社会保障支出は否応なしに増え続けます。
デフレ(総需要不足)下の日本において、社会保障支出が増えること自体は構わないのですが、プライマリーバランス黒字化目標があると、社会保障支出が増える分、他の予算は必ず削る、あるいは増税する、という話にならざるを得ません。
東日本大震災後も、国債を発行せず、復旧復興の財源は他の支出を削る、もしくは増税によって確保する、となってしまい、復興増税という政策を推し進めることになりました。
プライマリーバランス黒字化目標があるかぎり、政府は追加的な予算によりデフレギャップを埋めることが不可能になります。
2014年の消費税増税により、日本の民間最終消費支出の実質値は1年間で8兆円吹き飛びました。日本のGDPの2%近くが消滅したことになります。
消費税増税は日本の需要縮小策となり、デフレギャップが拡大しました。