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精製塩は悪なのか-塩と高血圧の話-
高血圧はその原因から二つに大別されています。
ひとつは二次性高血圧症で、血圧上昇の原因がはっきりしています。原因として最も多いのが腎臓の病気(腎性高血圧)、次いでホルモンの異常(内分泌性高血圧)です。高齢者になると、服用している薬が高血圧を誘発しているケースもよく見られます。
もうひとつが本態性高血圧症です。こちらは原因がはっきりしていません。そして日本人の高血圧症の90%はこの本態性高血圧症です。遺伝的な体質、肥満、過度の飲酒、運動不足、ストレス、喫煙などが原因と考えられていますが解明されていません。
本態性高血圧患者はさらに、食塩摂取で血圧が上昇しやすい食塩感受性高血圧と、食塩を負荷しても血圧が上昇しない食塩非感受性高血圧の二つのグループに分けられます。
日本人の高血圧症患者のうち約40%が食塩感受性高血圧と言われおり、このタイプには減塩が効果的です。
特に、高齢者やメタボリックシンドローム患者は減塩による降圧効果が大きいとされています。肥満患者が食塩感受性高血圧になりやすい原因として、インスリン抵抗性、高インスリン血症が原因であることが知られています。
食塩非感受性高血圧の人は減塩をしても血圧は下がりません。高血圧症の50%〜60%もの人がこちらに該当します。
減塩神話の発端は1954年、アメリカのダール博士による疫学調査です。日本の東北地方で脳卒中発症率が高いのは、同地方の食習慣がたくあんや塩鮭を多く食べることによるものだとし、高血圧の原因は塩の摂り過ぎであると結論づけられました。
これを裏付けたのが1955年、アメリカのメネリー博士による動物実験です。10匹のネズミに通常の20倍の塩を6ヶ月間投与し、飲み水も1%の塩水にしたところ、10匹中4匹のネズミに高血圧が発症しました。この結果をもって、塩を摂りすぎると高血圧になるという説が一般に広まることになりました。
しかし上記調査と実験は問題点も指摘されています。
最初のダール博士の調査ですが、後年、本当の原因は農家の家屋構造にあることが判明しました。当時の農家の便所は母屋から離れた別棟に作られています。便所へ行くには雪の積もった庭を通り、寒い風が吹きぬける所で衣服を脱がなくてはなりません。高い脳卒中の発症率は、極端な温度差によるものであることがわかりました。ダール博士が自ら再調査し、地域別の住民の食事による塩分摂取量と高血圧の発症率に因果関係が見いだせなかったことから、当初の結論は否定されています。
メネリー博士の実験も、人に換算すると1日300gにもなる塩を半年間摂取するという極端な実験方法であることが問題視されています。そして、そのような過酷な条件下でも10匹中6匹のネズミに高血圧が発症しなかった事実から、やはり塩と高血圧の因果関係は否定されています。
1980年代に入り、アメリカが中心となって世界的に大規模な疫学調査「インターソルトスタディ」が行われました。より厳密に、同じ条件・方法によって、世界32カ国、52カ所の人々の食塩摂取と血圧の関係を見たものです。全世界10,000人以上のデータによって研究は行われました。
その結果、1日3g以下の極端に食塩摂取の少ない民族では高血圧がほとんどないことと、1日30g以上のような極端に食塩摂取の多い民族では高血圧が多いことは明らかになりました。
しかし、その中間に属する大多数の民族については、食塩摂取と血圧の相関関係は認められませんでした。
食塩と高血圧について、一般に次のような説明がされます。「食塩を多く摂ると血液中の ナトリウム濃度を一定に保つためより多くの水分が保持され、血管壁を押し広げるため血圧が上がる」という説ですが、現時点ではまだ推測にすぎないことを念頭におく必要があります。
血圧を制御する因子はあまりに多く、原因を究明するための課題が山積みで結論に至っていません。
塩の摂取量を減らすことにより人体にもたらされる影響も考慮しなくてはなりません。
塩の摂取量が減ると、無気力、アレルギーの増加、がんや奇形の増加、病原菌に対する抵抗力の低下、認知症の増加などが指摘されています。
いきすぎた減塩にはくれぐれも注意が必要です。
また、血圧に関わると考えられているのは食塩ではなくナトリウムです。
調味料に含まれるグルタミン酸ナトリウムなどからもナトリウムを摂取していること、体液中のナトリウム濃度はカリウムとのバランスで決まることなど、単なる食塩の問題だとするのは安直であると言えそうです。
自然塩であればいくら摂取しても高血圧にならないという話をたまに見かけます。そもそも食塩非感受性高血圧の人にとっては、食塩だろうが自然塩だろうが血圧には関与しません。
食塩感受性高血圧の人は、腎臓でのナトリウム排出機能に障害が生じやすいことがわかっています。塩分を多くとると、腎臓の交感神経の活動が促進され、それにともない塩分の排出をになう遺伝子の働きが抑制されることで、血液中のナトリウム濃度が上昇します。
ナトリウム再吸収が主要因ですので、自然塩ならいくら摂取しても大丈夫というのはやはり極端な話ということになります。
精製塩を過剰に悪者扱いすることなく、自然塩を過剰に盲信することなく、自分に最適な形でミネラルバランスを整えていきましょう。