書籍「7つの特権:俺みたいなヤツらが社会を牛耳る訳」by Joris Luyendijk
オランダのジャーナリスト・人類学者のJoris Luyendijkによると、オランダ社会の中で要職についている人は、この7つの要件を全て満たしていることが圧倒的に多いと。
1.親の一人以上が、高学歴もしくは/及び中産階級以上
2.親の一人以上が、オランダ生まれ
3.男性
4.ストレート(性的指向はヘテロセクシャルで身体的な性と合致)
5.白人
6.中等教育がギムナジウムかVWO
7.大卒以上
著書"De Zeven Vinkjes(=7つのチェックボックス)"でこれら特権について述べたJorisさんの講演会に参加して考えたことをつらつらと。
*6.「中等教育がギムナジウムかVWO」注釈:オランダでは小学校卒業後、大まかな枠組みでは中等教育が、研究大学進学コース(ギムナジウム/VWO)、職業大学進学コース(HAVO)、職業訓練コース(VMBO)の三つに分かれる。
オレオレどうだ!ではなくて
Jorisさん自身もこの7つを満たしている。ちなみに全てを満たす人はオランダ国内で3%程度らしいので、決してマジョリティではない。しかし、政治家や企業の要職に就いている人を見てみると、ほとんどが7項目全て◎、となるらしい。
もちろん、「我々が優れているからだ!」というメッセージではない。そんなこと書いたらつまらなくて誰も彼の本を読まないだろう。そして、「大発見です!偉い人はこの7つの項目を満たしています!」というメッセージでもない。誰でも分かる通り、これは新しい情報ではなく、歴史上も綿々と再生産されている事象だから。マイノリティの背景がありつつも社会の中で浮上した側からの指摘はあるが(もちろん、もっとあってもいい)、Jorisさんは特権のある側から何ができるか?という問い。
雑に分けると1〜5は生まれつきの特権、6〜7は小学校卒業時の学力によるものだけど、6〜7も本当に本人次第かというと、そうじゃないよね、という話もあり。
7項目全てが✖️の人(例えば、両親ともに移民で大学を卒業しておらず低所得の家庭出身+女性+性的マイノリティ+有色人種+HAVOやVMBOの中等教育+大学に行っていない人)も逆にそんなに多くはないと思うけど、確かに全て✖️の背景でも"社会的に成功している人"となると、スポーツ選手とか芸術家になるのかな。
特権階級の人は特権を意識しない
これはその通りだと思う。中産階級以上のオランダ人両親の元に生まれた白人のストレートの男の子は、普通にレベルの高い中等教育学校から普通に大学に進んで、普通に就職できることが多いだろう。その背景には、勉強机のある自分の個室があった(→勉強に集中しやすく学力が上がりやすい)、習いごとをいくつもしていた(→のちにヨットクラブとかホッケークラブなど人脈の温床となる学生スポーツクラブに入りやすい)、ティーン時代から彼女がいた(→性的指向について悩む必要がなかった)、などなど、実は誰にでも準備されている訳ではない、恵まれた環境がたくさん積み重なっている。
Jorisさんが何度か講演の中で、「7つの項目を満たしていない人と、満たしている人で、同じ立場の二人がいたら、満たしていない人の方が圧倒的に優秀である」と強調していた。そりゃそうだよね、7つとも◎の男の子に常に吹いている追い風がなくても、同じポジションに上がっているんだから。
極端な例だけど、受験という場面で。
7つ◎ボーイ:普段から個室で勉強でき、塾に通っていて、受験当日の朝は専業主婦のお母さんが準備してくれた美味しい朝ごはんを食べて、同じように洗濯してくれた洋服を着て、受験会場までお父さんが社用車で送ってくれた
7つ✖️ガール:普段から家の手伝いをしていて、家に勉強する場はなく、受験当日は両親が夜勤上がりで寝ているため自分で朝ごはんの準備をして、弟や妹の朝の準備を手伝ってゴミ出しをしてから、生理痛で辛い中、電車を乗り継いで受験会場まで来た
優秀でしょ、強いでしょ、すごいでしょ、思いっきり支援したくなるでしょ、7つ✖️ガール。
外国に住むマイノリティとして
オランダ基準の7つの項目を自分に当てはめると、まぁ、性的指向はストレートで大卒で親も大卒だけど・・・ということで4つ◎。逆に言うと3つは✖️で、私みたいな立場でオランダ社会で"成功"している人はとてつもなく優秀で自力でがんばれる人だろうな。たま〜に、似た属性でオランダでもちゃんと立場を固めている人がいて、尊敬・尊敬・尊敬。
日本だったら・・・?あと一歩?
私が日本に住んでいたら、基準もローカライズされるはずなので、「2.両親のどちらかが日本生まれ」「5.モンゴロイド」の二項目も◎、女性なので一つは✖️のまま。ね、特権って案外、自動的。これを意識できるかできないか、なのかな。日本の基準だと7つのうち6つに◎が付く。
Jorisさんが強調していたのは、チェックボックスを満たすこと、あるいは自分の子どもが満たせるようにすることは目的ではなく、それは逆に本末転倒であると。
本当にその通りで、「日本だったら6つ◎」と安心する、と言う話ではない。
社会へのチャレンジ
Jorisさんが言いたいことって、こんなことかな。
社会の方針を決める立場の人たちの属性が、こんなに偏っていてはいけない。だってたったの3%で、かつ特権を意識しにくいような構造だから。社会は7項目◎男性の"普通"からは見えないこと、想像できないことばかりだから。
形ばかりの多様性として、7つの項目のうち1つだけ欠けている人を「特権クラブ」に入れて満足してはいけない。(例えば6項目◎女性とか、6項目◎有色人種の男性とか、6項目◎のゲイとか)
この姿勢では、結果として7つの項目を満たす人が特権的であることに変わりはない。準7項目◎とか、エセ7項目◎を産生したい訳じゃない。人事はかなり注意しなければいけない点かも。
似ている人たちばかりのコンフォートゾーンを作るな!一時的には心地よく、衝突も避けられるので楽かもしれないけど、議論の広がりに限界がある。例えば採用面接で、面接官も面接を受ける側も7項目◎だったら、それはそれはやりやすいだろう。「あ〜、君も開成から東大?しかもラグビー部だったの〜?僕もだよ。奇遇だねぇ。」みたいな世界が続くことを良しとしてはいけない。実際、画一的な組織の困難な場面における脆弱さはJorisさんだけでなく多方面から指摘されている。
特権を持っている人こそ、そうでない人の代理で発言できるはず。7項目◎の人たちは仲間も多いし、ちょっと議論を呼ぶような発言でも耐えられるでしょ、リスクをとりなさい。同じスキルセットを持ち、パフォーマンスのできる同僚で特権項目に違いのある二人がいた場合、特権項目が少ない人を絶対に、絶対に立てなければならない!自分と似た人を推したくなるかもしれないけど、それは意識して止めたまえ。
日本に通じるメッセージは!?
もう多様性の理解と自分自身を問い続けるレベルが違うよね・・・。日経新聞とかの一部メディアやアカデミアだったら、彼の持論を咀嚼して日本社会に展開してくれるかもしれない(期待!)
政治的なメッセージを書きたい訳じゃないけど、例えば自民党の地位のある人たちって、こんな人多くない?7項目を勝手に修正、項目を増やしてみた。
1.親の一人以上が、高学歴もしくは/及び中産階級以上
2.親が二人とも日本人
3.男性
4.性的にストレート
5.モンゴロイドというかアジア人というか日本人
6.学力の高い中学・高校出身
7.大卒以上
8.60歳以上
9.モノリンガルで日本語だけを話す
10.配偶者は専業主婦
11.東京もしくは他の大都市圏出身
12.同じ属性の仲間といることを好む
13.多様性は重要なテーマだが自分ごとではないと信じている