この恋に名前がついた日
結婚指輪をつけてるかつけてないかをじろじろ見てしまうのって、みんな経験があると思う。
3年前のプラトニックラバーとは、今は親友だ。
もう6年越しの彼女とついに結婚した話を聞いた時は、もう手の届かないところに置いてかれてしまったと思ったのも2年前になる。
最近とある仕事で久しぶりに彼に会った。
人前に出る仕事を気にかけて、既婚者であることは公にしていないために普段指輪はつけてないのだけど、このコロナで在宅ワークにでせっせと制作している彼は、この時期だからか改めて指輪をつけていた。
そりゃそうだ、この時期じゃないにせよだって結婚して2年も経てばいろんな状況が変わるもの。
そうやって、いつだって彼に先を越されては置いてけぼりにされ、ずっと近くにいるようで埋まらない距離を感じると、言えない物寂しさが私にはある。経験も愛も未来も。言わなくてもわかってる「友情」を信じているし、誰がみても大の仲良しである事実が、彼と友達として一緒にいることを許されている。そんな気分だ。
お互いをよく理解しあっているから、奥さんや彼氏のことは普通に話すし、「よろしく伝えてねって伝言預かってきたよ」なんて会話もできる。
私たちは「好き」「会いたい」という言葉はもう二度と囁けない、囁かないくらい、清々しい。今の関係はあの時、一生の仲良しでいることを約束して駆け落ちしなかっただけのことはあるくらい価値ある友情だから。
自分しか知らない彼だと思ってたのに、それよりもっと知っている相手がいることに恐怖心を感じることはないけれど、でもきっと、奥さんには見せない友情だからこその顔やテンションや言葉や愛があると思ってる。
結婚と恋は違う。
3年前、完全に私たちは恋に溺れていた。出張の多い彼は毎日電話をくれた。些細なことでも連絡をくれて、面白いものはどんどん共有し、二人しか知らないことをたくさん増やしていった。
でもセックスはしない。
私はセックスするまでの止められない情熱を味わうのがたまらなく好きなのに対して、彼は超がつくほどの潔癖。シールの裏の黄色い部分に毛がついてるのが嫌で、シールが触れない、という不思議なエピソードも持つほどなので相当だ。
だから彼とはキスまで。たった一度だけ、内緒で朝からディズニーランドへ遊びに行った帰り、帰らず二人で泊まったビジネスホテルで、セックスを断られたことがある。その夜私は嫌われたと思ったけど、翌日彼は普通にキスしてくれて、一緒に笑ゥせぇるすまんを見た。先に彼はホテルを出るときもキスしてくれて、その後もちゃんと電話をくれた。
数週間経って、この気持ちは何かを考え始める。
好きと言えば浮気になる。浮気には、少なからず責任を持たなければいけないから、私たちのことではない。それに、私はもともと彼を、奥さん(当時は彼女)から横取りする気はさらさらない。
でも好きだしあなたに恋してることを言った。僕もそうだと言った。
本意とは違うかもしれないけど、いわゆるこれもプラトニックラブだと言うことを調べてみて知ったので、初めての単語を教えてあげると、彼はすっと納得した。
言葉の力はすごい。二人の気持ちに名前がついた日だった。
でも私たちはいろんなところへ出向く仕事柄の上、不治の恋愛至上主義を生き抜く性質にあるから、少しずつ名のある恋心を冷ましていった。寂しいけど、それで良かったのだ。
冷めて半年、それでも彼は普通だった。いつの間にか好きとは言わなくなってしまって、なかなかデートしてくれなくなったけど、それでもやっぱり心の絆は誰にも邪魔されず、大親友と言えるものになって今がある。
誰にも言えなかったけど、大好きな彼。
今でも大好きで、趣味やヘイトが一緒。
だからプラトニックラブにたどり着いた二人は、とても純粋で厄介なのだ。