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はじめて本を一冊書いた話

『デザインのつかまえ方 ロゴデザイン40事例に学ぶアイデアとセオリー』(MdN)という本を書きました。私の初めての単著となります。今回のnoteでは、どのように一冊の本を書いていったのか、どのような点に苦労したのか記録してみようと思います。

本の内容は前回のnoteで記したので、ご興味ある方はぜひご覧ください。


1.執筆依頼

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2017年の正月明け、デザイン書を多く発行しているMdNコーポレーションの編集者、後藤憲司さんから下記のようなメールを頂きました。

小野さんご自身で一冊書いてみる気はありませんか?小野さんが何を書きたいか、デザインにおいていまどんな本が必要か、一緒にブレストしながら探っていきませんか?

後藤さんは共著本「ロゴデザインの現場」(2016 MdN)の編集ご担当です。前著に続きでもう一冊どうでしょうか?という嬉しいお声がけだったので、すぐに「ぜひ書いてみたいです」というメールをお返ししました。

そして最初の打ち合わせ。MdNさんに伺うのはこれが初めてでした。

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こうして「どんな本を書くか」という企画を練りはじめました。しかし、書籍を企画することは想像以上に難しく、一筋縄でとはいきませんでした。

※注 「ロゴデザインの現場」は代表著者の佐藤浩二さんからお誘いいただいて執筆参加したので、本の企画を考えるのは今回が初めてのことでした。


2.企画を考える

記録を見返すと、企画がまとまるまで2年くらいかかってしまいました。通常の仕事の合間を縫っての企画だったこと、自分なりに新しいアプローチで本を書きたいけれど、それがどういうものなのか、なかなか見えてこなかったことがとても時間がかかった理由だと思います。編集の後藤さんとは、何度もメールでアイデアを交換したり、書店にいって最近のデザイン書の傾向を見るなどしながら、少しずつブレストを進めました。色々な企画を一緒に考えましたが、その一部をご紹介します。

企画案『ロゴデザインに使えるアイデア 100(仮)』
-ロゴを擬人化する
-信頼感を出すには
-ロゴは新たな漢字、象形文字を作るようなこと
などアイデアやノウハウを100個列記して、デザインのトレーニングを積めるようなもの
企画案『小野がセレクトする、国内外ロゴ名作選』
ロゴファンというのはデザイナーに限らずいる。学生、専門家、一般でも楽しめるような本。ロゴ好きのための、シンプルで美しいロゴ本。見て楽しめ、飾っても映える本。

自分の仕事分野である「ロゴ」や「ブランドデザイン」についての本を書きたいという想いはありました。当初は『デザインのつかまえ方』とは異なるアプローチの企画も考えていましたが、なかなか決定打にはなりませんでした。

これらの企画案について、編集の後藤さんと話したこと。

ロゴアイデア集や名作選というのは、本としてはたくさんあるのでもう少し別の企画も練っていきたいですね。

「ロゴデザインの現場」はプロセスを丁寧に追うことを大切にした書籍でしたが、もっと踏み込んで「デザインにおけるブレイクスルーの瞬間」とか「ブラックボックスにも見えるデザイナーの思考」を解き明かすことができたら面白そうです。

あと、「福笑いサインとかもヒントになりそうですね。小野さんの場合、根源的にデザインを楽しむという内容も書けそうです。

引き続き、「こんな本にしたい!」という部分を考えてみてくださいませ。本には「読者にわかりやすく覚えてもらえる何か」も大切です。小野さんのこだわりの本、愛の詰まった本にしましょう!

なるほど。。。自分はこんな本にしたい!書いてみたい!という強い気持ちが、上記企画案では弱かったかもしれません。

自分はどんな本を書きたいのか、本で伝えたいことは何なのか、そもそもデザインを通して自分がやりたいことって何だっけ?という原点に立ち返る必要があるなと気がつきました。

※福笑いサイン 私のオフィスに設置したロゴサイン。元々使っていた笑顔のONOマークに遊びの要素を加え、日々表情を変えることができる福笑いとして発展させたもの。

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3. 『デザインのつかまえ方』をつかまえた瞬間

そこで「こんな本にしたい!」「本を通して伝えたい!」という想いを込めて、改めて企画書を書いてみました。

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この時考えていたこと

・ロゴデザインはプロセスも大切だけど、課題設定が大事。正しく課題や目的を理解できてこそ、アイデアの核やコンセプトをつかまえられる。デザインの「課題と解」を分かりやすく書きたい。

・デザイナーの頭はブラックボックスみたいに思われている。デザインの核をつかまえた瞬間について、これまでの実例を紐解いて考えてみたい。できればそこにデザインの手法を見つけてみたい。

・デザイナー/デザインの面白さを伝える。これからデザイナーを目指す人にも、楽しみながらつくることの大切さや発想法を伝えたい。

上に掲載した手書きメモ、(字が汚いですが)書籍の骨子につながるアイデアがたくさん書いてあります。これが書籍『デザインのつかまえ方』をつかまえた瞬間だと思っています。

赤字で「漫画」とも書いてあります。この時は全ページ漫画で描かれたデザイン実用書って面白いかも!?とぼんやり考えていたのでした。最終的にはドラえもんっぽいカバーイラスト(by むぎわらしんたろう先生)や、本編でイラストを用いるという方向に繋がっていきました。


4.方向性が決まる

編集の後藤さんとさらに企画をつめ、以下のような紙面イメージがみえてきました。本の判型は13cm×13cmくらいの小さい手のひらサイズ、ロゴ1案件につき4ページの構成で、デザインの「課題と解」がサクサク読み進められるものを目指すことになりました。

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書籍のタイトル案も同時に考えました。「デザインのつかまえ方」という書籍タイトルですが、当初は「アイデアの捕まえ方」でした。その他の案も章のタイトルや執筆内容へと繋がっていきました。

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下の表は最初の台割り(ページ構成案)です。このようにして全体のおおまかな構成や書きたいことを考えていきました。章の名称は変わったりしていますが、書きたいことはこの時からブレることはありませんでした。

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このようにして企画の方向性が決まり、本格的に執筆がスタートしました。この時点で2018年の年末くらいになっていました。


5.イラストも描きます宣言

今回の書籍、執筆だけでなく本文デザインについても私が担当することになっていました。それだけで大変なことは容易に予想できたのですが、「本文中のイラストも自分が描きます」と編集の後藤さんに宣言してしまいました。

イラストレーターさんにお願いするという考えもあったのですが、イラストの役割が「デザインの瞬間や核心を伝える」ということであれば、ロゴデザインを担当した自分自身が、デザインした時の記憶をたぐりよせながら描くことが、イラストの巧拙より大切なことだと考えました。企画書段階では写真での表現を考えていましたが、イラストの方が紙面として面白くなるだろうとある種の確信をもっての宣言でした。

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下記は書籍に載せたイラストの一部です。それぞれロゴの発想のヒントになった「かたち」「ことば」「道具」「行動」「シーン」などをイラスト化しています。これらのイラストは、デザインが像を結んだ瞬間、「自分の頭の中に浮かんでいた最も大切なイメージ」を再現することを大切にしました。当時のスケッチは残っていますが、それだけでは伝わらない部分を含めてイラストを書き下ろしています。これらをロゴ40案件分描いていくことから執筆がはじまりました。

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下記は完成した紙面の一部です。クイズ形式のように、ロゴとイラストをヒントにしながら、そこに込められた想いや、どのようにデザインをつかまえたのかを想像しながら、詳細な解説を含め読むことができます。

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イラストはラフスケッチをしたあとに、WACOMの液晶ペンタブレットで描いていきました。


6.一番苦労したところ

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この本の第1章は、書籍名と同じく「デザインのつかまえ方」としました。ロゴデザインの手法を俯瞰で見て、ステップごとに言語化しています。この章は全部で40ページほどと、書籍全体から見れば決して分量は多くありません。しかし、この章が今回の執筆で一番苦労した部分になります。

この時感じていたこと表現したのが、上記のツイート。ロゴデザインの手法を分かりやすく、汎用性をもって解説する難しさに直面します。

当初トライしていたのは、40のロゴ事例をサンプルとして、ロゴデザインの手法を抽出・分類して解説できないかというものです。少しだけご紹介すると下記のようなものです。

①抽象化する・・・・・具象物の形を単純化しロゴをつくる
②具象化する・・・・・理念などのことばを形に変換しロゴ化する
③連想する・・・・・・何かに見立てたり思考を広げることでヒントを得る
④手を使う・・・・・・手を動かし造形することでアイデアを飛躍させる

どんなロゴも完成形から紐解けば①〜④のどれかに分類でき、その手法を解説できるだろう、という仮説です。しかし、原稿を書き進め、考えれば考えるほど、ロゴデザインは単一の手法で明確に分類できるものではなく、色々な思考や手法が複雑に絡まり合って、試行錯誤の末に出来上がっているということに気がつかされます。思い切って、ここまで書きすすめてきた第1章の原稿を白紙に戻す決断をしました。

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ヘッダー写真にも使ったこのメモは、上記の分類を考えていた時に書いていたものです。1章の執筆方針は途中で変わりましたがこのトライも決して無駄ではなく、「抽象化」などの手法は「デザインのつかまえ方」の章に織り込まれていきました。

最終的には下記のように、ロゴのデザイン手法を7つのステップで解説する構成になりました。ロゴデザインの技法を解説する側面と、試行錯誤するうえで大切なデザインとの向き合い方の側面、その両方が混ざり合ったような内容に着地しました。7つのステップを経ることで、より良いロゴデザインを目指す方のサポートとなる、そんな「つかまえ方」を提案しています。

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7.カバーデザインの検討

前回のnoteカバーイラストは、藤子・F・不二雄先生最後のチーフアシスタントを務められた「むぎわらしんたろう先生」に描いていただいたことをお伝えしました。今回は、むぎわら先生に依頼する前に試作した、いくつかのカバーデザイン案をご紹介します。

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既に書いたように、今回は誌面デザインやイラストも自分が担当しましたので、その流れで表紙イラストも自ら手掛けるという考え方もありました。しかし、企画段階で編集の後藤さんがおっしゃっていた

「読者にわかりやすく覚えてもらえる何か」も大切です。

という言葉を思い出したことが、プロの漫画家さんにお願いするきっかけとなります。自分だけの小さな世界で完結せず、信頼する方の力をお借りして、自分の想いを力強く表現してもらいたいと考えました。13cm角と小さい本ながらもイラストの力で、店頭でも目を引き、記憶に残るカバーデザインになったと思っています。

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8.ゲラとの格闘〜そして完成へ

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発売日も決まり、カバーデザインも完成。本文入稿の締め切りが迫る中、最後の最後まで確認・修正が続きました。繰り返しゲラをチェックする日々。

そして、とうとう『デザインのつかまえ方』は完成しました。最初のお声がけから3年もの月日が経っていました。見本紙が届いたときは本当に嬉しかったです。

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粘り強くご対応いただいた編集の後藤さん、DTPでご協力いただいたANTENNNAさん、お忙しい中原稿チェックしていただいたクライアントのみなさんには感謝しかありません。色々な人が関わって完成するデザインの仕事と同様に、本を作ることは一人では完結しないと強く実感しています。特に編集者さんとの二人三脚が、書籍作りの醍醐味だと思いました。


9.デザイナーの頭(ブラックボックス)は開いたのか

小学生のころ自由研究が苦手でした。普段の仕事には何かしらの課題があってそれに答えるべくデザインをしていますが、今回の書籍のように自由に企画を考えていく機会は自分にとって珍しいものです。そんな意味でも今回の体験は非常に貴重で、苦労もありましたが、はじめて本を一冊書き上げられたことは自信に繋がったようにも思います。

さて、当初の企画でもあった、「ブラックボックスにも見えるデザイナーの頭の中をみせる」ことができたのかという点についてですが、これは読者の皆様にご判断を委ねたい部分ではあります。しかし、現時点での自分の考えや経験をまとめ、出し切って執筆できたと思っています。大変嬉しいことに、デザイナーやデザイナー以外の方からも「わかりやすい!」という言葉をたくさん頂きました。

MdNさんが作成してくださった書店用POPのコピーもずばり「わかりやすい!」です。『デザインのつかまえ方』、店頭で見かけましたらお手にとってご覧いただけると嬉しく思います。

今回のnote、最後までお読みいただき本当にありがとうございました。

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↑Amazonのサイトで試し読みもできます。

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書籍を書く途中、デザイナーさんが書籍執筆について書かれたブログやnoteに勇気づけられました。感謝を込めて紹介させていただきます。ありがとうございました。

■「たのしごとデザイン論」の著者 カイシトモヤさんのブログ「カイシがグラフィックデザインの教科書をつくるブログ」

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■「なるほどデザイン」の著者 筒井美希さんのnote


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