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【月はいつも見ている 〜兎〜 】第1章 ep.07

数分前に出てきたばかりの駅へ、逆戻り。忘れ物をした訳でもないのに、そんな気分でヒロミと共に足を進める。沢山の仕事を終えて脱力した面持ちをした人たちが乗る電車の中へ

身の上話は、ひとまず置いといて、満員電車手前の車内。向き合って互いの呼吸が触れ合いそうな近い位置で、私より10センチ近く高いヒロミの胸元からは何かいい匂いがした。

薄々と感じている。以前、恋人のことを彼氏ではなくパートナーと言っていたことに。心なしか彼女は‥

男に懲りてきている私にとって、ひょっとして女性をパートナー、恋人にしたらって思いがあるかもしれないし、自分の本性が見つけられるかもしれない、今から行く東通りってところは色んなお店があって、ゲイバー、ビアンバーも多いところ。もし今から彼女に連れて行ってもらうとこがそういうとこだったら、いい機会かもしれない。大阪駅に着く数分の間考えていた。

そう思っている間に、列車は目的の駅に到着した。

「先にカミングアウトしておくけど、私はビアンなの。物心ついた時から男の子には全く興味がない、今まで何度か男性と付き合ったことあったけど、やっぱり無理っ!」

私の心の声が聞こえていた?思考が丸聞こえ?なんか怖いんだけど

「だからって、今ミユさんを誘ってどうこうって訳じゃないから、ノンケなのも見たら大体は分かるし、この間言っていたパートナーとも仲直りしたから、もしミユさんと付き合うことになったら浮気になっちゃうから。」

人だらけの地下街を抜け地上に上がると、つい数時間前に居た見慣れた風景。東通りを歩き横の脇道に外れる。

「私が、勤めているとこもこの辺。結構近かったりかも」

「かも、じゃなくて近いでしょ?私もその店行ってミユさん指名しようっかな?」

「無理無理!女性のお客さんって今まで来たことないもん!」

「冗談よ!冗談っ」

「差し支えなければ、どこの店で働いてるの?」

「⚫︎×$¨です」

「あ〜知ってる!そこで働いてる娘、何人か私がよく行くビアンバーに来るよ」

「えっ!うそ!そうなの?全然知らなかった。誰だろ。」

「そんなの言う訳ないじゃない!自ら私ビアンなのって!でも結構、ビアンの子って風俗で働いてる娘は、意外に多いよ!男に興味がないだけに割り切れるんでしょうね」

「私は違うよ、多分‥」

「私たちビアンはねぇ、普通の恋愛の壁だけでなく、ノンケというもう一つの大きな壁があるんだよね〜」

「大体、好きになる娘ってノンケなんだよね〜でもね、そのノンケの娘を口説き落とした時の幸せ感はハンパないけどね」

「じゃぁあ、今日は私を口説こうかと思ってたりして?」

「えっ!口説いていいの?でもごめんなさい!私ミウさんタイプじゃない(笑)」

「ハッキリ言っちゃうのねぇ!(笑)」

「ゲイもバイもビアンも、全部だと思うんだけど、カミングアウトしちゃうと、なんかみんな構えちゃうんだけど、誰でもいいって訳じゃないからね!私たちだって好みはあるんだから(笑)」

「今から行くお店は、ゲイの人もバイの人も来るなんでも来い的なお店、初めて入ったらかなり圧倒されるかと思うけど、言いたいこと言える。特化していないから出会いを求めてくる人はほぼいないから、ノンケの人も飲みやすい場所じゃないかな。」

「でも、ある程度のデリカシーは持っておいて欲しいの、ミユさんは大丈夫だろうけど、例えばタチとネコどっちなんだ?とか個人的にセクシャルなことを聞くのはNGだから、これノンケのオヤジがよくやっちゃうんだよね。平気で今から2人でキスするとこ見せろとか‥」

「そんな人居るの?」

「居る居る!ミユさんの職場だったら、本番ダメなのに、させろ!と言ってくる奴!」

「あ〜居てる!今日も一人いた」

間口の狭いビルの中に入って行き、階段で3階。突き当たりに一軒だけネオンが煌々と点滅している店がある

「ここよ!」

「ごちゃまぜBAR?」

「そう、お店の名前のまんまのお店(笑)」

鉄の冷たそうなドアをヒロミは勢いよく開けた

薄暗いカウンターだけの店内、お客さんはその薄暗い照明でシルエットだけが確認でき、カウンターの中には2人の男性スタッフが明るめの照明で顔立ちもクッキリと確認できた


「いらっしゃいませ!」


先に入ったヒロミの後、おそるおそる店内に足を踏み入れた。




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何事も中途半端だった今年で55歳になるじじぃ。クオリティーは求めずまずは小説を完結させることを目指して書いていきたいと思っています。 書き上げたエピソードは何度も書き直し手直しをしちゃいますので、その点を踏まえて読んでいただければありがたいです。

過食症を抱える風俗嬢と、定職をもたない6歳下の青年との同棲物語。

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