Sansan流PMFの測り方 〜爆速グロースの発射台〜
Sansan株式会社の尾花です。
Contract Oneという契約領域のDXを推進するサービスのゼネラルマネジャー(事業責任者)とプロダクトマネジャーを兼務しています。
私はSansanに入る前、自らスタートアップを立ち上げました。
経営している中で、PMF(Product Market Fit)という言葉を耳にタコができるほど聞きました。
自社のプロダクトがPMFしたのかしていないのか、思い切りよく投資しても良い状態なのか否か、いつも気になっていました。
また、同じKPIを説明しても投資家によっては「まだPMFしていないようですね」とおっしゃる方もいれば、「PMFをしてきた兆しが見られますね」とおっしゃる方もいました。
PMFについて調べると、以下のようなPMFのシグナルが書かれています。
顧客からの問い合わせが殺到する
顧客が顧客を連れてきてくれる
事業の成長に採用が追いつかない
調べれば調べるほど、私が思ったのは、
「PMF、さっぱり分からん」
です。
特にBtoBのビジネスの場合、プロダクトが勝手に売れることはなく、営業が売っていく必要があります。ますますPMFの測り方は難しいです。
私が現在所属するSansanでも、PMFという言葉がよく使われます。
新規事業立ち上げの際は、まずPMFを達成することが求められます。
Sansanの第三のプロダクトであるContract Oneも長い間PMFに向き合ってきて、ようやく達成しました。
その間、「PMFしているのかしていないのか議論」は尽きることがありませんでした。
本記事では、Contract Oneにおいて、何でPMFを測っていたのかを書きます。
PMFの測り方
チャーンレートの低さ
SaaSであればチャーンレートが低いことがPMFの必須要件です。
Sansanの各プロダクトの直近12ヶ月平均月次解約率は、公表されている2024年5月期の数値で以下の通りです。
Sansan:0.42%
Bill One:0.33%
解約率は1%を下回る水準であれば理想的です。
あわせて、更新解約率も確認します。
更新解約率は8%以下に抑えられていることを目標としました。
ただし、チャーンレートが低いだけでは、スケールさせる準備ができたとは言えません。
一度導入されたら解約されないプロダクトだったとしても、受注難易度が著しく高ければ、広く拡販していくことは難しいからです。
トップ営業の生産性
そこで、次に見るべきは営業の生産性、すなわち営業一人が獲得するNew MRRをみます。
SaaSはスケールさせる際に、営業の人数を急増させることが求められます。
営業を増やしてよいかどうかを判断するためには、チャーンレートが低いことに加えて、営業の生産性が向上しているかを確認する必要があります。
スケールさせると生産性は下がっていくことを見越して、「トップ営業が1人で3ヶ月あたり100万円以上のNew MRRを獲得しているか」をPMFのシグナルとしました。
これだけだと特定のバックグラウンドがあり、初期フェーズならではの経験を積んだ1人の営業しか売れないプロダクトになっている可能性があります。
営業の再現性
トップセールスだけが売れるのではなく、複数人の営業が再現性高く受注を生み出せる状態になっているかをみていきます。
複数のシグナルから確認します。
リードタイムの短縮
リードタイムはSMB向けのプロダクトであれば、1ヶ月以内であるべきと考えています。
そして、1ヶ月よりもさらに短い期間、例えば1-2週間での受注が生まれてくると、PMFのシグナルと捉えられます。
リードタイムの短縮は営業プロセスが洗練された証だからです。
期初・月初の受注獲得
期末・月末にだけ受注できるのではなく、期初・月初にも受注できているかも一つのシグナルです。
期末・月末には数字を積み上げるため、値引きも含めて追い込みをかけていくかと思います。
しかし、顧客の状況によっては、どうしても期末・月末に受注しきれず、翌期・翌月にながれてしまうことがあります。
そういった案件が、期初・月初に受注できることも、PMFのシグナルです。
期末・月末の勢いがある時だけ売れているのではなく、確実に商談を進められている証になるからです。
新規参画メンバーの立ち上がり
新規に参画した営業メンバーが早期に立ち上がることもシグナルの一つです。
新しい営業メンバーは過去案件を持っていないため、既存の営業メンバーほど数字を積むことはできません。
社内異動なのか新規採用なのか等によっても異なりますが、参画した最初の四半期で既存メンバーの平均的な受注金額の2割〜5割を獲得できている状態を目指しました。
競合製品よりも高くても売れる
価格が低く設定していないかどうかも注意すべきポイントです。
受注率が20%を超えているようであれば、価格を低く設定してしまっている可能性を疑うべきです。
競合よりも高い価格を設定し、それでも勝てていることはPMFのシグナルになります。
組織としての自信
上記のようなシグナルが見られるようになった時、組織として数字を積んでいく自信が持てるようになっているはずです。
そして「組織として定めた四半期・月次の受注目標の達成」がPMFの最後の仕上げです。
PMFの後は事業計画に沿った急成長が求められるフェーズに入ります。
目標達成できる組織、すなわち勝つ組織ができたことをもって、グロースを開始しましょう!
【補足】リード獲得効率は気にしない
補足ですが、Contract One流のPMFの測り方では、リード獲得効率を測る指標は気にしません。
チャーンレートが著しく低いため、「LTV/CACが3倍以上」などの指標は満たしてしまうからです。
リード獲得効率の指標は、リード獲得施策の優先順位付けをするための手段として用います。
そのPMFは爆速グロースの発射台になっているか?
PMFを達成し、グロースフェーズに入った後、まずすることは「営業採用の加速」です。
営業1人あたりが獲得できるNew MRRには限りがあるため、事業自体のNew MRRを非連続に増加させるには営業人数の急増が必須だからです。
リードを増やすためのマーケ・インサイドセールスの採用や、カスタマーサクセスの採用も同時に進めますが、最もスケールが難しいのが営業です。
営業人数の増加に比例させて事業を急加速させられるよう、確実なPMFのシグナルが確認できるまでは、我慢、我慢です。
しっかりPMFを達成していないのに採用を加速させてしまうと、戦線が広がり、文化や熱量も薄れて、早晩行き詰まるからです。
この記事を読んでいる方もPMF前の苦しいフェーズにいらっしゃるかもしれません。
チャーンレートさえ低ければ一部の顧客にとっては欠かせないプロダクトになっていると言えて、PMFする可能性は十分にあるはずです。
プロダクトを立ち上げてからPMFするまで数年かかることもあります。
Contract Oneも正式リリースされた2022年1月からPMF完了まで2年8ヶ月かかりました。
いつかやってくる夜明けを信じて、プロダクト・営業組織を磨き続けましょう!
Contract Oneは採用加速しています!
Contract Oneでは上記のシグナルを全て満たしてPMFを達成したため、採用を加速させています!全方位採用していますので、ぜひご応募ください!
明日は新卒最速昇格でContract OneのCSマネジャーを務める青木が発信します!楽しみにしていてください!
--過去記事--
PMF達成のためプロダクトをどのように進化させてきたかは、こちら↓に書きました。
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