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小原浩靖映画監督日記:146 豊岡劇場

今回から試しに日記のタイトルを変えてみる。日記番号は引き継ぐ。

2024/11/24 晴~雨。
2020年作品『日本人の忘れもの フィリピンと中国の残留邦人』が兵庫県豊岡市の豊岡劇場で11/22~27の6日間上映された。
この上映は、昨年8月に大阪のシアターセブンでご覧くださった豊岡市国際交流会館の久木田里奈さんが劇場にリクエストして実現した。

上映リクエストしてくださった久木田さん   手書きの作品解説がうれしい

豊岡市は人口の約1%にあたる845人が外国出身の移住者(2019年市調べ)で、人口減少しつつもベトナム、中国、フィリピン、韓国などなどから来た人が増えているそうだ。豊岡市国際交流会館は、外国出身者やその家族が暮らしやすく交流するための拠点で日本語教室やイベントを活発に行っている。

豊岡劇場は1927年に芝居小屋から始まった劇場でコロナの影響で一時閉館した後、有志市民の手で復活した。映画館は街の文化拠点であり交流の場でもある。全国のミニシアターには豊劇のように市民の手で復活し、運営されていることが多い。

豊劇の支配人・田中亜衣子さんから11/24の上映後に久木田さんが中心になって感想共有会が行われるとうかがった。ちょうど自分が実家に帰省しているので、これは行かねばならんと車を走らせ参加させていただいた。実家から2時間半の道中は実に素晴らしかった。紅葉の山々が時々雨雲に遮られながら斜光に照らされて表情を変える。スペクタキュラーな風景とはまさにこのことだ。

豊劇に到着すると、入り口のベンチにフィリピン人のお父さんと6歳くらいの男の子が座っていた。あとから分かったが、お母さんが拙作を観に来られていて終わるのを待っていたのだ。一瞬お母さんとお会いしたが、たぶんフィリピン残留日本人3世の方だと思う。


支配人の田中さんにご挨拶し上映中の劇場の中を案内していただく。天井が高く、階段や手すりの隅々に品のある装飾を施した堅牢な造りは子どもの頃にうちの近所にあった劇場を思い出させてくれる。劇場にうかがったら自分は必ず映写室に入れてもらう。スクリーンに投射する小窓からお客様の姿を見るのは格別の気分だ。自分はこの風景を世界一美しいと思っている。

テーブルがある珍しい客席


久木田さんと再会。なぜ豊劇に上映をリクエストしてくださったのかを詳しくうかがった。国際交流の担い手として豊岡で暮らすフィリピンの方々から残留日本人のことを聞いていたところに昨年本作を大阪でご覧になり、多くの気づきを得られたそうで、”ぜひ豊岡でも!”とリクエストしていただいたのだ。こういうお話しを聞いただけで来てよかった~と思う。ありがたいことだ。映画は作り手が思ってもいなかった広がりを見せてくれる。

映写室から降りると拙作の前に上映されていた『絶唱浪曲ストーリー』の川上アチカ監督を囲んでお客様との感想共有会が行われていた。ロビーの一角でお客様と監督が話し合うスタイルは舞台挨拶とは違う和気藹々さがある。

川上アチカ監督

川上監督の感想共有会が終わり、ご挨拶した。お互いに作品は観ておらず、もちろん初対面だったのだが、自分は『原発をとめた裁判長』主題歌の白崎映美さんから『絶唱浪曲ストーリー』を勧められていたこともあって勝手に親近感を持っていた。川上監督とすぐにドキュメンタリーを創る者同志の楽しい話しが始まって、さらに来てよかった~と思った。なんか昔から知ってる同士みたいな感覚だ。

上映が終わり、すぐに感想共有会が始まり川上監督もご参加。司会進行は豊岡地域おこし協力隊の杉本悠さんと久木田さん。10名ほどのお客様が参加された。年齢層は20代から70代くらい、この世代の幅はドキュメンタリーでは珍しくワイドでうれしい。久木田さんがこの会を主催した経緯やお仕事で接するフィリピン日系人のことをお話くださって自分も勉強になった。
質問の時間では、本作が社会的にどういう役割を果たしたかを訊ねられたので、2022年3月に国会でワンシーンを引用されて岸田首相がフィリピン問題の解決に具体的に動き出したことをお話しした。みなさんから拍手が湧いた。他には制作のきっかけやフィリピン残留日本人の現状などもお話しした。特に制作当時の残留者数1069名が今500数人に減ってしまったことをお話しすると、劇中の「問題が解決する前に消滅してしまう」という言葉の意味を深く理解していただけたように思った。
1時間ほどの熱気を帯びた座談会が終わっても質問してくださる方が多く、ほんとうに来てよかった!と心が湧き立った。

自作フリップで解説する久木田さん  カニポーズをキメる川上監督

さて、そろそろお開きかと思った頃、杉本さんが「打ち上げの買い出し行く」とのことで、川上監督と一緒について行った。近所のスーパーに車でGO。杉本さんがこの時期の豊岡といえば、せこガニとイカと言うので閉店間際、というかほぼ閉店の店内にダッシュ。売り場にカニがなかった!が、絶対に冷蔵庫に仕舞ったばかりだと勘が働き、店の人に訊くとすぐに出してくれた。ちょうど打ち上げ参加人数分が残っていた。イカも無事に手に入れ、さらに豊岡と言えばの、へしこを入手。なんだか撮影隊のロケ打ち上げ買い出し気分にもなって楽しく、またまたまた来てよかった~!と思った。

営業終了した劇場に戻るとロビーは打ち上げ会場に。へしこを焼くのか焼かないのかの議論の末、へしこを焼く香りが充満するロビーで打ち上げが始まった。

へしこの香り漂うロビーにて

19歳のアルバイト男子(日本を代表する劇作家平田オリザさんが学長を務める豊岡市の芸術文化観光専門職大学に通う)や島根の海士町からインターンで来ている20代の女子、ほか豊劇を支える市民のみなさんと川上監督、全8名での打ち上げは何を喋ったかよく憶えていないくらい話題が多岐にわたり、また、カニのせいで訪れた黙食タイムも豊かなひとときであった。こういう展開になるとは思ってもみなかった。ほんとうによかった。映画がこの一日を自分にプレゼントしてくれたと思うと、実にSF的でロマンが溢れていた。川上監督と再会を約束し、豊岡のみなさんには新作を持って再訪することを約束した。

実家への帰路は深い深い夜霧に包まれて実に幻想的であった。

豊岡劇場
https://toyogeki.jp/

『絶唱浪曲ストーリー』
https://rokyoku-movie.jp/

<『原発をとめた裁判長』公式サイト >
https://saibancho-movie.com

<『原発をとめた裁判長』上映会サイト>
(上映スケジュールもご確認いただけます)
https://saibancho-movie.com/wp/

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