鬼殺しの目
これは決して、鬼滅の刃のパクリなんかではない。
気になる方は、まあまず読め。
鬼滅の刃が流行る少し前のこと。
私は、車で図書館に行っていた。
その途中、隣で運転していた父が、口を開いた。
「鬼殺しの目」
「ん?」
「鬼殺しの目という題名で、なにか物語を考えてみよう」
突然何を、と思ったが別に断る理由もないし、得意分野だと思い、賛成した。
「まずは、主人公は?男?女?」
「男にしよう」
「年齢は、どうする?」
「え〜・・・24歳」
「名前は?」
しばらく考え、変な名前が好きな私は、紗丸史貴(しゃまるふみたか)にした。
「よし、じゃあそれで一筆どうぞ」
父にバトンを渡され、私は考えた。
鬼殺しの目、か。鬼を殺す目・・・。
ふと、思いついたことから紡ぎ出す。
「あるところに、紗丸史貴という、24歳の特殊清掃員をしている男がいました。特殊清掃員とは、死体があった所を跡形もなくきれいに掃除をする人のことです。史貴は変わり者で、死体の一部をへそくる悪趣味がありました。死体がなければ、その部屋にあるものをへそくっていました。職業上、殺し屋から殺人の痕跡を消す仕事も任されますが、それ以外はちゃんと親のいる遺体なので、清掃員が入る頃にはもう死体はありません。なので、身元不明のという形での死体しかへそくれるカラダがおらず、そこから指や、眼球、歯、耳などを戦利品として持ち帰り、ホルマリンにつけて、部屋に飾っていたのです」
そこまで言って、話の続きを頭をフル回転させて考える。
「・・・とある仕事が回ってきたとき、いつものように戦利品を探していると、散らかった部屋の中から、虹色の輝きを持つ眼球がでてきました。それは乾いていましたが、水につけると、光を取り戻し、本物の眼球であることがわかりました。史貴は丁度いいと思い、それを持ち帰り、お気に入りの印に、とある所に置きました。ある日、史貴の家に泥棒が入りました。しかし、史貴と目があった途端、急に苦しみだし、突然死んでしまいました。そう、鬼殺しの目とは、犯罪者と目が合うと、その犯罪者を殺してしまう、文字通り、鬼(犯罪者)殺しの目だったのです。しかし、史貴はどうでしょう。死体損壊罪と、殺人幇助で立派な犯罪者です。なぜ鬼殺しの目と目が合っても死なないのか。それは、彼の特徴にありました。彼の最大の特徴は、片目がないこと。昔、何かがあったのか、普段は眼帯をつけて暮らしています。そう、鬼殺しの目は、彼の無い片目に入れられていたのです」
・・・ふう。我ながらいいお話ができた。そう思っていると、父が感想を言った。
「グロッ」
「え、そう?」
「うん・・・。まあ、特殊清掃員っていうアイディアは良かったよ」
褒められて悪い気はしない。
「次。お父さんの番」
今度は私がバトンを渡す。
「ある所に、究極のウイスキーを作ろうとしている紗丸史貴という男がいた。史貴は生まれてこの方、人生のすべてをウイスキーづくりに注いでいた。20歳になるまでは、飲まずに師匠のもとで、作ることに専念していた。あまりに好きなので、ついには、ウイスキーの香り、種類、成分、アルコールの度数などが目で見えるようになっていた。史貴は、外国に渡り、本格的にウイスキーを作ろとする。そこで驚かれたのが、この目。次第にこの目は恐れられ、鬼殺しの目と謳われました。ある日、鬼殺しの噂を聞いたマッサンという男が・・・」
「ちょっと待てぇい!」
聞いたことのある名前に思わず叫んでしまった。マッサンとは、昔の連続テレビ小説の主人公の名前である。ウイスキー造りに一途な主人公だ。
「ええ?なにか問題でも?」
とぼける父にだんだん笑けてくる。
「問題も何も、マッサンはいかんでしょ。マッサンは」
とか、言ってるうちに図書館についてしまった。
「ちぇ。ここから面白くなるのになぁ」
ブースカ言ってる父を笑いながら、心のうちで感動していた。
一つの言葉やアイディアから、こんなにも方向性の違う物語ができるとは・・・!物語では、その人の根ざしている考え方や、趣味などが顕著にでてくるが、こうも違うとは・・・。いやはや、他人とは面白いな。他人は、自分とは違う視点を持っていて、自分とは違うことに気づく。
その一抹の感動はすっかり忘れて、図書館で本を漁っている今日の午後であった。
人と考え方が違うことの何がおかしいのか。それを分かっているうえで自分の考えを押し付け合ったり、言論の弾圧などをする人は、異常者だ。
・・・とは言えない。なぜなら、誰もが歩む道だからだ。失敗は誰にでもある。それらを性格としないために、道徳というものがあるのだろうから。